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2018年05月21日
糖尿病の治療薬が「アルツハイマー病」の予防にも役立つ
糖尿病の治療薬が「アルツハイマー病」の予防に役立つ可能性があることが、最新の研究で確かめられた。「GLP-1受容体作動薬」をアルツハイマー病の改善に役立てる研究も開始された。
糖尿病とアルツハイマー病は関連が深い
アルツハイマー病は、記憶を司る脳の海馬の周辺から萎縮が始まる病気で、最初に物忘れが起こるのが特徴だ。進行するにつれて脳全体が萎縮して認知機能全体が徐々に低下していく。
最近の研究で、糖尿病とアルツハイマー病は関連が深いことが分かってきた。アルツハイマー病にインスリンが関わっているという。
脳の神経細胞のエネルギー源のほとんどは糖で、脂肪などは使われない。そのため、脳神経細胞は常に糖を取り込まなければならないが、そのときに必要な働きをするのがインスリンだ。
インスリンは脳内にもあり、脳内インスリンおよびインスリン受容体についての研究が進むにつれ、インスリンとインスリン受容体を介したシグナル伝達が脳機能にさまざまに関与していることが明らかになってきた。
最近の研究では、アルツハイマー病のある人の脳では、脳の細胞へ働きかけるインスリンが不足することが分かってきた。インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」も、認知症の進行に影響していると考えられている。
関連情報
脳の健康を保つ新しい治療法の開発
カナダのクイーンズ大学のフェルナンダ デ フェリス氏(脳神経学)らは、アルツハイマー病と2型糖尿病に共通した発症メカニズムを解明する研究を行っている。
脳のさまざまな部分に炎症につながる経路があり、耐糖能異常、記憶障害、およびシナプスと呼ばれるニューロン間の接続の変性をもたらし、アルツハイマー病を発症するという。
この発見は、脳の健康を保つための新しい治療法の開発につながる可能性がある。この研究は、5月にバンクーバーで開催されたカナダ神経科学会議で発表された。
アルツハイマー病は複雑な疾患だ。専門家や研究者は、アルツハイマー病は記憶障害だけではなく、睡眠、食欲、しばしばうつ病につながる気分障害にも影響すると指摘している。以前は関連が薄いと思われていた脳の領域も、この疾患に関連していることが知られるようになった。
アルツハイマー病と2型糖尿病は、いずれも世界的に患者数が増えている点が共通している。最近の研究では、両疾患は関連あることが分かってきた。
脳内のインスリン感受性の低下が原因
2型糖尿病があるとアルツハイマー病のリスクが上昇し、アルツハイマー病があると2型糖尿病のリスクが上昇すると考えられている。デ フェリス氏らの研究チームは、両疾患を併発する要因について研究している。
「アルツハイマー病の患者では、脳内のインスリン感受性が低下していることが多いことが分かってきました。ふたつの疾患が関連し合っているのは明らかで、何らかの経路があるに違いありません」と、デ フェリス氏は言う。
脳の記憶に関連していない部位を詳しくみたところ、アルツハイマー病の複雑な病態と、これまで解明させていない経路が関わっていることが分かってきた。
アルツハイマー病のモデルマウスの研究では、脳内で炎症が引き起こされることが確かめられており、それはインスリンシグナル伝達および小胞体ストレスに影響を及ぼすという。
インスリンやインスリンシグナル伝達の低下は、血糖値の上昇の原因となる。また、小胞体ストレスは細胞が受けるダメージの尺度になり、細胞死につながる。
GLP-1受容体作動薬がアルツハイマー病を抑制
糖尿病とアルツハイマー病の分子的な関連について研究が進めば、アルツハイマー病の効果的な予防策も開発できるようになる。
糖尿病の治療薬は、アルツハイマー病の予防にも役立つと考えられている。デ フェリス氏らは、GLP-1受容体作動薬「リラグルチド」がアルツハイマー病を抑制する効果を調べる試験を開始した。
さらに、糖尿病治療薬が、認知障害を抑制し、インスリン感受性を改善し、神経細胞(ニューロン)をつながくシナプスを回復することを確かめた。
近い将来に、糖尿病の治療とアルツハイマー病の予防を同時に行えるようになる可能性がある。「アルツハイマー病の複雑な病態について、かなり詳しく分かってきました。効果的な治療法を開発し、脳の健康を維持するための研究は今後も続いていきます」と、デ フェリス氏は言う。
Diabetes drugs show promise to treat symptoms of Alzheimer's disease(カナダ神経科学協会 2018年5月16日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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