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2017年04月26日
治療薬が効かない「神経因性疼痛」を治療 新たな鎮痛薬の開発へ

糖尿病などに伴い発症する「神経因性疼痛」は、既存の鎮痛薬だけで改善するのは難しい。この神経因性疼痛に対応できる新たな鎮痛薬の開発につながる疼痛緩和のメカニズムを明らかにしたと、国立国際医療研究センター、国立がん研究センター、東京大学、理化学研究所による研究グループが発表した。
治療が難しい神経因性疼痛を緩和
糖尿病やがんに伴い発生する痛みやしびれである神経因性疼痛は、アスピリンなどの非ステロイド系鎮痛薬、オピオイドなどの医療用麻薬といった既存の鎮痛薬では取り除くことができず、決定的な鎮痛剤はない。
この疼痛が発症・持続する分子メカニズムは完全には解明されていないものの、ATP(アデノシン三リン酸)やPAF(血小板活性化因子)が関連する分子だと考えられている。
国立国際医療研究センター、国立がん研究センター、東京大学、理化学研究所による研究グループは、炎症時などに細胞外刺激に応じて産生される血小板活性化因子(PAF)を遮断することで、治療が難しい神経因性疼痛を緩和できるという研究結果を発表した。
神経因性疼痛に対応できる新たな鎮痛薬の開発へとつながる成果だという。研究は米国の生物学雑誌「FASEB Journal」に発表された。
PAFが欠損したマウスでは疼痛が起きない
PAF(血小板活性化因子)は、細胞膜リン脂質を前駆体として生成する内因性のリン脂質。炎症など細胞外の刺激に応じて急激に産生される。研究チームはこのPAFを生合成できない、リゾホスファチジルコリンアシル転移酵素2(LPCAT2)欠損マウスを作製。
このモデルで座骨神経部分を損傷させた神経因性疼痛モデルを作成、疼痛解析を行ったところ、マウス脊髄中のPAFはほとんど検出されなかった。
ふだんは痛みを感じないが、触れるような刺激でも痛みが生じる症状である「アロデニア」は神経因性疼痛の症状のひとつ。PAFを欠損したマウスではアロデニアはほとんど発症しなかった。
また、神経因性疼痛モデルでは脊髄後角のミクログリアが増加し、ミクログリアにはLPCAT2が発現していることを確認した。
神経因性疼痛を改善するメカニズムを解明
研究グループは、細胞をPAFで刺激してもPAFが産生されることから、PAFがPAFを作るというPAF産生ループがあり、そのために神経因性疼痛を悪化または持続させているのではないかと推測した。
そこでPAFの刺激をブロックする拮抗剤でマウスマクロファージを処理し、PAF産生を誘導するATP(アデノシン三リン酸)で刺激したところ、刺激後5分程度でATPによるPAF産生はピークに達したものの、刺激後10分程度ではPAF産生の低下が認められた。これはPAF産生にループがあることを示している。
研究グループは、これらの結果から、神経因性疼痛には「PAF Pain Loop」があると推測。このループを遮断する薬剤を開発すれば、非ステロイド系鎮痛薬やオピオイド以外の、新たなメカニズムで治療できる鎮痛薬になるという。
研究グループは、LPCAT2阻害剤の新規開発や、すでに開発済みの多くのPAF受容体拮抗薬をあらためて鎮痛薬として見直すことが、新規鎮痛薬の開発につながるとしている。

Relief from neuropathic pain by blocking of platelet-activating factor-pain loop(FASEB Journal 2017年3月24日)
[ Terahata ]
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