ニュース

2021年04月14日

血糖値を安定化する生理活性ペプチドを発見 インスリンとGLP-1の分泌促進を確認 新しい糖尿病治療法の可能性

 名古屋大学は、血糖値の安定化に寄与する、天然アミノ酸からなる生理活性ペプチドを発見したと発表した。
 発見したペプチドは、膵臓のβ細胞でグルコース濃度依存的にインスリン分泌を、さらに腸内分泌細胞ではインクレチン(GLP-1)の分泌を促進した。
 まったく新しい血糖値を安定化する物質になる可能性があるとしている。
インスリン分泌を増やすインクレチン
 2型糖尿病の原因は、過食や運動不足、肥満、ストレスなどさまざまだ。

 膵臓の機能の低下により、血糖を下げるインスリンを十分に作れなくなってしまうインスリン分泌低下や、インスリンに対する感受性が低下し、その作用が十分に発揮できなくなるインスリン抵抗性の2つが影響して、血糖値が高くなる。

 治療に用いられている経口血糖降下薬に、ビグアナイド薬、SU薬、インクレチン製剤(DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬)などがある。

 インクレチンは、膵臓β細胞を刺激して、血糖値に応じてインスリン分泌を促進する消化管ホルモン。DPP-4阻害薬は、インクレチンを分解する酵素であるDPP-4の働きを抑えることでインクレチンを長持ちさせて働きを強め、インスリンを増やして血糖を下げる薬だ。

 DPP-4阻害薬は、血糖値の上昇にともないインスリン分泌を増やし、単独で使うと低血糖になりにくい。さらに血糖コントロールの改善にともなう体重の増加のリスクが低いことなどから、2型糖尿病の薬物治療で広く使われている。

 ただし、インクレチンはあくまでもインスリン分泌を刺激するホルモンなので、インスリンとは異なりそれ自体は血糖を下げる作用をもたない。そのため、インスリン分泌低下が進んでしまうと効果が十分でない場合がある。

 従来の治療薬と異なる、血糖値をより安定化する新しい治療が望まれている。
血糖値を安定化させる生理活性ペプチドを発見
世界初の血糖値の安定化に寄与する天然ペプチドの発見

出典:名古屋大学、2021年

 名古屋大学は、血糖値の安定化に寄与する、天然アミノ酸からなる生理活性ペプチドを発見したと発表した。

 ペプチドは、アミノ酸がペプチド結合で連なったポリマー(高分子化合物)。タンパク質は、アミノ酸が何百個もつながるペプチド結合によってかたちづくられる。タンパク質になる天然アミノ酸は20種類ある。

 腸管内の細胞はさまざまな栄養素を検知して代謝を制御している。遊離脂肪酸(FFA)もそのひとつで、FFAに対する受容体FFAR1を活性化すると、インスリン分泌により血糖値の上昇を抑えられることが知られている。

 ただし、FFAR1を作動させる従来の低分子化合物は、毒性や副作用が報告されている。そのため、毒性の少ない新しい化合物の開発が求められていた。

 研究グループは今回の研究で、同様の活性をもち低毒性な新しい候補化合物として、天然アミノ酸からなるペプチドSTTGTQの探索に世界ではじめて成功した。さらに、機械学習を用いた配列機能相関解析により、さらに高い活性をもつペプチドも探索できることを明らかにした。

 これらのペプチドは、膵β細胞でグルコース濃度依存的インスリン分泌を、さらに腸内分泌細胞ではGLP-1分泌を促進したことから、従来の作動薬に代わる全く新しい血糖値安定化物質になる可能性がある。

 また、このペプチドをさらに改変し、研究室で構築した可食性タンパク質由来のペプチド約20万種類を収載したデータベースに突き合わせたところ、同等の活性をもつ可食性タンパク質由来のペプチド3種類の同定にも成功した。

 FFAR1を活性化するペプチドの発見は今回の研究がはじめてで、発見されたペプチドは2型糖尿病や肥満の予防・改善に効果がある機能性食品への利用や、FFAR1作動薬の基礎研究に役立てることが期待される。

