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2022年12月23日

1型糖尿病の発症を遅らせる薬を開発 米FDAが承認 1型糖尿病そのものの新たな治療法として期待

 1型糖尿病の発症を遅らせる作用のある新しい免疫療法薬が、世界ではじめて承認された。

 1型糖尿病を予防するための治療法の開発は、過去数十年に世界中で取り組まれていたが、今回はじめて成功し実用化された。

 免疫療法は、「1型糖尿病の症状ではなく、病気そのものを治療する新しい治療法」として期待されている。

1型糖尿病は自己免疫疾患

 米国食品医薬品局(FDA)は11月17日、1型糖尿病の発症を遅らせる作用のある新しい免疫療法薬「テプリズマブ(商品名:Tzield)」を承認した。

 「テプリズマブ」は、米国のカリフォルニア大学などにより開発された、1型糖尿病の発症の遅延を適応とする世界ではじめての医薬品だ。

 糖尿病には、1型、2型と呼ばれるタイプがあり、それぞれ発症メカニズムが異なる。

 1型糖尿病は、主に自己免疫により、インスリンを産生するβ細胞が破壊され、血糖を下げるインスリンの分泌が失われることで発症すると考えられている。あらゆる年齢層で発症しうるが、小児や若年成人での発症が多いとみられている。

 世界で1型糖尿病とともに生きる人の数は約900万人。1型糖尿病は、糖尿病の95%を占める2型糖尿病とは、発症要因や治療の考え方はまったく異なる。

 2型糖尿病は、体質などの遺伝的な要因と環境的な要因(過食や運動不足などの生活習慣、肥満、加齢など)が合わさり、インスリン分泌の低下やインスリンの働きが悪くなることで発症するが、1型糖尿病はどちらも関係がない。

1型糖尿病の発症を遅らせる薬を開発

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の糖尿病研究や基礎研究、免疫学を専門とする研究者らが協力しあい、「テプリズマブ」を発見・検証し、さらには臨床試験を実施し開発に成功した。

 「1型糖尿病の治療は、注射やポンプにより、生涯にわたりインスリンを補充するものです。新たに開発した新しい治療法は、インスリン分泌の喪失につながる自己免疫のプロセスを標的としています。これを止めることで、1型糖尿病の発症を少なくとも2年間遅らせることができます」と、UCSF糖尿病センターのマーク アンダーソン所長は言う。

 抗CD3モノクローナル抗体である「テプリズマブ」の開発には、著名な免疫学の学者であるジェフ ブルーストーン氏らも参加している。「開発研究は36~37年前にはじまっており、承認されるまでに長い道のりがありました」と、ブルーストーン氏は言う。

 2002年に医学誌『ニュー イングランド ジャーナル オブ メディスン』に発表された最初の成果は、1型糖尿病を発症したばかりの患者を対象としたもので、すべての膵島が破壊される前に「テプリズマブ」を投与することで、1型糖尿病の進行を予防・改善できることが示された。

 「テプリズマブにより、糖尿病の発症前の状態に戻すことはできないにしても、その進行を遅らせることができることをはじめて実証しました」と、ブルーストーン氏は説明する。

1型糖尿病の発症に備える時間と余裕をもたらす

 アンダーソン氏や小児内分泌学の専門家であるスティーブン ギテルマン氏も加わった研究グループが全国で実施した臨床試験では、「テプリズマブ」を14日間、単回投与することで、1型糖尿病の発症リスクの高い小児や成人の患者で、1型糖尿病の発症が平均2年間遅延することが示された。

 「試験結果は、テプリズマブが1型糖尿病の進行を遅らせることを実証した、画期的なものです。私たちは過去数十年にわたり、1型糖尿病の多くの予防治療を試みてきましたが、それに成功したのは今回の試験がはじめてです」と、ギテルマン氏は言う。

 1型糖尿病の治療を促進する研究を支援する活動を世界的に展開しているJDRFは、「テプリズマブ」の基礎研究がはじまった20年以上前から開発を支援しており、臨床試験にも協力している。

