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2022年09月14日
「経口インスリン」を開発 インスリンを錠剤にして糖尿病の人の負担を軽減

カナダのブリティッシュコロンビア大学は、錠剤として利用できる新しい経口インスリン製剤の開発に取り組んでいる。
このほど開発した経口インスリンを、インスリン注射剤と同様に体内に吸収させるのに、ラットを使った実験で成功した。
経口インスリンは、ほぼ100%肝臓に取り込まれ、最大の目標を達成できたとしている。
経口インスリンを開発しているチームが画期的な結果を報告
カナダのブリティッシュコロンビア大学は、毎日のインスリン注射の代替として、錠剤として利用できる経口インスリン製剤の開発に取り組んでいる。 このほど開発した経口インスリンを、インスリン注射剤と同様に体内に吸収させるのに、ラットを使った実験で成功した。 「1型糖尿病とともに生きる人の数は、世界でおよそ900万人とみられています。インスリン注射の代わりに、錠剤として利用できるインスリンを開発できれば、1型糖尿病の人の生活の質とメンタルヘルスを改善できると考えています」と、同大学のアヌバブ プラタップ-シン教授は言う。 プラタップ-シン教授が、経口インスリンの開発に着手した背景に、過去15年間にわたり1日3~4回のインスリン注射をしている糖尿病の父親に、より利便性の高いインスリン療法を提供したいという気持ちがあったという。糖尿病の人にとって注射はもっとも快適な手段ではない
食事にともない血糖が上昇すると、インスリンが分泌され、肝臓に取り込まれる。研究グループは、開発した経口インスリンがほぼ100%、肝臓に入っていくことを確認した。これまで開発された経口インスリンのほとんどは、投与したインスリンが胃に蓄積されることが課題になっていた。 「インスリン投与に関しては、糖尿病の人にとって注射という手段は、もっとも快適で便利なものではありません。毎日のインスリン注射は煩わしく、人前で注射をするのがストレスになっているという患者さんは少なくありません」と、プロジェクトに携わっているイーゴン グオ氏は言う。 「インスリンを錠剤として投与できるようにすれば、インスリン療法の選択肢が増え、患者さんの利便性を高められると考えられます」。 「開発した経口インスリンは、吸収率をより高めるために工夫を施してあります。投与から2時間後、検査したラットの胃にはインスリンはみつかりませんでした。経口投与したインスリンは肝臓に取り込まれ、最大の目標を達成することができました」としている。インスリン注射剤と同様に利用できる可能性
研究グループが選択した方法は、錠剤にしたインスリン製剤を、頬の内側や唇の裏側にある口腔粘膜に置き溶かすというもの。この方法であると、吸収されたインスリンはほぼ100%、肝臓に取り込まれるという。 開発中の経口インスリンのほとんどは、2~4時間かけてゆっくりとインスリンを放出するが、現在のインスリン治療に使われている超速効型インスリンは、30~120分で完全に取り込まれる。 「開発した経口インスリンは、投与後30分で吸収され、効果は2~4時間持続するので、インスリン注射と同様に利用できる可能性があります」と、グオ氏は言う。 ただし課題もある。インスリンの注射製剤は通常、100単位(IU)が必要になるが、開発中の経口インスリンの場合は、500単位が必要になり、数倍の量が必要になる可能性がある。「より効率良く体に吸収される製剤を開発する必要があります」と、プラタップ-シン教授は言う。 さらに、研究はヒトを対象とした臨床試験を開始する段階に進んでおらず、開発にはより多くの時間、資金、協力者が必要になるという。経口インスリンには多くのベネフィットがある
しかし、「経口インスリンは、糖尿病の人にとって明らかに潜在的なベネフィットがあり、より持続可能で、費用対効果が高く、アクセスしやすいものになる可能性があります。カナダだけでも30万人以上が1日に複数回のインスリン注射をしています」と、プラタップ-シン教授は強調する。 現在のインスリン治療では、気温の高い夏や低い冬にインスリン製剤を安全に保管するのは容易ではない。また、大量の注入器や注射針、インスリン容器などが廃棄されている。経口インスリンであれば、こうした保管や環境廃棄物の問題もないとしている。 注射製剤の代替品となる経口インスリンを、より安価に使えるようにすることも目標のひとつだ。「インスリンの1回の投与あたりのコストを削減することで医療費を減らし、また簡単にインスリン治療を開始できるようにすれば、より多くの患者さんの生活の質を向上できると期待しています」としている。 UBC team developing oral insulin tablet sees breakthrough results (ブリティッシュコロンビア大学 2022年8月30日)Production of high loading insulin nanoparticles suitable for oral delivery by spray drying and freeze drying techniques (Scientific Reports 2022年6月15日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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