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2022年11月21日

夜間に強い照明を浴びると糖尿病リスクが上昇 中国の900万人以上の糖尿病に影響 7つの方法で対策

 夜間に強力な人工照明を浴びることは、血糖コントロールの障害と糖尿病のリスクの増加に関連しているという研究が発表された。研究は、中国の約10万人の成人を対象に行った調査によるもの。

 夜に屋外で明るい照明を浴び続けると、体内時計に悪影響があらわれるという。明る過ぎる照明は、血糖値の上昇や、血糖を下げるインスリンの作用が悪くなるインスリン抵抗性、糖尿病の有病率の上昇と関連していることが示された。インスリンを分泌するβ細胞の機能にも影響するという。

 「夜に屋外で強力な人工照明を浴びることは、中国の成人の2型糖尿病の900万件以上の症例に影響している可能性があります」と、研究者は述べている。

 夜に光を浴び過ぎないようにする方法も提案されている。

中国でも糖尿病が爆発的に増えている

 夜間に屋外で強力な人工照明を浴びることは、血糖コントロールの障害と糖尿病のリスクの増加に関連しているという研究が発表された。研究は、中国の上海交通大学医学院などによるもので、研究成果は、欧州糖尿病学会(EASD)が刊行している医学誌「Diabetologia」に掲載された。

 中国の各地で急速な都市化が進んでおり、それにともない2型糖尿病が爆発的に増えている。中国の糖尿病人口は、2021年には1億4,200万人になり、10年間で1.6倍に増えたと推定されている。成人の8人に1人が糖尿病とみられている。

 糖尿病は中国でも深刻な公衆衛生上の課題となっている。その背景にあるのは、急速な都市化と経済成長により、国民の生活行動と環境が大きく変化していることだ。

都市化や交通網の発達により生活スタイルが変化

 「中国では、都市化や交通網の発達などにより、夜間の屋外照明が劇的に増え、人工照明にさらされている人々の数が増加しています。都市に住む人々は、自然な24時間の昼夜サイクルから、24時間体制の仕事と余暇のサイクルに移行しており、夜遅くまで外に出ていて、強力な照明にさらされる生活が一般化しています」と、上海交通大学医学院代謝疾患研究所のユー シュウ氏は言う。

 研究グループは、中国の18歳以上の成人のうち、900万件以上の糖尿病の発症に、夜間に屋外で強力な人工照明を浴びていることが影響していると推定している。この数字は、都市化が加速し、中国の地方から都市に移動する人の数が増えるにつれて、増加することが予想されるという。

 照明の過剰な使用や不適切な使用による「光害」は、アジアだけでなく地球規模で拡大しており、米国や欧州でも99%以上の人に影響しており、世界人口の83%が影響を受けていると推定されるとしている。

夜間に屋外で強力な人工照明を浴び続けると、糖尿病の有病率、インスリン抵抗性、β細胞の機能低下が増える

出典:Diabetologia、2022年

体内時計がホルモン分泌や代謝にも影響

 体には、およそ24時間周期のリズムをつくりだす「体内時計」のメカニズムが備わっている。体内時計は、体温やホルモン分泌など体の基本的な機能をコントロールしている。さらに睡眠、覚醒のピーク、食欲や消化だけでなく、血糖を下げるインスリンの効きやすさなどにも影響し、糖尿病にも関わると考えられている。

 およそ24時間周期の生体リズムである「概日リズム」は、ヒトを含むほとんどの生物が、地球の自転にともなう明暗(昼夜)の周期的変化に適応するために獲得した生理機能だ。

 概日リズムを調整するために、日中はなるべく屋外で日光にあたるようにして、夜間は明る過ぎない環境にすることが大切とされている。

 「夜間に強力な人工照明を浴び過ぎると、食事や睡眠などのタイミングやリズムにも影響があらわれ、体の代謝調節の不全の潜在的な原因となるおそれがあります」と、シュウ氏は指摘する。

関連情報

概日リズムの乱れは糖尿病や肥満のリスクを高める

 過去の研究で、人工照明さらされたラットは、血糖値とインスリン値が上昇し、耐糖能異常を発症することが示されている。

 別の研究では、夜間に最小限の明るさの薄暗い白色光に4週間さらされたマウスは、夜に完全に暗い環境にいたマウスに比べて、エネルギー摂取量と消費量がほぼ同等であるにもかかわらず、体重が増加し、耐糖能が低下することが示された。

