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2020年10月29日
「糖尿病の飲み薬」を知って効果的に治療 副作用にも注意 どのような種類があるのか?
糖尿病の治療で使われる経口薬(飲み薬)は7種類。治療効果を引き出し、安全に治療するためにも、それぞれの薬の効果や副作用について知っておくと安心できる。
糖尿病の治療は進歩している
糖尿病の経口薬(飲み薬)は7種類に増え、糖尿病の治療は進歩している。全国の糖尿病専門医が参加している「糖尿病データマネジメント研究会」の調査によると、2019年のHbA1c値の平均は1型糖尿病患者で7.77%、2型糖尿病患者で7.10%となり、10年間で改善している。
これは「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」などの新しい薬剤が使われるようになり、いつくかの薬剤を併用することで血糖・体重コントロールが改善しているからだ。
日本では個々の患者の病態に合わせて治療薬を選択することが推奨されている。これらの治療薬を組み合わせると、多くの場合で良好な血糖コントロールが得られるようになる。また、インスリンやGLP-1受容体作動薬といった注射薬と併用する場合もある。
ただし、薬による治療では副作用に十分な注意が必要だ。どのような作用や副作用があるかを患者が事前に知っておけば、副作用が起きたときに医師や医療スタッフに相談しやすい。
血糖が下がりすぎる低血糖に注意
海外で実施されたDCCT試験や、DCCT/EDIT試験、UKPDS、日本で実施された熊本スタディなどの臨床研究では、薬物療法によりできるだけ早期から積極的に血糖コントロールを行うと、血管合併症や死亡リスクが低下することが明らかになっている。
一方で、血糖値を下げる作用が効き過ぎ、血糖値が低くなり過ぎる「低血糖」には注意が必要だ。薬をいつも通り使用していても、ふだんと違って食事を抜いたり、食事の量が少なかったり、運動量が多いときなどに、低血糖は起こりやすい。
低血糖になると、まず空腹感、脱力感、冷や汗、震え、動悸などが現れる。血糖値がさらに下がると、頭痛、吐き気、目のかすみ、集中力の低下などが起こる。さらに下がると、意識障害、痙攣などが起こる。
インスリン分泌を促進する薬のうち、SU薬と速効型インスリン分泌促進薬は低血糖を起こる可能性のある薬だ。
ACCORD試験などでは、2型糖尿病の治療で厳格な血糖コントロールを目指すと、重い低血糖が増加するおそれがあることが示された。この教訓を受けて、現在の糖尿病の治療では、低血糖を避けながら高血糖を改善し、血糖変動が小さく保たれた良好な血糖コントロールが目指されている。
血糖値を下げ、低血糖が起こりにくい薬
■ DPP-4阻害薬 |
シタグリプチンリン(ジャヌビア、グラクティブ)、ビルダグリプチン(エクア)、アログリプチン(ネシーナ)、リナグリプチン(トラゼンタ)、テネリグリプチン(テネリア)、アナグリプチン(スイニー)、サキサグリプチン(オングリザ)など |
■ ビグアナイド薬 |
メトホルミン塩酸塩(メトグルコ、グリコラン)など |
■ SGLT2阻害薬 |
イプラグリフロジンL-プロリン(スーグラ)、ダパグリフロジンプロピレングリコール(フォシーガ)、ルセオグリフロジン(ルセフィ)、トホグリフロジン(デベルザ、アプルウェイ)、カナグリフロジン(カナグル)、エンパグリフロジン(ジャディアンス)など |
インスリン分泌を促進し、全般に血糖値を下げる薬
■ スルホニル尿素(SU)薬 |
グリベンクラミド(ダオニール、オイグルコン)、グリクラジド(グリミクロン)、グリメピリド(アマリール)など |
食後の高血糖を改善する薬
動脈硬化を予防するためには、食後血糖値(食べ始めてから1~2時間後)をおよそ180mg/dL未満にコントロールする必要がある。2型糖尿病の多くは、食後の急峻な血糖上昇が起こり、これがさまざまな変化を引き起こす。酸化ストレスもそのひとつで、血管の内膜の機能を障害し、動脈硬化の原因になると考えられている。
■ 速効型インスリン分泌促進薬 |
ナテグリニド(ファスティック、スターシス)、ミチグリニドカルシウム水和物(グルファスト)、レパグリニド(シュアポスト)など |
■ α-グルコシダーゼ阻害薬 |
アカルボース(グルコバイ)、ボグリボース(ベイスン)、ミグリトール(セイブル)など |
インスリンを効きやすくする薬
■ チアゾリジン薬 |
ピオグリタゾン塩酸塩(アクトス) |
高齢者の薬物療法の注意点は?
