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2023年03月07日

「肝臓の検査」で糖尿病リスクをチェック 検査結果のγ-GTPとは何? ALT・ASTは?

 肝機能を調べるのに用いられる「γ-GTP」「ALT」「AST」の検査値に注意することは、糖尿病を予防・改善するために重要であることが示された。

 検査を定期的に受けて、これらの項目をチェックすることが、糖尿病リスクを知るための重要な手がかりになることが、国立循環器病研究センターの研究で明らかになった。

 とくに、過剰な飲酒が主な原因となり発症する「アルコール性肝障害」は、2型糖尿病とも関連が深い。アルコールを飲む人は、過剰な飲酒を避け、適量の摂取を心がけることが重要だ。

肝機能の検査で糖尿病リスクをチェック

 肝機能を調べるのに用いられる「γ-GTP」「ALT」「AST」の検査値に注意することは、糖尿病を予防・改善するために意義が大きいことが示された。

 肝臓は「沈黙の臓器」といわれており、肝臓の病気は自覚症状があらわれにくいので、定期的に検査を受けることが重要となる。

 過剰の飲酒が主な原因となり発症する肝障害は、「アルコール性肝障害」と呼ばれている。過度のアルコール摂取により肝臓に障害があらわれると、2型糖尿病のリスクも上昇することが、国立循環器病研究センターの研究で明らかになった。

 肝機能の異常は検査で発見できる。医療機関などで検査を定期的に受け、「γ-GTP」「ALT」「AST」の値をチェックすることが大切だ。

γ-GTP・ALT・ASTが高いと何が良くない?

 「γ-GTP」「ALT(GPT)」「AST(GOT)」は、肝臓の機能を調べるための検査項目だ。

 「γ-GTP」は、タンパク質を分解する酵素の一種。肝機能の指標にされており、アルコール性肝機能障害・肝硬変・慢性肝炎などの早期発見に役立てられている。

 「ALT(GPT)」は、酵素の一種で、肝臓に多く含まれている。肝臓になんらかの異常があって細胞が壊れていると、血液中に漏れ出てくる。

 「AST(GOT)」も、酵素の一種で、心臓の筋肉や骨格筋、肝臓に多く含まれている。心臓や肝臓などになんらかの障害があると、血液中に漏れ出てくる。ALTが正常でASTのみが上昇している場合は、肝臓以外が原因の可能性がある。

飲酒量が増えると糖尿病リスクは上昇

 適切な飲酒習慣により、適量のアルコールを摂取することで、糖尿病リスクはむしろ抑えられるという報告がある。

 しかし、適量を超えてアルコールを飲んでいると、肝臓に蓄積された脂肪に影響が起こり、膵臓からのインスリン分泌が低下したり、肝臓のインスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)などの影響がでてきて、血糖値が上昇しやすくなる。

 また、飲み過ぎにともなう食べ過ぎも、血糖値を上げる原因になる。

 日本人を対象とした調査で、とくに男性では、飲酒量が増えるにつれて糖尿病リスクも高くなることが示されている。

 とくに、やせている人では、アルコールによるインスリン感受性の改善というメリットよりも、インスリン分泌量の低下というデメリットの方が強くでる傾向があるという。

早期発見し対策することが大切

 2型糖尿病は、血糖値を下げるインスリンの分泌が低下したり、インスリンがうまく働かないことで、血糖値(血液中のブドウ糖の値)が高くなる疾患。

 糖尿病のリスクがある人が、適切な検査や治療を受けずに放置していると、網膜症・腎症・神経障害などの合併症が引き起こされ、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患や認知症、一部のがんの発症リスクも高まる。

 そのため、糖尿病を早期発見し、リスクの高い人は食事や運動などの生活スタイルを見直すなど、対策をすることが重要となる。

 今回の研究は、国立循環器病研究センターが、都市部地域住民を対象とした「吹田研究」を用い、肝酵素およびアルコール摂取量と糖尿病発症リスクとの関連について検討したもの。

 吹田研究は、同センターが1989年より実施しているコホート研究で、性年代階層別に無作為に抽出した大阪府吹田市民を対象としている。全国民の90%は都市部に在住していることを考えると、その研究結果は国民の現状により近い傾向があると考えられる。

γ-GTP・ALT・ASTの値が高いと糖尿病リスクが上昇

 研究グループは、同研究の参加者である30~79歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に循環器疾患と糖尿病の既往者を除外した5,972人(男性2,735人、女性3,237人)を対象に、糖尿病の新規発症を13年間追跡して調査した。期間中に597人が糖尿病を発症した。

 その結果、「γ-GTP」「ALT」「AST」の値が高かった群では、値が低かった群に比べて、糖尿病発症がそれぞれ、γ-GTP 1.98倍、ALT 2.02倍、AST 1.47倍に上昇することが明らかになった。

 肝臓酵素のγ-GTP、ALT、ASTの測定は、糖尿病リスクを知るうえで、意義が大きいことが示された。

適度な飲酒により糖尿病リスクは低下?

 研究グループは、お酒を飲まない人、過去には飲んでいた人に比べ、現在お酒を飲む習慣のある人の糖尿病罹患の相対リスクも解析した。その結果、適正に飲酒をしている人は、糖尿病リスクが低いことが示された。

 糖尿病罹患の調整ハザード比(95%信頼区間)は、適正飲酒者(1日のアルコール摂取量が男性 23.0g以下、女性 11.5g以下)で0.61倍に、中度飲酒者で(男性 23.0~45.9g、女性 11.5~22.9g)で0.80倍に低下することが分かった。

 ただし、過剰に飲酒している人(男性46.0g以上、女性23.0g以上)では0.97倍になり、アルコール摂取による糖尿病リスクの抑制効果は、飲み過ぎにより失われることが示された。

γ-GTP・ALT・ASTとアルコール消費量と糖尿病リスクとの関連
お酒を飲み過ぎている人は糖尿病の発症リスクが上昇

出典:国立循環器病研究センター、2022年

適正なアルコール摂取の指導も必要

 今回の研究は、飲酒習慣と肝臓酵素と糖尿病の新規罹患を13年間追跡し、それらの関連を都市部の一般住民で明らかにしたことに意義がある。

 現在、日本の特定健診・特定保健指導では、飲酒習慣調査(生活習慣調査)と肝臓酵素の測定が実施されている。

 「肝臓酵素のγ-GTP・ALT・ASTの測定は、糖尿病リスクを知るために意義があることを示しました。さらに、適量のアルコール摂取者では糖尿病罹患リスクが低いことから、過剰飲酒の人に適量のアルコール摂取を指導するためのエビデンスを示すことが可能になります」と、研究グループでは述べている。

 「これらから、特定健診・特定保健指導の現場で、肝臓酵素の測定値から保健指導する時には、アルコール摂取量も参考にする必要性が示唆されます」としている。

Alcohol consumption and other risk factors for self-reported diabetes among middle-aged Japanese: a population-based prospective study in the JPHC study cohort I (Diabetic Medicine 2005年2月16日)
国立循環器病研究センター健診部
Liver enzymes, alcohol consumption and the risk of diabetes: the Suita study (Acta Diabetologica 2022年8月16日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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