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2023年09月04日

ウクライナの糖尿病患者さんを救いたい 世界で糖尿病とともに生きる人は5億人超 世界糖尿病デー

 戦火のウクライナの、糖尿病などの慢性疾患をもつ人々に医薬品や物資を届けるため、英国のロンドンから、ウクライナの首都であるキーウまで、自転車で2,500kmを旅するキャンペーンが開始された。

 「糖尿病による負担は、世界的に増え続けています。糖尿病の有病率・疾病・死亡リスクをめぐる、大規模な不平等があることが、事態をさらに深刻なものにしています」と、専門家は警笛を鳴らしている。

 11月14日の「世界糖尿病デー(WDD)」向けた、カウントダウンも開始された。

ロンドンからウクライナへ 自転車で2500kmの旅に

 国際糖尿病連合(IDF)は、1型糖尿病患者のジェリー・ゴアさん(62歳)が、英国のロンドンから、ウクライナの首都であるキーウまで、自転車チームをひきいて2,500kmの旅に出たことを発表した。

 自転車で、英国・フランス・ベルギー・オランダ・ドイツ・チェコ・ポーランドと移動していき、訪れた国々で啓発活動を展開し、ウクライナの糖尿病患者を支援するため、10万ユーロ(1,600万円)を目標に寄付を集めるとしている。

 戦火のウクライナの、糖尿病などの慢性疾患をもつ人々、とくに前線に近い地域に住む子供や若者、成人に必要な医薬品や物資を届けるために、欧州の糖尿病コミュニティを団結させ、連帯と支援を実現することを目指している。

 ゴアさんらのチームは、8月26日にロンドンのグリニッジ公園を出発した。計画を成功させれば、ゴアさんはこうした挑戦を達成した最高齢の1型糖尿病患者となる。

自転車でロンドンからキーウまで2,500kmを旅するキャンペーンを開始

出典:国際糖尿病連合、2023年

 ゴアさんは、2001年に1型糖尿病と診断された。その後、東南アジアなどの途上国の1型糖尿病患者を支援するため、非営利団体「Action4Diabetes」を創設した。IDFが立ち上げた、糖尿病とともに生きる人々のためのコミュニティ「ブルー サークル ボイス(Blue circle voices)」の主要メンバーでもある。

 「戦争の苦しみ、残酷さ、残忍さについて、多くの人が知っています。ウクライナの1型糖尿病を抱えて生きる人々は、生きていくために必要な薬や医療資材を入手するのが困難になっています」と、ゴアさんは語っている。

 「また、さまざまな慢性疾患を抱える人々も、危険な時を過ごしています。そうした人々を支援するために、ご協力をお願いします」としている。

世界で糖尿病とともに生きる人は5.3億人 不平等の解消が大きな課題に

 世界で糖尿病とともに生きる人の数は、2021年は5億2,900万人だったと推計されている。2050年には13億人以上と、2倍以上に増えると予測されている。

 先進国と途上国との格差が拡大し、低・中所得国では十分な糖尿病の治療や教育を受けられない人が多い。先進国でも社会的少数者(マイノリティ)は、糖尿病の有病率が高いにもかかわらず、十分な治療を受けられていなでいる。

 主要な医学誌である「ランセット」と「ランセット糖尿病・内分泌学」に発表された研究では、「糖尿病による負担は、世界的に増え続けています。糖尿病の有病率・疾病・死亡リスクをめぐる、大規模な不平等があることが、事態をさらに深刻なものにしています」と警笛が鳴らされている。

 「糖尿病は、現代における公衆衛生上の最大の脅威のひとつです。今後30年間で、あらゆる国や年齢層、性別で急速に増加し、世界中の医療システムに深刻な影響をもたらしています」と、米アルバート アインシュタイン医科大学のシヴァニ アガルワル氏は言う。

