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2020年09月15日
肌にパッチを貼るだけで血糖値をモニター 痛みがなく扱いも簡単 糖尿病患者の負担を軽減
- キーワード
- 医療の進歩 血糖自己測定(SMBG)
出典:東京大学生産技術研究所、2020年
東京大学生産技術研究所は、穿刺具や注射針の代わりに、皮膚に貼るだけで容易に血糖をモニタリングできる「マイクロニードルパッチ型センサー」を開発した。
このパッチ型センサーは、肌に貼るだけで簡単に扱えて、痛みを感じることがなく、肉眼で血糖値の高低を知ることができる。
このパッチ型センサーは、肌に貼るだけで簡単に扱えて、痛みを感じることがなく、肉眼で血糖値の高低を知ることができる。
皮膚に貼るだけ 痛みのないマイクロニードルとセンサーを開発
東京大学生産技術研究所は、採血用のランセット(穿刺器具)や注射針の代わりに、皮膚に貼るだけで容易に、血糖値と相関が高い間質液中のグルコース値を測れる「マイクロニードルパッチ型センサー」を開発した。
研究グループが開発したパッチは、片面には非常に極小の針(マイクロニードル)が多く並び、もう片面には血糖値を測定するセンサーが配置されており、互いがつながっている。
マイクロニードルは、尖端の直径が50μm以内(1μmは1,000分の1mm)で、長さが0.8mmほどと非常に小さく、皮膚にパッチを貼っても痛みを感じない。さらに、生体内で溶けるポリマーでできており、体内に針が残留して害となることがないという。
マイクロニードルには、スポンジのようにたくさんの穴が空いており、外部からエネルギーを与えなくても、毛細管力で微量の細胞の間質液を皮下から採取し、パッチの上部にあるセンサーがグルコース値が継続的に測定する。
痛みがなく毎日できる血糖モニタリングが必要
糖尿病は、現在の医療技術では完治することでできず、血糖値を適正のコントロールし、合併症の発症を防ぐことが、治療ではリスク管理の重要な戦略となっている。
常に変動する血糖値をリアルタイムに知ることができれば、自分の体の糖代謝の現状が分かる。血糖自己測定(SMBG)や持続血糖モニター(CGM)はそのための重要な手段になる。
しかし、毎日のSMBGは、機器やデバイスが日々進歩しており、患者の負担は軽減されているものの、指先などを穿刺器で採血することが必要で、患者によっては負荷を感じることがある。また、CGMの費用は高価で、患者の経済的負担が増すという課題がある。
さらに糖尿病予備群では、健康診断や医療機関で血液検査などを受けなければ、自分が血糖値が高くなっていることに気付くことができない。
日常生活で痛みなどをともなわず、安価で簡単に血糖値のモニタリングを継続できれば、糖尿病の一次予防や二次予防の促進につながると期待されている。
痛みのないマイクロニードルの開発に成功
多孔質・生体分解性のマイクロニードル
マイクロニードルは、尖端の直径が50μm以内(1μmは1,000分の1mm)
で、長さが0.8mmほどと非常に小さい。
で、長さが0.8mmほどと非常に小さい。
出典:東京大学生産技術研究所、2020年
血糖値と相関のある間質液のグルコースを測定
血糖値センサーは、グルコースオキシダーゼとグルコースペルオキシダーゼという2種類の酵素と染料色素(テトラメチルベンジジン)が組み合わせており、発色明度の変化を指標として、血糖値の高低を肉眼で簡単に知ることができる。
研究グループは、マイクロニードルパッチ製作の技術をいかし、グルコースを含むさまざまな物質が細胞と血管を移動する際に通過する「間質液」に着目した。間質液のグルコース濃度を測定することで、血糖値を測定するウェアラブルセンサーデバイスの製作に取り組んだ。
間質液とは、体の細胞を浸している液体のこと。グルコース(ブドウ糖)は血管を通って体中に運ばれ、体の末端で毛細血管から間質液、さらには細胞へと運ばれ利用される。
間質液中のグルコース濃度は、血糖値そのものではないが血糖値と相関が高く、これを測定することで血糖値を推測することができる。
安価に量産できる 使い捨ての使用を想定
研究は、東京大学生産技術研究所および大学院工学系研究科精密工学専攻の金範埈教授、生産技術研究所および大学院工学系研究科化学生命工学専攻の南豪准教授、李學哉氏らの研究グループによるもの。研究成果は、学術誌「Medical Devices & Sensors」オンライン版に掲載された。
研究グループは今回の研究で、世界ではじめて、生体分解性高分子を用いて、多孔質のマイクロニードルを紙の基板上に製作し、低侵襲で皮下の体液を直接取り出して微小流路デバイスを通してセンサー部へ届け、精度高く長期間にわたり血糖値を測定できるマイクロニードルパッチ型センサーの開発に成功した。
このパッチは安価で量産可能であり、使い捨ての使用を想定している。今まで困難とされていた、多孔質マイクロニードルの最適な形状と寸法を実現する製作方法を確立し、皮膚への穿刺可能な機械的強度(必要強度の6倍以上)を示すことも確認できた。
研究では、多孔化手法として、構造(孔径および空隙率)を容易に制御できる「ソルトリーチング法」(混合したNaCl粒子を溶出することで空孔を得る手法)を用いた。これにより空隙率と体液吸収率の最適化およびニードルの形状の最適化、紙シートのセンサー層との一体化を実現した。
これまでに、涙、尿、汗などの媒体から血糖を追跡する診断デバイスの研究も進められてきたが、着用しにくかったり、診断の場所や体のリズムの制限があったり、汚れが測定結果に影響を与えるといった課題が多かった。
多孔質マイクロニードルアレーと紙基板のパッチセンサー
皮下間質液を吸収し、その中のグルコース濃度の差によって、センサー層での発色明度を変化させ、肉眼でグルコースの濃度を判断できる。携帯カメラ−や画像処理技術を融合し、輝度値を定量化することも可能。
精度高く長期間にわたり血糖値を測定できるマイクロニードルパッチ型センサーの開発に成功
(左)低侵襲で皮下の体液を取り出して微小流路デバイスを通してセンサー部へ届け血糖値を測定。
(右)間質液内グルコース濃度が6.9mM/L以下であると糖尿病予備群に当たらない正常値であると判断される。このデバイスにより十分に、日常生活でのスクリーニング検査として、血糖値のモニタリングが可能であることが示された。
(右)間質液内グルコース濃度が6.9mM/L以下であると糖尿病予備群に当たらない正常値であると判断される。このデバイスにより十分に、日常生活でのスクリーニング検査として、血糖値のモニタリングが可能であることが示された。
出典:東京大学生産技術研究所、2020年
「生体分解性マイクロニードル医療パッチ」を開発
自宅で簡便・確実に利用できる診断システムは、予防医療を促進すると期待されている。微量の血液から2型糖尿病や高血圧、がん、脳卒中、心臓病、などの生活習慣病、インフルエンザなどの感染症の診断ができるヘルスモニタリング用のマイクロチップを開発すれば、患者や医師や医療従事者の負担や、医療費の増加を軽減できる可能性がある。
研究グループは、「センサーの開発を進め、グルコースだけでなく、コレステロールやホルモン、さまざまなバイオマーカーなどを、低侵襲かつ継続的に自分で測定できる、在宅健康診断用の"生体分解性マイクロニードル医療パッチ"へ応用を目指す」と述べている。
東京大学 生産技術研究所Porous microneedles on a paper for screening test of prediabetes(Medical Devices & Sensors 2020年8月15日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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