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2019年04月12日

糖尿病によるインスリン抵抗性がアルツハイマー病の原因に メカニズムを解明

 糖尿病の人ではアルツハイマー病の発症が2倍に増えることが知られている。東京大学の研究チームが、2型糖尿病によってアルツハイマー病の発症リスクが高まるメカニズムの一端を解明した。糖尿病のある人向けの予防法や、新たな治療薬の開発につながる成果だ。
インスリン抵抗性がアルツハイマー病の病因タンパク質の蓄積を引き起こす
 東京大学の研究チームは、インスリンの働きの低下と関係なく、高脂肪の食事を摂り続けることで脳に代謝ストレスが生じ、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβが蓄積するメカニズムを解明した。

 研究は、同大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学分野の岩坪威教授らのよるもので、その成果は医学誌「Molecular Neurodegeneration」オンライン版に発表された。

 アルツハイマー病は、もっとも頻度の高い認知症で、遺伝的な背景や環境的な要因により発症するが、2型糖尿病が発症リスクを2倍に高めることが最近の研究で明らかになっている。

 糖尿病のある人でアルツハイマー病の発症リスクが上昇する理由として、「インスリン抵抗性」があるためだと考えられている。インスリン抵抗性は脳の「老人斑」の形成の程度と相関すことが、これまでの研究で報告されている。

関連情報
インスリン抵抗性による代謝ストレスがアルツハイマー病の進行に影響
 アルツハイマー病の患者の脳では、認知機能が低下する10年以上前から、「アミロイドβ」呼ばれる毒性のあるペプチドが凝集し、老人斑が蓄積される。アミロイドβの蓄積がアルツハイマー病の発端となるので、これが溜まるのを抑えることが治療や予防では重要と考えられている。

 一方、インスリン抵抗性は、血糖を降下させるインスリンが臓器で作用しにくくなった状態で、2型糖尿病でよくみられる。高脂肪食の摂取や肥満、運動不足などの要因により、脂肪組織や肝臓、筋肉などの代謝に関与する臓器に慢性的な炎症やストレスが生じ、インスリンの細胞内へのシグナル伝達が阻害されることで起こる。

 脳でもインスリン抵抗性が起こっていると考えられており、アルツハイマー病患者の脳ではインスリンが受容体によるシグナル伝達をうまく起こせないという報告があるが、詳しいメカニズムは十分は分かっていない。

 そこで研究チームは、2型糖尿病とアルツハイマー病をつなぐメカニズムとして、「インスリンシグナルの障害」に着目し、実験を行った。

 細胞では、シグナル(情報)が他の種類のシグナルに伝達されることで、正常に機能するようになる。インスリンはグルコースや脂質などのエネルギー制御のために必要だ。 アルツハイマー病の要因は、脳内のインスリンシグナルが破綻することだと考えられている。

 研究チームは、加齢とともに脳にアミロイドβがアミロイド斑として蓄積するようにしたモデルマウスに、高脂肪食を与え、あるいはインスリンシグナル伝達に重要な「IRS-2」を欠損することでインスリン抵抗性の誘発し、アミロイドβの蓄積を調べた。IRS-2は、インスリンの細胞内でのシグナル伝達で重要な役割をはたしている受容体基質だ。

 その結果、高脂肪食を与え続けると、臓器での炎症性シグナルやストレスシグナルが増え、脳でインスリン抵抗性を引き起こし、アミロイドβの蓄積も増えた。また、IRS-2を欠損したマウスは、それだけではアルツハイマー病の原因になるアミロイドβは増えないが、高脂肪食を与え続けると糖尿病の病態が悪化し、アミロイドβの蓄積も増加することが分かった。
食事療法で脂肪の摂り過ぎを抑えるとアルツハイマー病のリスクは減らせる
 このように、食事によって引き起こされるインスリン抵抗性によってのみ、アルツハイマー病の発症が促進されることが明らかになった。これにより、インスリンシグナルの低下そのものではなく、インスリン抵抗性の発症の要因となる代謝ストレスが、アルツハイマー病の発症おいて重要であることが示された。

 さらに、高脂肪食の食べ過ぎにより脳のアミロイドβが増加しても、その後に食事療法を行い高脂肪食を制限することで、インスリン抵抗性が改善し、それに応じて脳のアミロイドβ蓄積も可逆的に減少することも分かった。

 さらに研究では、インスリンやアミロイドβの脳内での動態を解明するため、脳の細胞の間隙にあるタンパク質も調べた。その結果、高脂肪食の摂取により2型糖尿病になると、血液中から脳へのインスリンの移行が低下することで、脳でインスリン抵抗性が生じることが示された。また、糖尿病になるとアミロイドβの除去速度が低下し、その蓄積が増加することもはじめて分かった。
インスリン抵抗性を解消しアルツハイマー病を予防
 アルツハイマー病の発症メカニズムはすべてが解明されているわけではなく、有効な治療法もまだないが、その発症にインスリン抵抗性が関わっていることが分かり、それを解消する治療法の開発も進められている。

 今回の研究では、インスリンの働きの低下と関係なく、高脂肪の食事を摂り続けることで脳に異変が生じ、アルツハイマー病の原因になるアミロイドβが蓄積することがはじめて明らかになった。

 「末梢の臓器や脳における小胞体ストレスや慢性炎症を標的とすることで、アミロイドβの形成を抑制できる可能性が示唆されました。今後は、より具体的な代謝ストレスの経路の特定と、介入法を解明することで、アルツハイマー病の新たな予防・治療法の開発につなげたい」と、研究者は述べている。

 研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の脳科学研究戦略推進プログラム「新機軸アミロイド仮説に基づくアルツハイマー病の包括的治療開発」の支援を受け、東京大学医学部附属病院の門脇孝特任教授、窪田直人准教授らとの共同研究により行われた。
東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経病理学分野
Differential effects of diet- and genetically-induced brain insulin resistance on amyloid pathology in a mouse model of Alzheimer’s disease(Molecular Neurodegeneration 2019年4月12日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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