ニュース
2015年03月02日
糖尿病とがんの発症にも関わる分子メカニズムを発見
- キーワード
- 糖尿病合併症

糖尿病の人がなぜがんになりやすいのか? インスリンは細胞を成長させ増殖させるホルモンであり、増え過ぎると細胞のがん化につながるのではないかと考えられているが、発症メカニズムはまだ明らかになっていない。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の高木正稔氏らは、糖尿病と発がんの関連解明につながる新しい分子メカニズムを発見した。
研究チームが着目したのは、DNAが傷ついたときに起こる生体反応や発がん抑制に関わるタンパク質「ATM」。
研究の背景となったのは、ATM遺伝子の変異が原因で免疫不全や運動失調などを引き起こす「毛細血管拡張性運動失調症」だ。発症すると高い確率で糖尿病とがんを合併しやすいことが知られている。
正常な脂肪細胞は、脂肪の燃焼を促す善玉ホルモンとして知られる「アディポネクチン」などを分泌し、個体の糖代謝を正常に保っているが、ATMが変異していると、脂肪細胞の分化が抑制されアディポネクチン分泌が減り、糖尿病を発症しやすくなるという。
研究チームは、ATMの遺伝子を欠損したマウスで詳しく解析した。ATMがないマウスでは、脂肪細胞の成熟に関わる転写因子が誘導されず、個体の脂肪組織が未熟なままだった。
DNAが傷ついたときに発生する生体反応(DNA損傷応答)は糖尿病発症に関係している。さらに、ATMはがん抑制遺伝子であり、欠損していると細胞のがん化が促されるという。
「DNAの傷の修復にかかわる分子が糖尿病発症に関係していることを具体的に示すことができた。糖尿病患者にATMの異常が潜んでいる可能性があり、がんの発症にもつながっている。マウスを使った実験の結果だが、ヒトでも同じことは起きているだろう。糖尿病の臨床研究の新しい一歩になりうる」と、高木氏は述べている。
研究は、東京医科歯科大学内分泌代謝学分野、国立長寿医療研究センター、国立成育医療研究センター、順天堂大学、ソニーが共同で行ったもので、米科学誌「Cell Reports」オンライン版に発表された。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究所 分子内分泌代謝学分野 医学部附属病院 糖尿病・内分泌・代謝内科
糖尿病合併症の関連記事
- 運動と健康的な食事の組み合わせで効果は最大に 内臓脂肪が減り転倒も防止 女性にも運動が必要
- 魚を食べている人は糖尿病リスクが少ない 魚は脳の健康にも良い 中年期の食事改善は効果が高い
- テレビの視聴時間を減らすと糖尿病リスクは減少 遺伝的リスクのある人も心臓病や脳卒中を予防できる
- 朝食をしっかりとると糖尿病が改善 血糖管理に大きく影響 朝食で「お腹ポッコリ」肥満を予防
- 糖尿病の人は脳卒中リスクが高い 血糖値を下げれば脳卒中を予防できる ストレス対策も必要
- 「超加工食品」の食べすぎは糖尿病リスクを高める 筋肉の質も低下 「自然な食品」はリスクを減らす
- ウォーキングなどの運動で糖尿病リスクを減少 余暇時間の運動が寿命を4.5年延ばす 仕事の後は体を動かす習慣を
- 腎不全の患者さんを透析から解放 「異種移植」の扉を開く画期的な手術が米国で成功
- 【世界肥満デー】内臓脂肪が増えると糖尿病リスクは上昇 肥満は脳のインスリンの働きを低下 認知症リスクが増加
- ウォーキングなどの運動で糖尿病など19種類の疾患のリスクを減少 わずか5分の運動で認知症も予防