 JDRFは、かつては「若年性糖尿病研究財団」と呼ばれていたが、1型糖尿病が子供だけでなく成人が発症することも多いことが分かってきたことから、すべての1型糖尿病の人が健康を維持しながら長生きできる社会の実現を目指し、名称を「JDRF」に変更した。

 「1型糖尿病のバイオマーカーをもち、発症リスクが高いと判定された人で、糖尿病の発症を遅らせることで、負担を減らせ、眼・腎臓・神経・心臓病などに起こる合併症のリスクを軽減できるようになります」と、JDRFの最高科学責任者であるサンジョイ ドゥッタ氏は言う。

 「とくに小児の患者さんや保護者にとって、血糖値のモニタリングやインスリン投与は大きな負担になっており、感情的な重荷も多いのですが、この薬を使うと、数年はこれらから離れられる可能性があります。将来の1型糖尿病の診断に備えるための時間と余裕を、ご家族にもたらすことができます」としている。

なぜテプリズマブは動向をゲームチェンジャーとして期待されているか?
JDRFの研究パートナーシップ担当ディレクターのレイチェル コナー氏は、「テプリズマブは1型糖尿病に対する画期的な新薬になる」と解説している。

1型糖尿病そのものを治療する治療法として期待

 1型糖尿病の研究に携わる医師と科学者による国際ネットワークである「TrialNet」では、過去20年間で、1型糖尿病患者の20万人以上の親族からデータを収集してきた。

 これにより、自己免疫疾患を発症し、1型糖尿病の発症に進展する可能性の高い人を特定することができるようになっているという。1型糖尿病の新たな診断は、米国だけでも毎年6万4,000人に上る。

 小児科医のコーリー ワート氏の娘であるクレア ワートさんは、1型糖尿病のバイオマーカーがあり発症リスクが高いと7年前に判定された。「テプリズマブ」の臨床試験に参加し、2022年11月の時点で1型糖尿病を発症していないという。

 「1型糖尿病の治療では、1日に頻回のインスリン注射やインスリンポンプ、血糖測定などが必要となり、危険な低血糖などに対する恐怖もあります。糖尿病の治療は進歩しているものの、子供や10代の若者の自立性を保ちながら、厳格な医学的な管理とのあいだでバランスをとり続けるのは簡単なことではありません」と、ワート氏は言う。

 「これは、1型糖尿病の症状ではなく、病気そのものを治療する治療法になると期待しています」としている。

ブレークスルーセラピーの指定を受け優先審査

 「テプリズマブ」の安全性と有効性を検証した試験には、1型糖尿病のリスクが高いと判定された76人が参加した。自己抗体が出現し、血糖異常が生じはじめているが、1型糖尿病の診断はまだ受けていないハイリスク者だった。

 参加者は、無作為にテプリズマブ群(44人)とプラセボ群(32人)に分けられ、1日1回、14日間にわたり静脈内投与を受けた。

 その結果、中央値51ヵ月の追跡期間に、テプリズマブ群の45%、プラセボ群の72%が1型糖尿病と診断されたが、診断されるまでの期間の中央値は、テプリズマブ群が50ヵ月、プラセボ群は25ヵ月で、テプリズマブは1型糖尿病の発症をおよそ2年間遅らせることが示された。

 頻度の高い副作用としては、白血球レベルの低下、発疹、頭痛などが報告されたという。

 なお、同剤はFDAによる承認に際して、ブレークスルーセラピーの指定を受け優先審査を受けていた。

FDA Approves First Drug That Can Delay Onset of Type 1 Diabetes (米国食品医薬品局 2022年11月17日)
UCSF Research Crucial to Approval of Breakthrough Diabetes Therapy: Teplizumab Delays Onset of Type 1 Diabetes (カリフォルニア大学サンフランシスコ校 2022年12月19日)
American Diabetes Association Statement on FDA Approval of Teplizumab (米国糖尿病学会 2022年11月17日)
JDRF Celebrates Tzield (teplizumab-mzwv) Approval (JDRF 2022年11月17日)
TRIALNET Type 1 Diabetes TrialNet (1型糖尿病 TrialNet)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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