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2019年10月10日

糖尿病の早い段階から「食後高血糖」に注意 サポート体制は整ってきた

 食後に血糖値が高くなる「食後高血糖」。糖尿病予備群の段階から注意が必要だ。
 内分泌学会は、食後高血糖を改善し、血糖コントロールを最適化するために、戦略ツールが必要だとする報告書を発表した。
食後高血糖は糖尿病の"初期症状"
 「食後高血糖」とは、食後に血糖値が上昇し、なかなか下がらない状態。血糖値は1日中変動している。ふつうは食事の後でも、血糖値が140mg/dLを超えることはほとんどなく、食事に反応しインスリンが分泌され、2~3時間以内には食事の前の値に戻る。

 しかし食後のインスリン分泌が足りなかったり分泌されるタイミングが遅い人では、食後の血糖値がすぐに下がらず、高い値になる。

 日本人の2型糖尿病では、糖尿病を発病する前の段階や発病してから間もない時期に、食後の血糖値が健康な人に比べて大きく上がり、すぐには下がらないことが多い。進行した糖尿病の人では食後の血糖値はいっそう大きく上がり、しかも朝食前も高いケースも多い。

 内分泌学会(Endocrine Society)は、糖尿病専門家のパネルを招集し、薬物療法、生活スタイルの変化、テクノロジーの進歩により、食後高血糖の問題をどのように解決できるかを調査した。

 食後血糖値についての研究報告は増えているが、具体的な目標を設定するためには、さらに研究が必要だという。詳細は医学誌「Journal of the Endocrine Society」に発表された。

関連情報
食後高血糖は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める
 高血糖は、血管が固くなったり、狭くなったりする、動脈硬化(血管の老化)を進める原因になる。とくに食後高血糖は、動脈硬化を進めやすい。動脈硬化によって、心筋梗塞や脳卒中の危険性が高まる。糖尿病の方は糖尿病ではない人と比べ、心筋梗塞の危険度が数倍高いことが知られている。

 糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症などの細小血管症を予防・改善するためには、空腹時血糖値とHbA1c(過去1~2ヵ月間の平均血糖値を反映する)を改善する必要がある。

 心筋梗塞や脳卒中などの大血管症を抑えるためには、さらに食後高血糖の改善も必要になる。糖尿病合併症を予防するための血糖コントロールの目標はHbA1c 7.0%未満で、対応する血糖値の目安は、空腹時血糖値は130mg/dL未満、食後2時間血糖値は180mg/dL未満だ。

 動脈硬化のリスクは、食後の血糖値だけが高い糖尿病予備群の段階から上昇することが知られている。
食後高血糖の改善の道は開かれている
 食後に血糖値が高くなると、動作が鈍くなる、気分が悪くなるなどの影響が出ることがあっても、多くは自覚症状がない。

 「超速効型インスリン、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬などの新しい薬の登場、インスリンポンプ療法やCGMの進歩などにより、食後高血糖の改善に道が開かれています。具体的な目標と戦略を決め、糖尿病患者が治療の進歩の恩恵を受けられるようにするべきです」と、バーモント大学医学部のジョン リーヒー氏は言う。

 調査では、食後血糖値を良好にコントロールするのが難しいと、患者は治療に対する不安や不全感を抱くようになり、そのことが糖尿病の自己管理に悪影響をもたらすおそれがあることが示された。

 「医療従事者と糖尿病患者はいまや、食後高血糖の問題に対処するために、新しい措置をとることができます。食後の血糖値を改善する薬や、超速効型インスリン、CGMシステムなど、医療の進歩が新しい手段を提供してくれます」と、リーヒー氏は言う。
CGMで24時間の血糖値の変動が分かる
 2型糖尿病の治療では、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬などの新しいタイプの薬が使われている。

 DPP-4阻害薬は経口薬で、血糖値に応じて食後のインスリン分泌を促進し、主に食後の高血糖を改善する。単独で使用すると低血糖のリスクは極めて少ない。2015年から週1回投与の薬剤も使われるようになり、利便性が向上している。

 GLP-1受容体作動薬は注射薬で、やはり血糖値に応じて食後のインスリン分泌を促進し、同時に血糖を挙げるグルカゴンの分泌も抑制する。その結果、空腹時および食後の高血糖を改善する。やはり単独投与では低血糖のリスクは少ない。

 さらに、αグルコシダーゼ阻害薬には、ブドウ糖の吸収を遅らせ食後血糖を改善する作用がある。速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)は、インスリン分泌のスピードを早めて、食後の血糖の上昇を抑える働きがある。

 血糖値の変動は、1日に何度か自分で血糖値を測定する「血糖自己測定」で、ある程度分かる。指先からわずかな血液を採り、それを血糖測定器で調べる方法だ。血糖自己測定は、インスリンで治療している人などが毎日行っている。

 最近では、血糖値を24時間自動的に記録する新しい技術である「持続グルコースモニタリング(CGM)」が登場している。体に装着するセンサーとデータを読み取る装置がセットになっている。

 CGMで24時間の血糖値の変動を調べると、血糖値の連続的な変化がよく分かる。それまで気付かなかった高血糖や低血糖が分かり、従来の血糖自己測定では分かりにくかった睡眠中の低血糖も調べられる。
生活スタイルを工夫して食後高血糖を防ぐ
 血糖コントロールの理想的な目標は、1日を通じて高血糖と低血糖がなく、空腹時および食後の高血糖が改善され、その結果HbA1c値が正常化することだ。

 研究では、生活スタイルを少し変えることで、食後の血糖値の上昇を抑えられることも示された。血糖値を挙げるのは主に炭水化物なので、炭水化物を食べる前に、肉や魚などのタンパク質を含む食品や野菜を食べると効果的だ。食後に10分以上のウォーキングをすることでも、食後の血糖値の上昇を抑えられる。

 CGMを使用した研究が増えており、リアルタイムのデータも多く集まってきた。薬物療法、食事や運動、タイミングなどの要因が食後の血糖値にどのように影響するかについて、多くのことが分かりつつある。

 「糖尿病合併症を抑制するために、食後高血糖の改善が必要です。そのために、安全で効果的かつ実用的な介入戦略を開発し、研究を重ねる必要があります」と、リーヒー氏は語った。

Diabetes advances poised to help manage blood sugar after meals(内分泌学会 2019年10月7日)
Optimizing Postprandial Glucose Management in Adults With Insulin-Requiring Diabetes: Report and Recommendations(Journal of the Endocrine Society 2019年10月7日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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