高齢者では腎臓や肝臓の機能が低下している場合が多く、そうした人が血糖を下げる薬を使うと、薬を排泄・分解する力が弱いために、薬が効きすぎて低血糖になったり、副作用がでたりすることがある。
また、高齢者では低血糖のときに、自律神経症状である冷や汗、震え、動悸などの症状がはっきり出ない場合がある。また、「頭がくらくらする」「目がかすむ」「ろれつが回らない」「元気がない」など典型的でない低血糖症状を示すため、低血糖が見逃されやすく、結果として重症低血糖を起こしやすくなる。
「SU薬」や「速効型インスリン分泌促進薬」を飲んでいる人は、重症低血糖を起こす可能性がある。血糖コントロールの目標について主治医と相談し、自覚症状についてよく主治医に伝える必要がある。また、食事が十分にとれていない状況や、体調が悪いときに(シックデイ)これらの薬を使い続けると、低血糖が起こりやすくなるので注意が必要だ。
低血糖にならないようにするための注意、低血糖になったときの対応方法については、主治医や薬剤師、看護師が教えてくれる。自分の使用している薬が分からない人は、一度確認するようにしよう。
開発が進められている新しい糖尿病治療薬
第63回日本糖尿病学会年次学術集会
10月にWeb開催された「第63回日本糖尿病学会年次学術集会」では、現在開発が進められている新しい糖尿病治療薬について紹介された。
インクレチンは消化管から分泌されインスリン分泌を促進する消化管ホルモンの総称で、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)とインスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)の2種類がある。GIPにはGLP-1に似た血糖依存性のインスリン分泌促進作用や、β細胞に対する保護作用があるとみられている。そのGIPとGLP-1を組み合わせたGIP/GLP-1受容体デュアル作動薬が開発中で、新世代のインクレチン薬として注目されている。
世界初の経口投与できるGLP-1受容体作動薬は2020年6月に承認を取得した。同剤はアルブミンと結合して代謝による分解の遅延および腎クリアランスの低下を示すと考えられており、またアミノ酸置換によりDPP-4による分解に対して抵抗性を示すことで作用が持続する。
イメグリミン(Imeglimin)は、全く新しいクラスの経口糖尿病治療薬で、ミトコンドリア機能を改善し、膵臓に作用しインスリン分泌を血糖依存的に増加させ、肝臓による過剰なグルコース産生を低下させる。筋肉・肝臓にも作用し、インスリン感受性を回復させることが示されている。2021年度の発売が予想されている。
意識レベルが低下した重症低血糖患者への自宅での治療は、家族などが行うグルカゴン注射しかなかったが、点鼻式グルカゴン製剤が2020年10月に発売された。グルカゴンパウダー3mgを経鼻的に噴霧すると、鼻粘膜から速やかに吸収され、1mgのグルカゴン注射と同等の血糖上昇効果を得られる。日本糖尿病学会「糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会」の報告では年間約2万件の重症低血糖の発症が推計されており、操作が極めて簡便な点鼻グルカゴン製剤は期待されている。
1型糖尿病の治療としてSGLT2阻害薬をインスリンと併用することが2019年に認められた。SGLT2阻害薬を1型糖尿病患者に使用するベネフィットとして、低血糖リスクを増加させない血糖低下効果、食後血糖値の低下、24時間血糖値の低下、MAGE(平均血糖変動幅)の減少、体重減少、インスリン投与量の減少などがあるが、一方で、ケトアシドーシスが増えるというリスクもある。1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬の服用時には、正常血糖ケトアシドーシスに注意が必要となる。
第63回日本糖尿病学会年次学術集会
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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