ニュース
2022年08月05日
1型糖尿病の子供や若者はメンタルヘルス不調になりやすい? どうすれば解決できる?

1型糖尿病とともに生きる子供や若者と、その家族や保護者は、メンタルヘルスの不調を抱えるリスクが高いことが、スウェーデンの研究で明らかになった。
1型糖尿病の子供は、うつ病のリスクが2倍高いという。メンタルヘルスの問題を抱えることが、1型糖尿病の治療の妨げになっている可能性がある。
1型糖尿病のチーム医療に、メンタルヘルスケアの専門家が加わることで、1型糖尿病の子供や若者のメンタルヘルスを改善できることも示されている。
1型糖尿病の子供はうつ病のリスクが2倍高い
1型糖尿病とともに生きる子供や若者と、その家族や保護者は、うつ病、不安神経症、ストレス関連障害などのメンタルヘルスの問題を抱えるリスクが高く、これらの疾患が併存することが、糖尿病の治療の妨げになっている可能性があると、スウェーデンのカロリンスカ研究所が発表した。 研究グループは、1973年~2007年にスウェーデンで生まれた約350万人の子供とその家族を調査。うち2万人以上が小児期発症の1型糖尿病と診断された。 1型糖尿病の子供をスクリーニング調査した結果、糖尿病ではない子供に比べ、うつ病のリスクが2倍、不安障害やストレス関連障害のリスクが1.6倍高いことが判明した。 さらに、両親や保護者、同居している家族なども、程度は低いものの、不安やストレスに関連した障害のリスクが高めであることも示された。ただし、異母兄弟やいとこは、そうした状態のリスクがまったくないか、わずかに高いだけだった。メンタルヘルスの問題に遺伝子が影響?
国際小児・若年者糖尿病学会(ISPAD)のガイドラインでは、1型糖尿病の子供のメンタルヘルスについてスクリーニング調査し、メンタルの健康を保つことを推奨しているが、その家族や保護者のメンタルヘルスの不調と、その背後にある理由についてはよく分かっていない。 「臨床医の多くは、1型糖尿病の治療にはストレスがともない、糖尿病の子供と家族の両方のメンタルヘルスの健康に悪影響があらわれていることを直感的に知っています」と、同研究所の医学疫学・生物統計学部のアニエスカ ブトウィッカ助教授は言う。 「今回の結果は、医療従事者による治療介入は、患者だけでなく近親者も対象とする必要があることを示すものです。このことは、臨床的に非常に重要です」としている。 「でも、その理由や答えはそれほど簡単なものではありません。私たちは、この関連の背後に遺伝的要素もある可能性があると考えています」。 親子や兄弟姉妹は、異母兄弟(25%)やいとこ(12.5%未満)に比べ、よりも多くの遺伝形質(50%)を共有しており、1型糖尿病のメンタルヘルスの問題に、遺伝子が影響している可能性があるとしている。 「1型糖尿病のメンタルヘルスを改善するために、その背景にある遺伝的および環境的な要因を解明することが必要です」と、同研究所のシェンシン リウ氏は述べている。メンタルヘルスケアの専門家が加わると子供や若者のメンタルは改善
チーム医療にメンタルヘルスケアは必要
1型糖尿病のチーム医療に、メンタルヘルスケアの専門家が加わることで、子供や若者のメンタルヘルスは改善しやすくなることが、米カリフォルニア大学の研究で示されている。 チーム医療は、さまざまな専門的な知識や技術をもった多職種の医療スタッフが、それぞれの専門性をいかしながら業務を分担し、目的と情報を共有し、たがいに連携・補完しあいながら、患者の状況に対応した医療を的確に提供すること。 チーム医療に、メンタルヘルスケアの専門家が加わり、メンタルヘルスにも配慮した治療をすることで、従来の治療をした場合に比べ、子供や若者の健康行動に関連するアウトカムは66%も改善することが明らかになった。 「医療を提供する医療者や研究者は、この10年で、子供や若者のためのプライマリケア(総合医療・家庭医療)に、メンタルヘルスを加える必要性について理解するようになってきました」と、同大学の精神医学・生物行動科学科のジョアン アサルノウ教授は言う。 うつ病やストレス関連障害などのメンタルヘルスの不調を抱える子供や若者の周囲にいる小児科医やかかりつけ医が、メンタルヘルスケアの専門家と連携しあうことで、子供や若者はより良い生活をおくれるようになると考えられている。子供たちの医療にメンタルヘルスケアを加えるメリット
研究グループは、米国国立精神衛生研究所(NIH)と米国心理学会の臨床小児・若年者心理学科の支援を受け、1型糖尿病を含むさまざまな疾患の治療に取り組んでいる子供や若者のためのプライマリケアについて調べた31件の研究を解析した。対象となった子供や若者は1万3,129人だった。 プライマリケアとメンタルヘルスのそれぞれの専門家が、積極的に協力しあい、協力しあいながら治療やフォローアップを行った場合、子供や若者のメンタルヘルスケアに関して、73%も良好な結果をえられる可能性が示された。 「これまでの治療は、子供に医学的な問題があり、治療が必要となった場合は、小児科医や看護師が対応するというものでした。いまでも、医療費などの影響で、メンタルヘルスについての配慮は十分とは言えません」アサルノウ教授は言う。 「今回の研究により、子供や若者がメンタルヘルスの専門家にアクセスできるかどうかが、治療の質に大きく関わることが示されました」としている。アサルノウ教授は、子供や若者のうつ病と自殺を予防するためのプログラムの責任者も務めている。 「統合されたアプローチにより、子供たちがいる医療環境にメンタルヘルスケアを加えることは、1型糖尿病に対する誤解や無理解などのスティグマやネガティブな要因の軽減になり、治療の効果を高め、合併症などのリスクや障壁を減らすことにもつながると考えられます」としている。Association and familial co-aggregation of childhood-onset type 1 diabetes with depression, anxiety, and stress-related disorders: a population-based cohort study (Diabetes Care 2022年8月1日)
Kids, teens win when mental health providers team with pediatricians, family doctors, UCLA study finds (カリフォルニア大学ロサンゼルス校健康科学部 2015年8月10日)
Integrated Medical-Behavioral Care Compared With Usual Primary Care for Child and Adolescent Behavioral Health: A Meta-analysis (JAMA Pediatrics 2015年10月)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
1型糖尿病の関連記事
- 腎不全の患者さんを透析から解放 「異種移植」の扉を開く画期的な手術が米国で成功
- ヨーヨーダイエットが1型糖尿病の人の腎臓病リスクを上昇 体重の増減を繰り返すのは良くない
- 世界初の週1回投与の持効型溶解インスリン製剤 注射回数を減らし糖尿病患者の負担を軽減
- 腎不全の患者さんを透析から解放 腎臓の新しい移植医療が成功 「異種移植」とは?
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も
- 若い人の糖尿病が世界的に増加 日本人は糖尿病になりやすい体質をもっている 若いときから糖尿病の予防戦略が必要
- 【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も
- 1型糖尿病のランナーが東京マラソンを完走 CGMとインスリンポンプを組み合わせたシステムでより活動的に
- 運動に取り組み糖尿病を改善 血糖値が下がりすぎる低血糖にもご注意 1型糖尿病の人に最適な運動法は?
- 「スマートインスリン」の開発が前進 血糖値が高いときだけ作用する新タイプのインスリン製剤 1型糖尿病の負担を軽減