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2021年06月04日

糖尿病と高血圧は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める 血圧が少しでも高くなったら生活改善を

 新潟⼤学は、65歳未満の60万⼈を超える医療ビッグデータの分析を行い、血糖正常、糖尿病予備群(境界型糖尿病)、糖尿病の3段階で、血圧が虚血性⼼疾患・脳卒中の発症に及ぼす影響について調べた。
 その結果、これら3段階のいずれでも、最高血圧(収縮期血圧)が120mmHg以上の軽度の血圧上昇であっても、虚血性心疾患、脳卒中発症リスクがともに有意に上昇することを明らかにした。
 血圧値が正常より少し高い程度の段階であっても、早期から減塩を含む生活習慣の改善による血圧コントロールに取り組むことが重要であることが示された。
高血圧と糖尿病はいずれも心疾患と脳卒中のリスクを上昇させる
 研究は、新潟⼤学医学部血液・内分泌・代謝内科研究室の⼭⽥万祐⼦医師、藤原和哉准教授、曽根博仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、⽶国専⾨誌「Diabetes Care」に掲載された。

 心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、脳梗塞や脳出血などの脳卒中は、⽣活の質(QOL)を低下させ、健康寿命を短縮させる。高血圧と糖尿病は、いずれも虚血性心疾患と脳卒中の発症リスクを上昇させることから、発症予防が重要となっている。

 糖尿病患者の血圧コントロールの目標は、最高血圧(収縮期血圧)が130mmHg未満、最低血圧(拡張期血圧)が80mmHg未満とされている。

 一方で、正常血圧(120/80mmHg未満)に⽐べ、血圧の上昇により、虚血性心疾患・脳卒中発症リスクがどれくらい上昇するかを、血糖正常、糖尿病予備群(境界型糖尿病)、糖尿病の3つの血糖状態で、同じ集団で詳細に検討した研究はほとんどなかった。

 研究グループは今回、医療統計データなどを提供しているJMDCと共同で、診療報酬請求(レセプト)と健診の⼤規模データを連結して解析した。

 その結果、いずれの血糖の段階でも、収縮期血圧120mmHg以上、拡張期血圧75mmHg以上から、虚血性心疾患、脳卒中発症リスクが段階的に上昇することが明らかとなった。

 また、高血圧と糖尿病が虚血性心疾患発症に相加的(加算的)に影響するのに対して、高血圧が脳卒中発症に与える影響は、血糖の段階によらず、ほぼ⼀定であることも判明した。
日本人59万超の健診データなどを分析
 研究グループは、健診と健康保険レセプトデータを合わせた分析を行った。2008~2016年に健診を受け、3年以上追跡可能だった、過去に虚血性心疾患、脳卒中を発症したことのない18~64歳の59万3,196⼈を抽出した。

 血糖の段階別(血糖正常、糖尿病予備群、糖尿病)に、カテーテル治療やバイパス⼿術などを要した重症虚血性心疾患、および血栓溶解療法や血管内治療など⼊院治療を要した脳卒中の発症について調べた。

 その後、年齢、高LDL(悪⽟)コレステロール血症、低HDL(善⽟)コレステロール血症、喫煙、肥満などの、既知の虚血性心疾患・脳卒中のリスク因⼦の影響を除いて補正した。

 そして、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧75mmHg未満と比べて、血圧値の上昇により、どれくらい度虚血性心疾患、脳卒中を発症しやすいかを、血糖の段階別に調べた。さらに、血糖の段階と血圧レベルを組み合わせた分析も行った。
糖尿病のどの段階でも血圧が高いと心疾患や脳卒中のリスクは上昇
 その結果、追跡期間(中央値)5.2年に、2,240⼈が虚血性心疾患、3,207⼈が脳卒中を発症した。

 解析した結果、収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧75mmHg未満と比べると、どの血糖の段階でも、⽐較的軽度の血圧値の上昇から虚血性心疾患・脳卒中発症リスクが上昇することが明らかになった。

 収縮期血圧が120mmHg未満に比べ、120~129mmHg(正常高値血圧)では、血糖正常、糖尿病予備群、糖尿病でそれぞれ2.1倍、1.4倍、1.5倍に虚血性心疾患の発症リスクが上昇した。脳卒中の発症リスクも、それぞれ1.5倍、1.7倍、1.7倍上昇した。
糖尿病で最高血圧が150mmHg以上だと心疾患リスクは8.4倍に上昇
 さらに、血糖の段階と血圧値を組み合わせて分析した結果、糖尿病では、収縮期血圧が120mmHg未満であっても、血糖正常および糖尿病予備群の収縮期血圧が150mmHgと同程度、虚血性心疾患を発症することが判明した。

 また、高血圧と糖尿病は虚血性心疾患発症に相加的(加算的)に影響することが明らかになり、血糖正常で収縮期血圧が120mmHg未満に比べ、糖尿病かつ収縮期血圧150mmHg以上では、虚血性心疾患発症リスクは8.4倍上昇した。

 ⼀⽅で、高血圧が脳血管疾患の発症に与える影響は、血糖の段階によらず、約5倍程度とほぼ⼀定であることが判明した(血糖正常で収縮期血圧が120mmHg未満に比べ、血糖正常、糖尿病予備群、糖尿病の収縮期血圧が150mmHgにおける脳卒中リスクは、それぞれ5.0倍、4.4倍、5.6倍)。

 また、拡張期血圧でも収縮期血圧と同様な傾向が明らかになった。
血圧が少しでも高くなったら生活改善を
 世界の多くの診療ガイドラインでは、糖尿病の有無に関わらず、高血圧の診断基準値は140/90mmHgとなっている。日本では、糖尿病患者は血圧が140/90mmHg以上に上昇すると、降圧薬による治療を開始することが推奨される。

 しかし、今回の研究では、実際にはそれよりもかなり低い血圧値から、虚血性心疾患、脳卒中リスクが有意に上昇することが明らかとなった。

 つまり、血圧値が正常より少し高い程度の段階であっても、早期から減塩を含む生活習慣の改善による血圧コントロールに取り組むことが重要であることが示された。

 なお、「今回の研究は、血圧が軽度上昇している集団に対して、薬物療法などの治療介⼊を⾏うことで、虚血性心疾患、脳卒中発症のリスクが低下するかを検討したものではないため、今後、⽣活指導や薬物による治療介⼊研究を⾏うことにより、虚血性心疾患、脳卒中リスクが低下するかを確認する必要があります」と、研究者は述べている。

⾎糖正常、糖尿病予備群、糖尿病のどの段階であっても
⾎圧が上昇すると虚⾎性⼼疾患や脳卒中のリスクは上昇する

出典:新潟⼤学、2021年

新潟⼤学医学部 血液・内分泌・代謝内科
Associations of systolic blood pressure and diastolic blood pressure with the incidence of coronary artery disease or cerebrovascular disease according to glucose status(Diabetes Care 2021年5⽉25⽇)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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