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2016年09月23日

失明を避けるために「糖尿病網膜症」を早期発見 治療法が進歩

 糖尿病の人は、異常がなくても年に1度は眼科を受診して、「糖尿病網膜症」の検査を受ける必要がある。インターネットの通信技術を活用し、主治医のもとで「遠隔医療」で目の検査を行う実験も行われている。
糖尿病網膜症は中途失明の原因の上位
 糖尿病の三大合併症のひとつ、糖尿病網膜症は、日本における中途失明原因の第2位だ。日本で行われている「久山町研究」や「舟形町研究」によると、糖尿病患者における糖尿病網膜症の有病率は15.0~23.0%だ。また、血糖コントロール(HbA1c)が不良であったり、糖尿病を患っている期間が長いほど頻度が高くなることも分かっている。HbA1cが8%以上で罹患期間が10年であると、4割以上の人が糖尿病網膜症を発症するという。

 糖尿病網膜症は長い間、中途失明原因の1位だった。最近では、さまざまな治療法が確立したことにより、失明を回避することが可能になりつつある。しかし、糖尿病患者の急増に伴い、網膜症患者は増加の傾向にあり、依然として中途失明の原因の上位を占めている。

 糖尿病網膜症は、血糖値の高い状態が続くことで、網膜の血管が傷ついたり、つまったりして起きる病気だ。病気の初期では、見え方に変化はないが、放っておいて病気が進行すると、「かすんで見える」「ゆがんで見える」「見えない部分がある」といった現象があらわれる。
糖尿病網膜症の進行には段階がある
 糖尿病網膜症は、「単純網膜症」→「増殖前網膜症」→「増殖網膜症」と進行する。増殖前網膜症の段階に進むと、血管の障害が繰り返されることで血管壁が厚くなり、血管が狭くなったり、つまったりして(血管閉塞)、血管の傷みが進行する。血流が悪い部分の細胞が変化してシミのように見える軟性白斑もあらわれる。

 増殖網膜症に進むと、網膜から硝子体に向かって新生血管が伸びてきて、破れると硝子体出血が起こる。また、硝子体に繊維の膜ができ、その膜に網膜が引っ張られると「網膜剥離」が起こる。

 黄斑の中心窩に異常が出た場合は、どの段階でも、軽度の視力低下、ゆがんで見える、小さな虫が飛んでいるように見える飛蚊症、視野に見えないところができる「視野欠損」といった症状が現れることもある。症状が重くなるにつれて、その頻度は増える。
異常がなくても年に1度は眼科を受診
 糖尿病と診断された人は、まず眼科を受診して、異常がなくても年に1度は検査を受ける必要がある。眼下の検査では、眼の奥(眼底)の状態を調べる「眼底検査」、眼底組織の断面の状態を詳しく調べる「OCT検査」、造影剤を腕から注射し、眼底の血管の異常を調べる「造影検査」などが行われる。

 最近では、「OCT」(光干渉断層計)による検査が増えている。これは、網膜の断面を映し出し、糖尿病網膜症に合併する黄斑浮腫など、黄斑の異常を調べる検査だ。造影剤を使わない検査なので、患者の体への負担はほとんどない。
抗VEGF薬治療による治療が増えている
 糖尿病網膜症の治療の基本は、血糖コントロールをしっかり行うことだ。指標となるHbA1cを7.0%未満に維持し、同時に高血圧、脂質異常症を治療すれば、単純網膜症の段階では進行を抑えられる。

 増殖前網膜症や増殖網膜症に進むと、血糖コントロールなどの治療と合わせて眼科的な治療が必要となる。網膜の血管が詰まった部分や新生血管にレーザー光線を当てて焼き固める「網膜光凝固術」が行われる。新生血管によって黄斑が障害されて視力が低下するのを防ぐことを目的とした治療で、網膜がもとに戻るわけではない。

 硝子体出血や網膜剥離を伴う場合は、出血を除去したり、剥がれた網膜を治療したりする硝子体手術が行われる。その後に、網膜光凝固術を行って、網膜を焼き固める。

 最近では、抗VEGF薬治療による治療も行われるようになってきた。視力低下の元となる黄斑浮腫は、網膜下におこる新生血管の増殖・成長や、網膜内の毛細血管から漏れ出す血液成分によって引き起こされる。