 研究は、名古屋大学大学院工学研究科の本多裕之教授らの研究グループが、同大学大学院生命農学研究科の柴田貴広教授と共同で行ったもの。研究成果は、「Biochemical and Biophysical Research Communications」に掲載された。
インスリン分泌を促すFFAR1 インクレチン分泌を促進
 遊離脂肪酸受容体1(GPR40/FFAR1)はGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり、膵臓のβ細胞、腸内分泌細胞に多く発現している。β細胞は、膵臓ランゲルハンス島にあるインスリン分泌する細胞だ。

 GPCRは、生体にある受容体の形式の受容体のひとつで、さまざまな生体反応の制御に関わっている。

 FFAR1は中・長鎖脂肪酸によって活性化され、膵臓β細胞で受容体に共役したGタンパク質を介して細胞内情報伝達系に伝搬し、グルコース濃度依存性インスリン分泌を促進する。

 低血糖のリスクなく血糖値を安定化できるため、FFAR1は新規2型糖尿病治療の標的分子として注目を浴びている。

 また、腸内分泌細胞では、別のGタンパク質を介してインクレチン分泌を促進する。インクレチンは、膵臓β細胞を刺激して、血糖値依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモン。代表的なものにGLP-1やGIPがある。

 GLP-1は膵臓β細胞に作用してインスリン分泌を促進するだけでなく、摂食抑制作用による体重減少を引き起こすため、肥満改善にも効果がある。

 Gタンパク質の両方の経路を活性化するFFAR1アゴニストは肥満改善・糖尿病治療両方に効果が期待されるため、新たな治療戦略となっている。

 一方、ペプチドは2~数十残基のアミノ酸がつながったポリマーだ。L型天然アミノ酸のみでも20種類あるため、ペプチドは配列多様性が非常に大きく、医薬品や機能性食品素材のリード化合物のライブラリーとして期待されている。

 近年では、生活習慣病の予防・改善を目的とした生理活性ペプチドが注目されており、実際に血圧降下、抗酸化作用などの機能をもつペプチドが発見されている。

 食品由来のペプチドは体内で機能を発揮した後、最終的には、消化管プロテアーゼや腸内細菌プロテアーゼによってアミノ酸に分解されて代謝されるため、人体への毒性も低いと考えられる。
より高いインスリン分泌を示すペプチドも発見
 研究グループは今回の研究で、FFAR1アゴニスト活性をもち、低毒性な新しい候補化合物として、天然アミノ酸からなるペプチドの探索に成功した。

 まず、FFAR1を発現するHEK293細胞を用いて、ファージディスプレイ法によりFFAR1にヒットするペプチド(配列情報:STTGTQ)を世界ではじめて発見した。次に、このペプチドの1アミノ酸置換体を、研究室で考案した可溶性ペプチドライブラリー合成法で合成・評価し、機械学習を用いた配列機能相関解析により、高活性なペプチドの予測モデルを構築した。

 その結果、STTGTQより約3倍高活性で、より低濃度で高いインスリン分泌を示すペプチドSTKGTFを発見した。ペプチドSTKGTFは膵β細胞でグルコース濃度依存的インスリン分泌を確認し、また腸内分泌細胞株でもFFAR1を活性化し、GLP-1分泌を促進した。

 最後に、ペプチドSTKGTFをさらに改変し、研究室で構築した可食性タンパク質由来のペプチド約20万種類を収載したデータベースに突き合わせて検索したところ、ペプチドSTKGTFと同等の活性をもつペプチド3種類を同定した。

 「FFAR1は糖尿病の標的分子として注目されてきましたが、FFAR1を活性化できる化合物は低分子創薬化合物の開発のみ進められており、天然アミノ酸からなるペプチドの開発は行われてきませんでした。天然ペプチドで活性化できるということは、タンパク質加水分解物で効果が期待できるため、健康食品など、安全な食品添加物の開発につながります」と、研究者は述べている。

FFAR1アゴニスト活性をもつペプチドの探索に成功

出典:名古屋大学、2021年

名古屋大学大学院工学研究科
Screening of a novel free fatty acid receptor 1 (FFAR1) agonist peptide by phage display and machine learning based-amino acid substitution(Biochemical and Biophysical Research Communications 2021年3月6日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

play_circle_filled ニュース記事の二次利用について

このページの
TOPへ ▲