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2017年11月10日
安全で効果的な「膵島移植法」を開発 糖尿病の新たな治療
東北大学は、糖尿病治療のための簡便・安全・効果的な「膵島移植法」を新たに開発したと発表した。この方法は、血管の形成を新たに誘導する作用のある素材を用いることで、体にやさしい皮下への膵島移植を可能としたもので、出血や炎症などの副作用もみられないという。
近い将来、ES細胞やiPS細胞により作られた膵島の移植が可能となったときに、新たな治療法となる可能性がある。
近い将来、ES細胞やiPS細胞により作られた膵島の移植が可能となったときに、新たな治療法となる可能性がある。
これまでの「膵島移植」の課題をクリア
研究は、東北大学大学院医学系研究科移植再生医学分野の後藤昌史教授、同大学院医学系研究科消化器外科の海野倫明教授、亀井尚教授、植松智海氏らの研究グループによるもので、米国の国際学術誌「Transplantation」に発表された。
現在、糖尿病の先端治療としては、血糖を調節するホルモンであるインスリンを分泌する膵島を患者に移植する治療法がある。膵島移植は、脳死ドナーから提供された膵臓から膵島細胞のみを抽出し、糖尿病患者へ移植する治療法だ。
現時点で確立されたものとして、消化管から肝臓への血管(門脈)内へ膵島を移植する方法があるが、門脈内移植では移植された膵島の多くが免疫反応によって短時間で死滅してしまうので、十分な移植効果を得るためには複数回の移植が必要となる。
この方法では、移植された膵島によって血管が狭くなり門脈の血圧が上昇する場合があり、移植の回数が制限されてしまい、出血や塞栓といった合併症が避けられず、さまざまな問題が指摘されている。
一方で、膵島を皮下へ移植する手法は、操作が容易で低侵襲かつ安全な治療法として研究が行われてきた。近い将来、ES細胞やiPS細胞により作られた膵島の移植が可能となったときに、腫瘍化した場合にも移植膵島を摘出することが容易で、安全性確保という観点からも多くの利点がある。
しかし、この方法でも、移植膵島へ酸素や栄養を運ぶ血管が他の移植部位に比べてできにくいため、移植膵島の生着が極めて悪く、臨床応用には至っていない。
これを克服する手法として、移植を予定している部位に皮下へあらかじめ血管新生を誘導しておく方法があるが、血管新生を誘導する効果をもつ「塩基性線維芽細胞増殖因子」(bFGF)を投与すると、出血、炎症、がん化のリスクがあり、実際の医療応用は困難となっている。
新素材を応用 簡便・安全・効果的な治療
そこで研究グループは、効率良く新生血管を誘導する新たな素材(I型コラーゲン様リコンビナントペプチド(RCP))を用いた新たな皮下膵島移植法を開発した。RCPは、皮膚など人体の組織や臓器にもっとも多くあるヒトI型コラーゲンをもとに設計した新規素材で、高い細胞接着性がある。
この手法では、まず移植を予定する部位の皮下にRCPを投与し、あらかじめ十分な新生血管床を作った後に、膵島を移植する。これにより門脈内移植と同等の移植結果を得られることを確認した。
この手法は、従来のbFGFを用いた移植手法よりも移植効率が高く、また出血や炎症などの副作用も全くみられなかった。さらに、このRCPは人工的に作った新規素材であるため、製品の差が極めて小さく、安全性や安定性でも優れているという。
現在、門脈内移植と同等の移植効果を得られる皮下移植手法は他になく、今回の研究がはじめての報告となる。この皮下膵島移植法は、現在の標準である門脈内移植を超える簡便・安全・効果的な糖尿病治療となると期待される。
東北大学膵島移植プロジェク
The optimization of the prevascularization procedures for improving subcutaneous islet engraftment(Transplantation 2017年10月10日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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