ニュース

2022年03月07日

「筋トレ」の実施時間が長いほど糖尿病リスクは低下 家庭や職場で簡単にできる筋トレ

 筋力トレーニング(筋トレ)を実践することで、総死亡・心血管疾患・がん・糖尿病のリスクが10~17%低下することが、東北大学などの研究で明らかになった。

 週30分~60分の筋トレにより、総死亡・心血管疾患・がんのリスクはもっとも減少し、糖尿病については、実施時間が長ければ長いほど、そのリスクは低下した。

 一方、筋トレの実施時間が週130~140分を超えると、総死亡・心血管疾患・がんに対する好ましい影響はみられなくなり、むしろリスクは高い値を示した。

 「筋トレには長期的な健康効果がありますが、やりすぎるとかえって健康効果が得られなくなってしまう可能性があります」と、研究者は指摘している。

週30分~60分の筋トレにより死亡・心血管疾患・がんのリスクは減少

 筋力トレーニング(筋トレ)は、筋肉に繰り返し負荷がかかり、筋力の向上が期待される活動だ。

 筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う「レジスタンス運動」、ダンベルやマシンなどで筋肉に負荷をかけて行う「ウェイトトレーニング」、自分の体重を負荷にして行う「自重トレーニング」などがある。

 ここ数年、健康の維持増進や体型維持を目的に、筋トレを行う人は増えている。筋トレは、コロナ禍で自宅で簡単にできる運動としても注目されている。筋トレを行うことで、糖尿病や心疾患、がんなどの疾病の予防や死亡リスクを減少できるという報告は多数ある。

 そこで東北大学の研究グループは、これまで公表された筋トレと疾病・死亡との関連を調べた追跡研究を網羅的に集めて統合解析した。

 その結果、筋トレを実践することで、総死亡・心血管疾患・がん・糖尿病のリスクが10~17%低下することが明らかになった。

 さらに、週30分~60分の筋トレにより、総死亡・心血管疾患・がんのリスクはもっとも減少し、糖尿病については、実施時間が長ければ長いほどそのリスクが低下した。

 研究は、東北大学大学院医学系研究科運動学分野の門間陽樹講師、早稲田大学の川上諒子講師、澤田亨教授および九州大学の本田貴紀助教の研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Sports Medicine」にオンライン掲載された。

家庭や職場でも行いやすい「貯筋運動」

 生活環境に適応できる身体能力(生活フィットネス)は、年齢を重ねるとともに低下していく。よく体を動かしている人は、年をとっても生活フィットネスを高い水準に維持できる。

 生活フィットネスには、筋力、持久力、柔軟性などさまざまな要素があるが、とくに下半身の筋力は、日常生活運動をスムーズに行うために重要だ。

 そこで健康・体力づくり事業財団は、道具のいらない家庭や職場で行いやすい自重トレーニング(自重負荷レジスタンストレーニング)として、「貯筋運動」を提唱している。

 貯筋運動は、▼いす座り立ち、もも上げ、▼カーフレイズ(ふくらはぎの筋トレ)、▼立位での横への脚上げ、▼上を向いて寝た状態での上体起こしなどで構成される。大腿四頭筋や腓腹筋、腹直筋など、体を支える重要な筋肉を鍛えることができる。

貯筋運動 立位 アップ

貯筋運動 座位 もも

貯筋運動プロジェクト(健康・体力づくり事業財団)

筋トレのやり過ぎはむしろ健康リスクを高めるという結果に

出典:東北大学、2022年

 筋トレにより筋肉がつくことはよく知られているが、筋トレの実施は疾病の予防や死亡リスクの減少につながっているのか、さらにリスク減少のためにどのくらいの筋トレを実施すればよいかについてはよく分かっていなかった。

 そこで研究グループは、18歳以上の成人を対象に筋トレと疾病および死亡との関連を長期的に検討した研究1,252件について、より客観性・再現性が高いとれるシステマティックレビューを実施した。その後、すべての論文を精査し、信頼でき、かつ、分析可能な研究16件を抽出した。

 これらの研究結果をもとに結果を統合するメタ解析を実施し、筋トレ実施の有無および実施時間と疾病および死亡リスクの関連を検討した。

 分析対象となった疾患は、心血管疾患(9件)、がん(7件)、糖尿病(5件)、部位別のがん(肺がん、膵臓がん、結腸がん、膀胱がん、腎臓がん、それぞれ2件)、さらに、死因を問わない死亡(総死亡、8件)だった。

 解析した結果、筋トレを実施している群では、まったく実施していない群似比べ、総死亡および心血管疾患、がん、糖尿病のリスクが、ウォーキングなどの有酸素運動の影響を考慮しても、10~17%低いことが明らかになった。

 さらに、筋トレの実施時間の影響を調べたところ、週30~60分を実施することで、総死亡、心血管疾患、がんでは10~20%減少し、もっともリスクが低くなった。

 糖尿病についても、筋トレの実施時間が長ければ長いほど、リスクが低くなるという結果となった。

 一方、週130~140分を超えると、筋トレの好ましい影響は消失し、むしろリスクが高くなることが分かった。

筋トレと疾病および死亡リスクとの関連

糖尿病発症(右下)については、筋トレを行うと、週60分までは相対リスクが急激に減少し、その後は減少はゆるやかになっているものの、やはり低下を続けた。糖尿病の場合は、筋トレの実施時間が長ければ長いだけ、リスクは低下することを示している。
出典:東北大学、2022年

日本の身体活動ガイドライン策定の根拠に

 今回の研究は、筋トレの長期的な健康効果を示している一方、やりすぎるとかえって、心血管疾患やがん、死亡に対する健康効果が得られなくなってしまう可能性を示唆する重要な知見となる。

 「身体活動ガイドライン」には、運動や身体活動の普及・啓発を目的に、健康に対する身体活動の影響や実施すべき推奨値などが記載されている。国際的なガイドラインとしては、WHOがまとめた「身体活動・座位行動ガイドライン」があり、日本のガイドラインとしては、厚生労働省がまとめた「健康づくりのための身体活動基準2013」があり、現在、改訂作業が進められている。

 「健康の維持増進を目的に、筋トレの実施が国際的に推奨されているなか、今回の知見はその推奨を支持するとともに、日本の身体活動ガイドラインでも、新たに筋トレの実施を推奨する根拠となる重要なエビデンスのひとつとなることが期待されます」と、研究グループでは述べている。

東北大学大学院医学系研究科運動学分野
Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies (British Journal of Sports Medicine 2022年2月28日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled 記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