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2023年06月14日

ウォーキングなどの運動で糖尿病の遺伝リスクを打ち消す 運動習慣を開始するのが遅すぎることはない

 家族に2型糖尿病の人がいるなど、糖尿病の遺伝的なリスクのある人でも、ウォーキングなどの運動を習慣として行い、体を活発に動かしていると、遺伝的リスクを打ち消し、糖尿病リスクを減少できることが、オーストラリアのシドニー大学などが約6万人を対象に行った研究で明らかになった。

 これまで運動をしていなかった人や、もう齢をとっているので無理と思っている人も、運動を開始するのが遅すぎるということはない。

 「どんな人にとっても、今日が運動習慣を開始する日です」と、研究者は述べている。

運動で糖尿病の遺伝的リスクを打ち消す

 2型糖尿病を発症する遺伝的なリスクのある人でも、ウォーキングなどの運動を習慣として行い、体を活発に動かしていると、遺伝的リスクを打ち消し、糖尿病リスクを減少できることが、オーストラリアのシドニー大学などが約6万人を対象に行った研究で明らかになった。

 ⽇本⼈の糖尿病の95%を占めるとみられている2型糖尿病は、遺伝的素因により血糖値を下げるホルモンでありインスリンが出にくくなる「インスリン分泌低下」と、環境的素因としてインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が加わり、血糖値が高くなり発症する疾患。

 研究グループは、遺伝的素因や食事や運動などのさまざまな環境的素因が健康や疾患にもたらす影響を調査している大規模研究「UKバイオバンク」に参加した平均年齢61.1歳の成人5万9,325人のデータを解析した。

身体活動レベルが高い人ほど糖尿病リスクは低い

 その結果、身体活動レベルが高い人ほど、2型糖尿病の発症リスクの低下と強い関連があることが判明した。とくに中強度から高強度の活発な運動を習慣として行うと、糖尿病リスクを低下するのに効果的であることが示された。研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に掲載された。

 「糖尿病などの慢性疾患を予防・改善するために、運動療法が重要であることが、あらためて示されました」と、同大学公衆衛生大学院医学健康学部のメロディー ディン氏は言う。

 「世界で糖尿病とともに生きる人の数は5億3,700万人とみられており、成人の10人に1人が糖尿病です。今回の研究は、2型糖尿病を予防・改善するための主要な戦略として、より高いレベルの運動や身体活動を促すのが重要であることを示しています」としている。

遺伝的リスクの高い人も運動により糖尿病リスクが74%減少

 研究の参加者は、研究開始時に手首に装着する活動量計により身体活動が測定され、その後、最長7年間にわたり健康状態が追跡して調査された。

 さらに、2型糖尿病の発症リスクの上昇に関連する遺伝子マーカーについても調べられた。遺伝的リスクのスコアが高い人は、スコアが低い人に比べて、2型糖尿病を発症するリスクは2.4倍に上昇した。

 しかし、1日にウォーキングなどの、中強度から高強度の活発や運動や身体活動を1時間以上行っている人は、それらが5分未満の人に比べて、2型糖尿病の発症リスクは最大で74%低下することが明らかになった。

 さらに、遺伝的リスクなど他の要因を考慮した場合でも、やはり運動を習慣として行うことは、糖尿病リスクの減少と関連していることが示された。

体を活発に動かす生活スタイルで糖尿病を撃退

 今回の研究では、もうひとつ説得力のある発見があった。糖尿病の遺伝的リスクは高いものの、身体活動量がもっとも多いグループに属する人は、遺伝的リスクは低いものの、運動不足のグループに属する人に比べて、2型糖尿病を発症するリスクが低いことが明らかになった。

 「つまり、2型糖尿病を発症する遺伝的なリスクのある人でも、ウォーキングや筋トレなどの運動を習慣として行っていると、遺伝的リスクを打ち消し、糖尿病リスクを減少でき、その効果は遺伝的リスクの低い人よりも高いということです」と、ディン氏は言う。

 「私たちは、遺伝的リスクや糖尿病の家族歴などをコントロールすることはできませんが、体を活発に動かす生活スタイルを通じて、2型糖尿病の過剰なリスクの多くを撃退できるということです。これは多くの人にとって、希望をもてるポジティブなニュースになります」としている。

 ディン氏によると、中強度の身体活動とは、少しきつめの速いウォーキングや、サイクリング、ガーデニングなど、軽く汗をかき、息がはずむくらいの運動だ。

 高強度の活発な身体活動には、エアロビック運動、ダンス、速いペースでのサイクリング、ゆっくりとしたジョギング、山登り、土掘りなどの負荷のかかるガーデニングなどが含まれる。少し呼吸が荒くなり、脈が速くなるくらいの運動だ。

運動を開始するのが遅すぎることはない

 「これまで、運動と糖尿病リスクについて調べた調査は、多くは参加者の自己申告のデータにもとづいており、規模が小さいものがほとんどで、遺伝的リスクとの関連を知るためには不十分でした」と、ディン氏は言う。

 「今回の研究の成果を社会と幅広く共有し、とくに糖尿病の家族歴があるなど、遺伝的リスクがある人々に、運動や身体活動が健康増進に役立つことを知ってもらう役に立てたいと思っています。

 これまで運動をしていなかった人や、もう齢をとっているので無理と思っている人も、運動を開始するのが遅すぎるということはない。「どんな人にとっても、今日が運動習慣を開始する日です」としている。

 ディン氏は個人的にも、60代の父親が最近2型糖尿病と診断されたばかりだという。ディン氏の父方の家族には2型糖尿病の病歴があるため、今回の研究の成果は家族や自分にとっても非常に勇気づけられるものだとしている。

 「2型糖尿病の家族歴がある人も、そうでない人も、すでに運動を行っている人も、活動的な生活スタイルを維持するために、モチベーションを高める情報提供が必要です」としている。

Can exercise help counteract genetic risk of disease? (シドニー大学 2023年6月5日)
Accelerometer-measured intensity-specific physical activity, genetic risk and incident type 2 diabetes: a prospective cohort study (British Journal of Sports Medicine 2023年6月5日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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