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2022年03月10日

【心房細動週間】糖尿病の人は心房細動にご注意 階段をよく利用している人はリスクが低い

 3月9日は「脈の日」、3月9日~15日は「心房細動週間」だ。

 日本脳卒中協会と日本不整脈心電学会が、心房細動から生じる脳梗塞を予防するための啓発活動を展開している。

 心房細動を予防・改善するために、どうしたら良いかを調べた研究も増えている。

 エレベーターやエスカレーターではなく、階段をよく利用している人は、心房細動のリスクが低いことが、国立循環器病研究センターによる大規模な調査で明らかになった。

心房細動があると脳梗塞や心不全のリスクが上昇

 3月9日は「脈の日」、3月9日~15日は「心房細動週間」だ。日本脳卒中協会と日本不整脈心電学会が、心房細動から生じる脳梗塞を予防するための啓発活動を展開している。

 心房細動は、心房が痙攣したように細かく震え、血液をうまく全身に送り出せなくなる病気。脳梗塞や心不全を引き起こす原因になる。

 心房細動になると、心房の中で血液がよどみ、血液の塊である血栓ができやすくなる。この血栓が心臓から脳に運ばれると、脳の血管がつまり脳梗塞を引き起こす。

 また、放置していると、長期にわたり頻脈(心拍数や脈拍数が増加した状態)が続くことになり、心臓のポンプ機能が弱まってしまう。心臓から全身に十分な血液が送り出されなくなり心不全になりやすい。

糖尿病の人は心房細動にご注意

 糖尿病の人は、糖尿病でない人に比べ、心房細動を合併することが多いことが知られている。とくに高齢になるほど、心房細動の発症は増加する。

 2型糖尿病の人が血糖コントロールが不良の状態が続くと、血糖を下げるインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性や、耐糖能異常、炎症や酸化ストレス、血をかためる成分である血小板の亢進、心臓組織の線維化などが起こりやすくなり、これらが心房細動の発症につながりやすい。

 さらに、糖尿病は心筋梗塞や心不全の危険因子だが、2型糖尿病と心房細動を合併すると、その危険性がさらに高まることも知られている。良好な血糖コントロールを維持し、これらの病気をきちんと管理することが重要になる。

どうしたら心房細動をみつけられる?

 日本脳卒中協会によると、心房細動の自覚症状としては、「どきどきする」「胸が苦しい」「階段や坂を上るのがきつい」「息が切れやすい」「疲れやすい」などがある。

 手首や頸部(首)の脈をはかり、ふだんよりも速かったり、また速い・遅いを不規則に繰り返していると、心房細動が疑われる。

 心房細動を診断するときには、心電図検査が不可欠となる。自覚症状があったり、自分で脈を調べておかしいなと思ったら、早めに受診して医師に相談し、心電図検査を受けることが勧められる。

脈の自己チェック (日本脳卒中協会)
脈がバラバラの不整脈、心房細動に注意しましょう。
心房細動があると脳梗塞になりやすいのです。でも薬で予防できます。

階段を利用するように心がけていると心房細動になりにくい

心房細動のリスクを予測

 ふだんから3階分の階に昇るときに、階段を6割以上利用している人は、心房細動の罹患率が低いことが、日本の地域住民を対象とした追跡研究ではじめて明らかになった。

 ふだんから階段をどの程度利用しているかという簡単な指標で、心房細動のリスクを予測できる。

 階段を利用するように心がけている人は、階段以外のところでも体をよく動かしている可能性もある。日頃から日常生活で体を動かすように心がけていると、心房細動になりにくいと考えられる。

 運動や身体活動量をよく行っている人は、心房細動だけでなく、2型糖尿病・高血圧・脂質異常症・肥満・循環器病・がんなどのリスクも低い傾向があることが、多くの研究で示されている。

 研究は、国立循環器病研究センター健診部の小久保喜弘特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Health and Preventive Medicine」に掲載された。

日本人6,575人を14.7年追跡して調査

 研究成果は、同センターが1989年より実施しているコホート研究(研究対象者の健康状態を長期間追跡し、病気になる要因などを解析する研究手法)である「吹田研究」で明らかになったもの。

 大阪府吹田市民を対象とした研究で、日本人の90%は都市部に在住していることを考えると、その研究結果は国民の現状により近いと考えられる。

 研究グループは、日常生活での簡便な身体活動の指標として、階段の利用率を想定し、階段の利用が多いと心房細動の予防につながるかどうかを検討した。

 吹田研究参加者の30~84歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に心房細動の既往歴のない6,575人(男性3,090人、女性3,485人)を対象に、心房細動の新規罹患を追跡。その結果、平均14.7年の追跡期間中に295人が心房細動と新たに診断された。

 「3階まで上るときに階段をどのくらいの割合で利用しますか」という質問をしたところ、階段の利用率が2割未満の群を基準とした場合、6割以上階段を利用する群で、心房細動の罹患リスクは、性年齢調整で0.69倍(ハザード比0.69、95%信頼区間0.49~0.96)、多変量調整で0.71倍(ハザード比0.71、95%信頼区間0.50~0.99)、運動習慣の有無による調整で0.69倍(95%信頼区間0.49~0.98)となった。

階段をよく利用している人は、心房細動のリスクが低い

 今回の研究では、ふだんから3階程度の階に上るときに、階段を6割以上利用している群で、心房細動の罹患率が低いことが、日本の地域住民を対象とした追跡研究ではじめて示された。

 運動習慣で調整しても有意であったことから、運動習慣とは別に、日頃から日常生活で階段を利用するように心がけていると、心房細動になりにくいということが分かった。

 吹田研究ではこれまで、健診によるリスク因子を用いて、心房細動罹患の予測ツールも開発されている。

 研究グループは、「今後は生活習慣の要因も加えていくことで、心房細動の発症を予防するために、どのような生活習慣改善、たとえば食事・運動・睡眠などが必要であるか提示することができるようになると考えられます」と指摘している。

 なお、今回の研究の限界性として、自己記入式の問診票であるため、誤分類の可能性は否定でないとしている。ただし、健診時に看護師が記入を確認しているので、誤分類は最小限に抑えられているという。

 「腰痛や膝関節症などの整形外科的な疾患のある人は、階段を避ける傾向があります。今回はこれらの疾患の影響を検討していません。そうした人には、椅子を使った体操など別の方法を紹介していく必要性があります」と、研究グループは付け加えている。

心房細動週間のポスター
日本脳卒中協会・日本不整脈心電学会

Diabetes mellitus is a strong, independent risk for atrial fibrillation and flutter in addition to other cardiovascular disease (International Journal of Cardiology 2005年12月7日)
The Rotterdam study: 2012 objectives and design update (European Journal of Epidemiology 2011年8月30日)
Worldwide epidemiology of atrial fibrillation: a global burden of disease 2010 study (Circulation 2013年12月17日)
Contribution of atrial fibrillation to incidence and outcome of ischemic stroke: results from a population-based study (Stroke 2005年5月5日)

国立循環器病研究センター
地域住民を対象とした10年後心房細動予測スコアの開発 (国立循環器病研究センター)
Stair climbing and incident atrial fibrillation: a prospective cohort study (Environmental Health and Preventive Medicine 2022年3月4日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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