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2022年05月11日

「植物ベースの食事」で糖尿病を改善 メタボロミクスで生命活動を解明

 植物ベースの健康的な食事スタイルが、糖尿病リスクの低下と関連していることが、ハーバード公衆衛生大学院の研究で明らかになった。

 ▼全粒穀物、▼野菜、▼ナッツ類、▼マメ類、▼大豆、▼コーヒー、▼果物などの植物ベースの食事をしており、代謝物のプロファイルの良い人は、2型糖尿病の発症リスクが19%少なく、もっとも健康的な食事スタイルをもつ人は23%少ないことと関連していた。

 3件の前向きコホートに参加した1万人超を調査。生命活動によって産出されるさまざまな代謝物を分析する「メタボロミクス」という技術により、新しい発見も生まれている。

植物ベースの健康的な食事が糖尿病リスクを低下

 2型糖尿病は、糖尿病の症例の90%以上を占め、世界的に増え続けている。対策をしないでいると、成人の2型糖尿病の有病率は、20年以内に3倍以上に上昇すると予測されている。

 糖尿病の有病者数は、2000年には1億5,000万人だったが、2019年には4億5,000万人以上に増え、2045年には7億人に増加すると予測されている。

 2型糖尿病の治療を行わないで、放置していると、心血管疾患や脳卒中などの大血管症と、腎臓・眼・神経などに障害をもたらす細小血管症という糖尿病合併症のリスクが高まる。

 2型糖尿病の発症には、遺伝的な因子も大きく関わることが分かっているが、健康的な食事や、適度な運動、過体重・肥満の解消など、生活スタイルの改善により、合併症のリスクを減らせることも明らかにされている。

 植物ベースの健康的な食事スタイルが、糖尿病リスクの低下と関連していることが、ハーバード公衆衛生大学院の研究で明らかになった。

 これまでの研究でも、植物ベースの食事、とくに食物繊維の多い全粒穀物や、野菜・果物などを十分に摂る健康的な食事が、2型糖尿病のリスクを減少することが示されているものの、その根本的なメカニズムについては、よく分かっていなかった。

 研究は、同大学院栄養学部のフランク フー教授らによるもの。研究成果は、欧州糖尿病学会(EASD)が刊行する医学誌「Diabetologia」に発表された。

植物性食品が糖尿病リスクを低下させるメカニズムをメタボロミクスで解明

出典:Diabetologia、2022年

食事インデックスを作成した食事を調査

 研究グループは、米国で実施されている3件の前向きコホート研究(看護師健康調査、看護師健康調査II、医療従事者追跡調査)に参加した計1万684人(平均年齢54歳)を対象に、血液サンプルと食事摂取量の分析を実施した。参加者の体格指数(BMI)の平均は25.6だった。

 参加者に食品頻度質問票(FFQ)に記入してもらい、食品を18のグループに分けて摂取量を調べ、それをもとに植物ベースの食事について、食事インデックスを作成し下記のような分類をした。

健康的な植物性食品
▼全粒粉や麦、玄米などの全粒穀物、▼緑黄色野菜など野菜類、▼ナッツ類、▼マメ類、▼大豆、▼植物油、▼コーヒー、▼果物など
不健康な植物性食品
▼白パンや白米などの精製穀物、▼フルーツジュース、▼糖質の多いイモ類、▼加糖飲料、▼お菓子/デザートなど
動物性食品
▼動物性脂肪、肉、乳製品、卵、魚/シーフードなどについても、それぞれ食べる頻度や量を調べた

 研究グループは、1980年代後半と1990年代に参加者に、上記の3つの食事インデックスの調査と血液検査を行い、その後も2型糖尿病の発症や、代謝物プロファイルとの関連を追跡して調査した。

もっとも健康的な食事をしている人は糖尿病リスクが23%減少

 その結果、植物ベースの健康的な食品の摂取量が多いグループでは、2型糖尿病の発症が少ないことが明らかになった。

 植物ベースの食事をしており、代謝物のプロファイルの良い人は、2型糖尿病の発症リスクが19%少なく、もっとも健康的な食事スタイルをもつ人は23%少ないことと関連していた。

 「植物ベースの食事をしていたグループは、BMIが低く、肥満が少なく、血圧値とコレステロール値が低めで、そうした疾患の治療薬の服用が少なく、運動や身体活動も多い傾向がみられました」と、フー教授は言う。

体から産出される代謝物を包括的に分析するメタボロミクス

 研究グループは、植物ベースの食事に関連するさまざまな代謝物のプロファイルも調べ、2型糖尿病との関連を調べている。

 「メタボロミクス・プロファイリング」という技術が進歩しており、栄養研究にも新しい時代が到来している。メタボロミクスは、体の生命活動により産出されたさまざまな代謝物を包括的に検出・分析する技術。

 生化学のプロセスによって生成される代謝物は多様で、さまざまな食品に膨大な数の化合物が含まれる。それらの化合物が分解されて、体内で栄養として使われるために、複雑な分子に変換される。食品の化学的構成の違いは、個々の食事の代謝物のプロファイルに反映されると考えられている。

 研究では、メタボロミクスにより、植物ベースの食事は多様な代謝物のプロファイルに関連しており、不健康な植物ベースの食事に比べて、それらのパターンが大幅に異なることを明らかにした。

 「トリゴネリン」「馬尿酸」「イソロイシン」「トリアシルグリセロール(TAG)」といった代謝物が、2型糖尿病の発症と関連しており、重要な役割を果たしている可能性が示された。

 これまでの研究でも、たとえばトリゴネリンはコーヒーに多く含まれており、インスリン抵抗性に対し有益な働きをすることが示されている。また、トルエンなどの代謝産物である馬尿酸のレベルが高いほど、血糖コントロールの改善、インスリン分泌の強化、2型糖尿病のリスク低下と関連がある。

植物性食品が糖尿病リスクを低下させるメカニズムを解明

 「野菜、コーヒー、豆類、大豆、果物などのポリフェノールが豊富に含まれる植物性食品の摂取と代謝物は、すべて密接に関連していると考えられます」と、フー教授は述べている。

 「こうした有益な代謝物をさらに調べることで、植物ベースの食事が2型糖尿病のリスクにどのように有益な効果をもたらすかについて、詳細なメカニズムを解明できる可能性があります」。

 さらに、「今回の研究は、食事スタイルをもとに分析したもので、個々の食品が糖尿病リスクの低下にどのように寄与しているかは正確には分かりません。食事スタイルを改善すると、メタボロミクスにどのような変化が起こるか、またそれが2型糖尿病にどう影響するかについて、さらに研究を重ねて検証する必要があります」としている。

 「今後の研究で、糖尿病を予防・改善するために、健康的な植物ベースの食事スタイルにどのような有益な役割があるかを解明していきます」。

New study reveals that healthy plant-based diets are associated with a lower risk of developing diabetes (Diabetologia 2022年4月8日)
Plasma metabolite profiles related to plant-based diets and the risk of type 2 diabetes (Diabetologia 2022年4月8日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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