ニュース

2023年02月27日

糖尿病の人は「難聴」にもご注意 難聴が認知症リスクを上昇 予防とケアはこうする

 難聴のある高齢者は、認知症を発症するリスクが高いことが、米国のジョンズ ホプキンス大学公衆衛生大学院による新しい研究で明らかになった。

 認知症の有病率は、中度あるいは重度の難聴のある高齢者では、正常な聴力をもつ高齢者に比べ61%高くなるという。

 ただし、難聴のある高齢者でも、補聴器を使用するなど、適切なケアをしていれば、認知症のリスクは低くなることも分かった。

 糖尿病とともに生きる人は、そうではない人に比べ、治療を適切に続けていないと、難聴や聴覚障害になりやすいという調査結果もある。

 難聴を「他人事」と思い放っておかないで、予防やケアをすることが大切だ。

「難聴」が高齢者の認知症の発症リスクに寄与

 難聴(聴覚障害)の重症度が高い高齢者は、認知症を発症するリスクが高いことが、米国のジョンズ ホプキンス大学公衆衛生大学院による新しい研究で明らかになった。

 研究は、米国の全土で2,400人を超える高齢者を対象に調査したもので、難聴は時間の経過とともに、認知症の発症リスクに寄与する要因となることが示された。

 ただし、難聴を治療・ケアすることで、認知症のリスクを低下できる可能性があるという。

 調査結果は、米国医師会が刊行している医学誌「ジャーナル オブ アメリカン メディカル アソシエーション(JAMA)」にオンライン掲載された。

 「今回の研究は、難聴と認知症との関連について調査したものです。難聴を適切にケアできるようにすることが重要であることが、あらためて示されました」と、同大学院聴覚・公衆衛生センターの上級研究員であるアリソン フアン氏は言う。

「難聴」により社会生活にさまざまな支障が

 難聴になると、社会生活にさまざまな支障があらわれる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会によると、難聴には次のような影響がある。

  • 必要な音が聞こえず、社会生活に影響を及ぼす
  • 危険を察知する能力が低下する
  • 家族や友人とのコミュニケーションがうまくいかなくなる
  • 自信がなくなる
  • 認知症発症のリスクを大きくする
  • 社会的に孤立し、うつ状態に陥ることもある

 加齢による聴力の低下は、一般的に高音域からはじまるという。40代のうちは自覚することは少ないが、確実に高音域の聴力レベルは下がっていく。そのため、早期に予防することが重要となる。

 60代になると、「軽度難聴」レベルまで聴力が低下する音域が増え、聞こえが悪くなったことを感じる人が急激に増える。さらに70歳を超えるとほとんどの音域の聴力が「軽度難聴」から「中等度難聴」レベルまで低下してしまう。

 加齢にともなう難聴は、老化現象の一種なので、誰にでも起こりえることだが、進行を遅らせる、加齢以外の原因を避けるといった予防は十分に可能だ。

 同学会によると、難聴を予防するために、下記のような"耳にやさしい生活"を心がけることが大切だという。
大音量でテレビを見たり、音楽を聴いたりしない
イヤホンやヘッドホンで大きい音を長時間にわたって聴かない
騒音など、大きな音が常時出ている場所を避ける
騒音下で仕事をしている人は、なるべく耳栓をする
静かな場所で、耳を休ませる時間を作る

「難聴」のある高齢者の認知症の有病率は61%上昇

 「難聴は、70歳以上の米国人の3分の2に影響をもたらしている、重要な公衆衛生上の問題です。難聴が、米国で数百万人に影響をもたらし、認知症の発症リスクの上昇に関連していることを解明し、適切に治療できるようにする戦略を打ち立てる必要があります」と、フアン氏は指摘している。

 研究グループは今回、米国の「国民健康栄養調査(NHANES)」と「国民健康加齢傾向調査(NHATS)」から、米国全土で2,400人を超える高齢者のデータを収集した。

 NHATSは国立老化研究所(NIA)の支援を得て、2011年から継続されている、高齢者を対象とした大規模研究だ。今回の研究では、最終的に2,413人の高齢者(半数が80歳以上)を解析の対象とした。

 その結果、中度あるいは重度の難聴のある高齢者の認知症の有病率は、正常な聴力をもつ高齢者に比べ、61%高いことが分かった。

 ただし、中等度あるいは重度の難聴があっても、補聴器を使用している853人の高齢者では、認知症の有病率は32%低下することも示された。

「難聴」はうつ病の原因にも 適切にケアすることが大切

 加齢性難聴などの治療は困難だが、補聴器で聞こえを補うことは、認知症の予防につながることが示された。

 これまでの研究では、難聴は認知症だけでなく、うつ病の発症とも深く関係していることが示されている。難聴を適切にケアすることは、とくに高齢者の生活の質(QOL)を低下させないために重要だ。

 そのほかにも、騒音性難聴は、"耳にやさしい生活"を心がけるなど、予防が重要となる。また、外耳や中耳に原因のある伝音難聴は手術で改善するケースもあり、重度難聴の場合は人工内耳手術により聞こえが戻ることもあるという。

 ジョンズ ホプキンス公衆衛生大学院などは、850人の高齢者を対象に、「高齢者老化・認知機能健康評価(ACHIEVE)研究」も進めている。

 この研究では、聴覚ニーズの評価や補聴器のフィッティング、教育・カウンセリングなどを含む聴覚ケアや、1対1の個別セッションにより、高齢者の健康をどれだけ守れるかを調べている。

 この約3年間のランダム化比較試験の結果も、2023年中に発表できる予定としている。

Diabetes and Risk of Hearing Impairment in Adults: A Meta-Analysis (Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 2013年1月1日)
New Study Links Hearing Loss With Dementia in Older Adults: Findings highlight potential benefit of hearing aid use (米ジョンズ ホプキンス大学公衆衛生大学院 2023年1月10日)
Hearing Loss and Dementia Prevalence in Older Adults in the US (Journal of American Medical Association (JAMA) 2023年1月10日)

Deafness and hearing loss (世界保健機関 2021年4月1日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