 「今後30年間に、糖尿病の有病率が低下する国はないだろうと予想しています。世界中で糖尿病の疾患・病気・死亡率が急増しています。とくに、オセアニア・北アフリカ・中東・カリブ海地域などでは、もっとも深刻な影響があらわれ、糖尿病の有病率が20%を超える国も出てきます」としている。

 「そのためには、社会から疎外された人々の健康に対する悪影響を取り除き、糖尿病をめぐる不平等を解消することが不可欠です」と、アガルワル氏は指摘する。

いま行動を起こさないと将来の世代が深刻な事態に

 国際連合(UN)は、世界が持続可能な開発目標を達成するために、糖尿病などの非感染性疾患(NCDs)を30%削減することを求めている。世界保健機関(WHO)は、糖尿病治療での不平等の解消に取り組むため、2021年に「グローバル糖尿病コンパクト」を立ち上げた。

 たとえば、米国の白人や裕福な人に比べて、アジア系、アフリカ系、ヒスパニック系の人や低所得者は、高価なGLP-1受容体作動薬による糖尿病の治療を受けられる可能性が低い。

 低・中所得国では、生命を維持するのに必要な重要な薬であるインスリンを購入できず、命を落としている人が多くいる。

 「世界で糖尿病とともに生きるすべての人々が、必要なときに、適切なケアを受けられるようにすることが必要です」と、アガルワル氏は言う。

 「糖尿病の治療と転帰における格差に効果的に対策するために、開発や研究のための資金を増やし、ポピュレーションレベルで持続可能な政策に適切な情報を提供することが求められています」。

 「いま行動を起こさないと、世界の現在および将来の世代の人々が、深刻な健康の危険にさらされることになります」としている。

11月14日は「世界糖尿病デー」
糖尿病のリスクを減らすために行うべきことは?

 毎年11月14日は「世界糖尿病デー(WDD)」だ。11月14日に向けたカウントダウンのキャンペーンも開始された。

 今年の世界糖尿病デーのテーマは「糖尿病:あなたのリスクを知り、対策しよう(Know your risk, Know your response)」。

 世界糖尿病デーは、国際糖尿病連合(IDF)が中心となり、世界160以上の国や地域の、10億人を超える糖尿病とともに生きる人々と医療従事者が参加して開催される。

 2型糖尿病とその合併症を予防したり、進行を遅らせるために、自分の糖尿病のリスクを知り、糖尿病の治療と管理をタイムリーに行うことの重要さが呼びかけられている。

 糖尿病の合併症は、食事や運動などの生活スタイルを改善し、服薬の遵守を守ることで、多くの場合は予防したり、発症を遅らせることができる。

 しかし、糖尿病を早期に発見し、適切な治療をしていないと、神経障害・網膜症・腎臓病・心筋梗塞・脳卒中・認知症・足病変など、生命を脅かす深刻な合併症が引き起こされる。

 「2型糖尿病のリスクのある人に、予防・早期診断・タイムリーな治療を支援するとともに、糖尿病とともに生きる人が、ご自分の糖尿病のリスクと、いま何をするべきかを知ることが重要です」と、IDFでは呼びかけている。

 「糖尿病とともに生きる人々にとって、自己管理をサポートするための適切な情報と、治療にもっとも適した医療サービスや医薬品・ツールにアクセスできることが、合併症を予防したり遅らせるために不可欠です」としている。

11月14日は世界糖尿病デー(WDD)

出典:国際糖尿病連合、2023年

世界糖尿病デー (国際糖尿病連合)
London to Kyiv charity bike challenge (国際糖尿病連合 2023年8月17日)
RideUkraine: London to Kyiv Cycle Challenge (JERRY GORE)
THE LANCET and THE LANCET DIABETES & ENDOCRINOLOGY: "Cascade of widening inequity" accelerating the global diabetes crisis (Lancet 2023年6月22日)
Global inequity in diabetes (Series from the Lancet journals 2023年6月22日)
90 days to World Diabetes Day! (国際糖尿病連合 2023年8月14日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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