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2022年07月21日

「腸内環境」を健康にすると糖尿病と肥満のリスクが減少 腸内細菌叢は体内時計にも影響

 「食事を毎日、規則正しくとる」「食べ過ぎない」といった健康的な食事スタイルにより、腸内環境は健康になりやすく、概日リズムの調整にも役立つことが、米カリフォルニア大学の研究で明らかになった。

 腸内環境は周期的に変化しており、概日リズムを刻む体内時計を助けているという。逆に、好きなときに好きなだけ食べていると、腸内環境のリズムが乱れ、体内時計にも狂いがでて、代謝に悪い影響があらわれる。

腸内環境の健康は体内時計にも影響

 人の腸内には500~1,000種類、100兆個と推定される細菌が棲んでいる。この腸内細菌は、健康にさまざまな影響をもたらしており、肥満・糖尿病・大腸がん・動脈硬化症・炎症性腸疾患などとも密接な関係があると考えられている。

 米カリフォルニア大学は、食事と摂食パターンがこれらの腸内細菌にどのように影響するか、とくに肥満や2型糖尿病の場合に、宿主の健康にどう影響しているか調査した。

 その結果、腸内細菌叢は食事の影響を受けるだけでなく、時間帯にもとづき絶えず変化していることが明らかになった。腸内細菌叢の周期的な変化は、概日リズムを刻む体内時計を助けているという。

 「腸内細菌叢は、私たちが食べているものだけでなく、時間帯にもとづき絶えず変化していることが分かってきました」と、カリフォルニア大学の消化器病専門医であるアミール ザリンパー氏は言う。

 「今回の研究で、腸内細菌叢の周期的な変化は、概日リズムを刻む体内時計を助けて、ブドウ糖やコレステロール、短鎖脂肪酸の調節、さらには全体的な代謝の健康にも関わっていることが示されました」としている。

生活リズムを整え概日リズムを調整すると腸内環境は良くなる

 体内時計によって、体温などの自律神経系、内分泌代謝、免疫などは、およそ1日のリズムに調節されており、睡眠・覚醒にも大きく関わる。こうした1日の周期をもつリズムは概日リズム(サーカディアンリズム)と呼ばれている。

 健康的な食事は、2型糖尿病や体重増加に影響をおよぼすだけでなく、腸内細菌叢にも作用している。「食事を毎日、規則正しくとる」「食べ過ぎない」「ゆっくり食べる」といった食事スタイルは、腸内細菌叢を健康に維持するためにも重要で、代謝の健康をコントロールしている概日リズムの調整にも役立つ可能性があるという。

 腸内細菌は、体に対してさまざまな働きをしている。たとえば、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌は、悪玉菌の増殖を防いで、腸内環境のバランスを整え、有害な物質を体外へ排出したり、免疫を高める手助けなどをしている。

 腸内の善玉菌を増やす方法として、大きく2つが知られている。1つめは、健康に有用な作用をもたらす生きた善玉菌である「プロバイオティクス」を直接摂取する方法。食品ではヨーグルト・納豆・漬物などの発酵食品や、ビフィズス菌・乳酸菌を含むものがある。

 2つめは、腸内の善玉菌を増やす働きのある「プレバイオティクス」を摂取する方法。食品成分としては食物繊維やオリゴ糖などで、これらは全粒穀物・野菜・果物・豆類・大豆などに含まれている。

 これらに加えて、規則正しい生活をおくり、睡眠もしっかりとるなどして、体内時計を整えて、概日リズム(サーカディアンリズム)を調整することも効果的である可能性が示された。

好きなときに好きなだけ食べていると腸内環境のリズムも乱れる

 「腸内環境は絶え間なく変化していますが、これまでの研究は腸内のスナップショットを取得するようなもので、腸内で何が起こっているのかを理解するのは困難でした」と、ザリンパー氏は言う。

 「今回の研究では、生体内の遺伝子の発現状況を網羅的に把握できるトランスクリプトーム解析という新しい手法を用いました。これにより、映画のように、1日を通して複数のスナップショットを取得できるようになり、腸内環境についてより詳しく分かるようになりました」としている。

 研究グループは、マウスを用いて、とくに小腸での消化と吸収に関連するその独特の機能を調べ、これらの要因の影響と相互作用を解明することを目指した。具体的には、食餌誘発性肥満(DIO)と時間制限摂食(TRF)が、マウスモデルの小腸の細菌叢の組成がどのように変化するかを、トランスクリプトーム解析により調べた。

 その結果、決められた時間に餌を食べたマウスは、高脂肪の餌を食べていても腸内の概日リズムが健康で、胆汁酸の分泌も回復し、食事から誘発される肥満にもなりにくいことが分かった。

 逆に、好きなときに好きなだけ食べることができるようにしたマウスは、腸内細菌叢のリズムと体内時計の調節に必要なシグナル伝達経路に混乱が生じ、肥満になり不健康になった。

腸内細菌叢は糖尿病や肥満にも影響 インクレチンの分泌にも関わる

 「今回の研究で、腸内細菌叢を健康に維持するために、カロリーや脂肪を制限し、時間も管理した食事スタイルが役立ち、それが代謝の健康を支配する概日リズムの調節にも影響する可能性が示されました」と、ザリンパー氏は言う。

 「腸内細菌叢は、私たちの体の一部と言えます。腸内環境の乱れが、さまざまな疾患の発症リスクを上昇させている可能性があります。腸内細菌は、糖尿病、肥満、アレルギー疾患、がん、多発性硬化症、パーキンソン病、うつ、炎症性腸疾患、リウマチなどの多くの疾患と関連していることが分かってきました」。

 「インクレチンは、食事をして糖などが吸収されると、小腸から出てくるホルモンで、膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を増やします。腸内細環境は、インクレチンの1つであるGLP-1の分泌にも関わっており、糖代謝の調節にも影響している可能性があります」。

 「腸内細菌叢と宿主であるヒトとのあいだには、非常に複雑な関係であり、前者は後者の胃腸の働きや代謝にも影響し、健康増進にも役立つと考えられます」としている。

A rhythmic small intestinal microbiome prevents obesity and type 2 diabetes (カリフォルニア大学サンディエゴ校 2022年7月5日)
Diet and feeding pattern modulate diurnal dynamics of the ileal microbiome and transcriptome (Cell Reports 2022年7月5日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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