 夜勤労働者を対象とした研究では、夜間に明るい照明さらされると、概日リズムを乱す可能性が高くなり、心筋梗塞などの冠状動脈性心疾患のリスクが上昇することが示された。

 夜間の明るい照明により、過体重や肥満のリスクが上昇し、とくに寝室を明るいままにしていると、高齢者の2型糖尿病のリスクが上昇するという研究も発表されている。

夜間に高強度の光にさらされると糖尿病リスクが28%上昇

 研究グループは今回の研究で、「中国非感染性疾患サーベイランス研究」のデータを使用した。2010年に全国の162サイトで取得された、中国の一般人口の代表的なサンプルとして、計9万8,658人の成人のデータが対象となった。参加者の平均年齢は42.7歳で、半数は女性だった。

 参加者の体格指数(BMI)、空腹時と食後の血糖値、インスリン値、1~2ヵ月の血糖値を反映するHbA1c値などのデータを取得。さらに、米国国防気象衛星プログラム(DMSP)で解析された夜間の地球表面の低照度画像データを使用して、参加者の人工屋外照明の暴露レベルを推定した。

 その結果、都市部に住んでいる人ほど夜間に高強度の光にさらされている可能性が高く、とくに中国東部の沿岸都市で多いことが示された。さらに、そうした人は世帯収入が高く、身体活動レベルが低く、BMIも高い傾向などが示された。

 解析したところ、夜間に高強度の光にさらされることは、糖尿病の有病率が28%高いことと関連していることが示された。

 さらに、夜間の屋外での高強度の照明への慢性的な曝露は、血糖値、インスリン抵抗性、糖尿病の有病率の上昇と正の相関があり、多くの糖尿病の危険因子を調整した後でも、インスリンを分泌するβ細胞の機能と逆の相関があることが明らかになった。

夜間の強過ぎる照明は糖尿病の新たな危険因子

 「夜間の屋外の強力な人工照明への曝露は、現代社会に遍在する環境リスク要因となっています。都市の光害の強度は、大都市の住民だけでなく、光源から数百キロも離れた郊外や地方にいる人々にも影響を与えるレベルまで増加しています」と、シュウ氏は指摘している。

 「世界人口の80%以上が、さらには先進国では90%以上の人が、夜の光害にさらされているにもかかわらず、この問題は科学者からも社会からも、十分に注目されていません」としている。

 なお、「夜間の強力な人工照明と糖尿病に因果関係があるかを確かめるために、そうした照明の個々の暴露を直接的に測定するなど、さらに研究が必要となります。ただし、夜間の強い照明が糖尿病の潜在的な新しい危険因子である可能性は高いと考えています」と付け加えている。

夜に光を浴び過ぎないようにする方法

 米国のノースウェスタン大学による別の研究でも、夜間に強い光にさらされていると、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクが上昇することが示されている。

 「とくに睡眠をとるときは、光への露出を避けるか、最小限に抑えることが重要です」と研究者は指摘し、睡眠中の光への露出を減らすための対策として、次のことを提案している。

夜に光を浴び過ぎないようにする方法

  • 屋外が明るくて、窓から光が入ってくる場合は、カーテンやブラインドを使う。
  • 屋外から入ってくる光が顔にあたらないように、ベッドの位置を調整する。
  • 就寝前の2~3時間は、パソコンやスマホ、タブレットなどの光を避ける。
  • 眠っているときは、遮光のためにアイマスクやシェードなども利用する。
  • 睡眠をとるときは、照明は必要なときだけ使用するようにして、寝室をなるべく暗くする。
  • 高齢者などは安全のために照明が必要な場合もあるが、そうした場合も床照明や間接照明を利用する。
  • 照明の色も重要。白/青色の光は、睡眠中はなるべく遠ざける。赤/オレンジ色や琥珀色の暖色の照明は、脳への刺激が少ない。

New study reveals that exposure to outdoor artificial light at night is associated with an increased risk of diabetes (Diabetologia 2022年11月14日)
Outdoor light at night in relation to glucose homoeostasis and diabetes in Chinese adults: a national and cross-sectional study of 98,658 participants from 162 study sites (Diabetologia 2022年11月14日)
Light during sleep in older adults linked to obesity, diabetes, high blood pressure (ノースウェスタン大学 2022年6月27日)
Light at night in older age is associated with obesity, diabetes, and hypertension (Sleep 2022年6月22日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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