 糖尿病網膜症に伴う糖尿病黄斑浮腫には、VEGF(血管内皮増殖因子)という物質が関与している。そのため、VEGFの働き抑える薬を目に注射する。そうすることで、新生血管や血管成分の漏れを抑えることができる。
視力障害や失明の最大の原因は、検査を受けないこと
 米国のノバサウスイースタン大学の研究によると、糖尿病網膜症による視力障害や失明の大きな原因は、眼科を受診せずに、適切な治療が行われないことだ。医療サービスへのアクセスの欠如が、世界中で視力障害や中途失明を増やしている。

 「糖尿病網膜症は、初期の段階では自覚症状が何もありません。残念なことに、そのことが治療の開始を遅らせる原因になっています。糖尿病と診断された人々は、少なくとも1年に1回は目の検診を受けるべきです」と、同大学の眼科医であるジャネット リーシャ氏は言う。

 「異常がみつかったら、すぐに眼科医による治療を受けるべきです。糖尿病医療に携わる主治医や眼科医、看護師、栄養士などの医療スタッフは、患者の血糖コントロールを改善するために、密接に連携する必要があります」と強調している。

 世界では糖尿病網膜症による視力障害は、20年間で64%増えているという。糖尿病患者が視力を維持するために、次の対策が必要だとしている。
▽眼科の検査を定期的に行えるよう、費用対効果の高いスクリーニングの方法を確立する、
▽血糖コントロールを改善すれば、糖尿病網膜症の発症を防いだり、遅らせることができることを広く社会に認知させる、
▽網膜光凝固術や抗VEGF薬治療による治療などの最新の治療を、より多くの患者が受けられるようにする。
糖尿病網膜症を「遠隔医療」で検査 いつでも目の検査を行える
 糖尿病網膜症による失明を防ぐためにもっとも大切なのは早期の発見と治療だが、米国の糖尿病患者のうち眼科の定期的なスクリーニングを受け受けている割合は65%未満だという。

 多くの地域で糖尿病と眼科医の連携は整備されているが、患者にとってはいくつもの医療機関の診療を受けるのは煩わしく、場所が離れていて交通が不便な場合もある。仕事をもっている患者は、検査を受ける時間をつくるのが困難な例も多い。

 そうした場合のために、「遠隔医療」を糖尿病網膜症の治療に役立てようという研究が米国で進められている。ミシガン大学医療システムは、小型のスクリーニング検査機器を開発し、インターネットを使い、内科の診療所で主治医が目の検査を行う実験を行っている。

 主治医のクリニックで無拡張網膜カメラを使用して撮影された患者の網膜の画像は、個人情報を保護した上でクラウドベースのネットワークに送信され保存される。糖尿病専門の眼科医が、患者の画像をもとに初期的な診断をし、さらに精密な検査が必要かを判断する仕組みだ。

 「糖尿病患者の数はますます増えており、患者を診療している主治医と眼科医のスムーズな連携が求められています。"遠隔医療糖尿病スクリーニングプログラム"を使えば、糖尿病網膜症が原因で失明する患者を大きく減らすことができるでしょう」と、ミシガン大学ケロッグ眼センターのマリア ウッドワード氏は言う。

 ミシガン大学が97人の糖尿病患者を対象に行った研究では、「遠隔医療」について知っていた患者はわずか3%だったが、説明を受けた後で69%が理解を示し、主治医のもとで目の検査もできることを便利だと感じる患者が多いことが分かった。

 「糖尿病は罹病期間の長い疾患で、医師と患者の関係は重要です。遠隔医療が実現すれば、医師と患者はより良好な関係をつくることができると期待しています」と、ウッドワード氏は述べている。

Study Finds Vision Loss Due to Diabetes is Rising Globally(ノバサウスイースタン大学 2016年8月23日)
Telemedicine could improve eye exam access for people with diabetes(ミシガン大学 2016年8月25日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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