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2019年06月14日
糖尿病の「インスリン療法」は早期に開始すると効果的 始めてみると「意外に簡単」

インスリン療法は進歩しており、これまでにない便利なインスリン製剤が治療に使われるようになっている。インスリン療法やインスリンを実際に治療に使ったときの効果についての研究成果が続々と発表されている。
インスリン療法はシンプルな治療法
糖尿病の治療薬には、7種類の飲み薬(経口薬)とインスリン製剤、インスリン以外の注射製剤がある。インスリン以外の治療薬は基本的に、膵臓の機能が残っていて、自身のインスリン分泌能がある程度保たれている状態でなければ効果を期待できない。
インスリン療法とは、「足りないインスリンを体の外から補充して、血糖コントロールを改善する」治療法。治療に用いる製剤中のインスリンは、体に自然にあるものと基本的に同じだ。
膵臓が分泌するインスリンには、1日24時間、一定量を分泌し続ける「基礎インスリン(基礎分泌)」と、食事をしたとき一時的に分泌する「追加インスリン(追加分泌)」がある。糖尿病になるとこれらが足りなくなるので、足りない分だけ注射で補うという至ってシンプルで合理的な治療法が「インスリン療法」だ。
インスリンは「最後の手段」ではない
インスリン治療では、正常な人のインスリンの体内分泌を再現することが理想だと考えられている。
「インスリン療法は重症になってからの治療法」というイメージをもつ人が少なくないが、これはまったくの誤解だ。
治療をしっかり継続できれば血糖コントロールは改善し、合併症を予防したり進展を遅らせることができる。また、膵臓の働きが正常化すれば、インスリンをやめられる場合もある。
2型糖尿病では、食事療法、運動療法、および経口血糖降下薬によっても血糖コントロールができない場合や、高血糖による「糖毒性」を解除する目的でインスリン治療が行われる。
高血糖状態が長く続くと、「糖毒性」という、血糖値を下げる薬が非常に効きにくい状態になることがある。そうした場合は、インスリンを使って速やかに血糖値を下げることで、薬の効きが良くなる。
さらに、体外からインスリンを注射することで、膵臓がインスリンを分泌する負担を軽くして、膵臓を休ませる効果もある。
「糖毒性」を解除するために、糖尿病の症状の軽いうちから、インスリン療法を開始するのが効果的と考えられている。
早く始めるほど結果がついてくる
日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会がまとめた「糖尿病標準診療マニュアル」によると、いくつかの経口薬を併用しても血糖コントロールが改善せず、HbA1c 9%以上が持続するなら、インスリン療法を積極的に始める必要がある。
米国糖尿病学会(ADA)や欧州糖尿病学会(EASD)では、さまざまな試験の結果をふまえて、インスリン治療を糖尿病治療に組み込むことを推奨している。
血糖コントロールを改善することで、網膜症、腎症、神経障害などの合併症の予防は可能で、心筋梗塞や脳卒中のリスクも減少できる。そのために必要なことは、「糖尿病の治療をできるだけ早期から始めること」だ。
ADAやEASDによる治療ガイドラインでは、早期からのインスリン治療の導入が推奨されている。世界で1億人の人がインスリンを必要としており、インスリンは世界的にもポピュラーな治療法だ。
● インスリン注射の7つの簡単なステップ
英国糖尿病学会(Diabetes UK)は、インスリン注射を解説したビデオを公開している。7つの簡単なステップで、インスリン注射を正確に行えるようになるとしている。
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1日1回の注射から始められる
早期にインスリン療法を始めることで、注射回数も1日1回で済む場合もある。日常生活への負担を軽減し、より少ない注射回数から始めることができ、薬の量を減らすこともできる。
インスリン製剤には、注射後すぐに作用する「超速効型」、長時間緩やかに作用する「持効型溶解型」などがあり、患者の病態に合わせてさまざまなタイプが用意されている。
インスリン分泌が低下している場合には、2剤以上のインスリンを組み合わせた「強化療法」が行われることが多い。
自己免疫疾患などが原因で起こる1型糖尿病は、多くの場合で診断された時点でインスリンの分泌が枯渇しているので、最初からインスリン製剤が不可欠だ。1日4~5回のインスリン注射をしたり、インスリンのポンプを装着してプログラムした量のインスリンを注入する治療が行われる。
インスリンは難しくない 外来でも開始できる

注射は「痛くない」という声が多数
「超速効型」と「持効型溶解型」の2つの有効成分を含有した「配合溶解型」インスリンも治療に使われている。2剤以上のインスリンによる強化療法よりも投与回数を減らすことができ、1日1回または2回の注射で治療できる製剤もある。
現在、使われているインスリン注射用注射針は31G(同0.25mm)や32G(同0.23mm)で、採血用針の3分の1から4分の1以下の太さだ。34G(0.18mm)というとても細い注射針も治療に使われており、「痛みをまったく感じない」という患者が多い。
実際には注射の手技は簡単で、1~2分で注射でき、ほとんどの患者が1回の指導で打てるようになる。十分な知識と経験をもつ医師や医療スタッフのもとであれば、インスリン治療は外来でも安全に行うことができる。
インスリン治療をはじめるときも、飲み薬をすべてやめて頻回注射に変えるのではなく、それまで飲んでいた飲み薬にインスリンを追加するなど、簡単に始められる方法もある。
新型のインスリン製剤の開発も進められており、近い将来に新たなインスリン製剤が治療に使われるようになると見込まれている。週1回の長時間作用型インスリンの開発も進められている。
インスリン治療を継続して、大きな合併症もなく現在も元気に過ごしている糖尿病患者はどんどん増えている。
● 「リリー インスリン50年賞」 インスリン治療を続けて50年
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[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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