ニュース
2015年05月26日
ウイルス感染による糖尿病発症に関連する遺伝子を発見
- キーワード
- 医療の進歩
研究チームは、インスリンをつくる膵臓のβ細胞が破壊されて発症する1型糖尿病の20%、急性の劇症タイプでは70%に、ウイルス感染が深く関与していると推測している。
日本の糖尿病人口のうち2%を占める1型糖尿病は、膵島β細胞が破壊されることで発症する。1型糖尿病は、自己免疫で発症する「タイプA」と、特発性(他の疾患に起因しない)の「タイプB」とに分類される。「ウイルス糖尿病」は、1型糖尿病のタイプBの原因の主な候補とされている。
なお、2型糖尿病に関るウイルス感染の関与についてはよく知られていなかったが、最近の研究では糖尿病発症に至る経過で、発症リスクのひとつと考えられている。

研究チームは2015年に、マウスによる実験で、特定の系統で「脳心筋炎ウイルス」(EMCV)によるβ細胞破壊によって糖尿病が誘発される場合、糖尿病を発症するかを制御しているのが、インターフェロン(IFN)シグナル分子である「Tyk2遺伝子」であることを発見した。
Tyk2遺伝子に異変のあるマウスの通常の細胞では、ウイルス増殖を抑制するインターフェロンを投与することでウイルス抵抗性が回復したが、β細胞では回復力が少なかった。
このことから、ウイルス感染を受けてもTyk2遺伝子が正常に働かず防御機能が低下し、インスリンを作るランゲルハンス島のβ細胞が破壊されてしまい糖尿病が発症することが分かった。
そこで、今回の研究では、この発見がヒトにもあてはまるかを確かめるため、ヒトTYK2遺伝子多型と糖尿病リスクについての検討を行った。
その結果、多型が見られた割合は、健常人4.2%に対し、1型糖尿病患者9.6%、2型糖尿病患者8.6%であり、さらに1型糖尿病患者のうち、風邪(インフルエンザ様)症状の後発症した1型糖尿病患者では、13.7%だった。
つまり、糖尿病患者では、1型・2型に関わらず全ての群で、統計的にこの多型の保有率が高い結果が得られた。
一方、ランゲルハンス島自己抗体を有する1型糖尿病患者では7.4%と、自己抗体のない患者群12.8%と比較して、むしろ低い保有率だったことが判明。また、この多型と関係する2型糖尿病のリスクは、肥満とは関連していないことも明らかとなった。
このことは、この遺伝子多型が自己免疫1型糖尿病と関連する可能性は乏しく、ウイルス誘発糖尿病のリスクであること、さらにそのリスクは、1型糖尿病だけでなく、非肥満の2型糖尿病においても重要であることを示している。
今後は、糖尿病誘発性ウイルスワクチン開発による1型糖尿病の予防や、2型糖尿病のリスク低下に向けた研究につなかげたいとしている。
今回の研究成果は、九州大学大学院医学研究院の永淵正法教授、九州大学病院、松山赤十字病院、福岡赤十字病院、南内科、岡田内科、福岡大学医学部附属病院、佐賀大学医学部附属病院、大分大学医学部附属病院の共同チームによるもので、学術誌「Science Direct」オンライン速報に発表され、「EBioMedicine」にも掲載される。
医療の進歩の関連記事
- 腎不全の患者さんを透析から解放 「異種移植」の扉を開く画期的な手術が米国で成功
- 【歯周病ケアにより血糖管理が改善】糖尿病のある人が歯周病を治療すると人工透析のリスクが最大で44%減少
- 世界初の週1回投与の持効型溶解インスリン製剤 注射回数を減らし糖尿病患者の負担を軽減
- 腎不全の患者さんを透析から解放 腎臓の新しい移植医療が成功 「異種移植」とは?
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も
- 糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬が腎臓病のリスクを大幅に低下 認知症も減少
- JADEC(日本糖尿病協会)の活動 「さかえ」がWebページで閲覧できるなど「最新のお知らせ」からご紹介
- 【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も
- 「スマートインスリン」の開発が前進 血糖値が高いときだけ作用する新タイプのインスリン製剤 1型糖尿病の負担を軽減
- 糖尿病の医療はここまで進歩している 合併症を予防するための戦略が必要 糖尿病の最新情報