ニュース
2015年03月02日
糖尿病とがんの発症にも関わる分子メカニズムを発見
- キーワード
- 糖尿病合併症
DNAが傷ついたときの生体反応やがんの抑制に関わるタンパク質「ATM」が、糖尿病の発症に関係していることを、東京医科歯科大学の研究チームが明らかにした。
なぜ糖尿病の人は「がん」を発症しやすいのか
日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会が2013年に発表した調査で、糖尿病の男性はそうでない男性に比べて1.27倍がんになりやすく、特に、大腸がんになるリスクは1.36倍、膵臓がんは1.85倍、腎臓がん1.92倍も高いことが明らかになった。
糖尿病の人がなぜがんになりやすいのか? インスリンは細胞を成長させ増殖させるホルモンであり、増え過ぎると細胞のがん化につながるのではないかと考えられているが、発症メカニズムはまだ明らかになっていない。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の高木正稔氏らは、糖尿病と発がんの関連解明につながる新しい分子メカニズムを発見した。
研究チームが着目したのは、DNAが傷ついたときに起こる生体反応や発がん抑制に関わるタンパク質「ATM」。
研究の背景となったのは、ATM遺伝子の変異が原因で免疫不全や運動失調などを引き起こす「毛細血管拡張性運動失調症」だ。発症すると高い確率で糖尿病とがんを合併しやすいことが知られている。
正常な脂肪細胞は、脂肪の燃焼を促す善玉ホルモンとして知られる「アディポネクチン」などを分泌し、個体の糖代謝を正常に保っているが、ATMが変異していると、脂肪細胞の分化が抑制されアディポネクチン分泌が減り、糖尿病を発症しやすくなるという。
研究チームは、ATMの遺伝子を欠損したマウスで詳しく解析した。ATMがないマウスでは、脂肪細胞の成熟に関わる転写因子が誘導されず、個体の脂肪組織が未熟なままだった。
DNAが傷ついたときに発生する生体反応(DNA損傷応答)は糖尿病発症に関係している。さらに、ATMはがん抑制遺伝子であり、欠損していると細胞のがん化が促されるという。
「DNAの傷の修復にかかわる分子が糖尿病発症に関係していることを具体的に示すことができた。糖尿病患者にATMの異常が潜んでいる可能性があり、がんの発症にもつながっている。マウスを使った実験の結果だが、ヒトでも同じことは起きているだろう。糖尿病の臨床研究の新しい一歩になりうる」と、高木氏は述べている。
研究は、東京医科歯科大学内分泌代謝学分野、国立長寿医療研究センター、国立成育医療研究センター、順天堂大学、ソニーが共同で行ったもので、米科学誌「Cell Reports」オンライン版に発表された。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究所 分子内分泌代謝学分野 医学部附属病院 糖尿病・内分泌・代謝内科
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
糖尿病合併症の関連記事
- 「卵を1日に1個」は健康的 卵を毎日食べても糖尿病や心臓病のリスクは上昇しない
- 塩分のとりすぎは糖尿病リスクを高める 減塩すれば高血圧も改善 減塩食品は身近で買える
- 座ったままの時間が長いと糖尿病や死亡のリスクが上昇 ウォーキングなどの運動はいつ行うと良い?
- 牛乳やヨーグルトが脂肪酸のバランスを向上 野菜は高血圧を改善 菓子類はなぜNG? 糖尿病の人の食事
- タバコは糖尿病リスクを高める 禁煙すると合併症リスクは大幅に減少 禁煙後に太るのをどうすれば防げる?
- 「植物ベースの食事」が糖尿病リスクを軽減 高血圧も改善 肝臓と腎臓を守る
- 糖尿病にきく運動 ウォーキングと筋トレを組み合わせると効果的 メンタルヘルス改善にも役立つ
- 果物の食べすぎは糖尿病の人に悪い? ドライフルーツなら大丈夫? 果物の効果的な食べ方が判明
- 「歯周病」は糖尿病の合併症 血糖値を下げると歯周炎も改善 歯科でケアを受けるのは効果的
- 世界腎臓デー 腎臓病の十分な治療が行われていない 糖尿病の人にとっても深刻 香川大学などが調査