空腹時血糖値と食後血糖値の差が大きく、食後に血糖値が大きく上昇することを「血糖値スパイク」(グルコーススパイク)という。糖尿病のある人は、適切な治療を行わないでいると、糖質(炭水化物)を多く含む食品を食べることで、空腹時に100mg/dLぐらいだった血糖値が、食後血糖値が一気に200〜300mg/dLまで上昇することがある。
通常の健診では見落とされる血糖値スパイク
糖尿病の治療目標は、個々の患者に合わせて医師が決定するが、食後2時間血糖値を180mg/dL未満に抑えることが、血糖コントロールの目標のひとつになっている。国際糖尿病連合(IDF)がまとめた「食後高血糖の管理に関するガイドライン」では、食後2時間血糖値が140mg/dLを超える場合は対処が必要だとされている。
食後にぐったりして椅子で座ったままになったり、眠気を感じるほど疲労感があることはないだろうか。視界がぼんやりと見えたり、全体的に元気を感じられなければ、血糖値スパイクを疑った方がいいかもしれない。
「空腹時血糖値が正常でも、食後に血糖値を調べたら高血糖だったというケースは少なくありません。糖尿病の治療を続けていても、1〜2ヵ月の平均血糖値を示すHbA1cがなかなか下がらない人は、食後高血糖を疑った方が良いかもしれません」と、米国糖尿病教育者協会の理事長であるタミ ロス氏は話す。
食事高血糖には、いくつかの要因が関わっている。どんな食品をどれだけ食べたかだけでなく、薬物療法やインスリン療法を行っている患者ではインスリン注射のタイミングにも影響する。
「食後高血糖を知るための方法のひとつとして、血糖自己測定(SMBG)があります。食後1〜2時間後に血糖値をはかり、得られた測定値をノートに記録しておくと役に立ちます」と、ロス氏は説明する。
最近は血糖値を記録するためのスマートフォン向けの無料ソフトが数多く出ている。パソコンでエクセルを使い記録したり、インターネットのウェブサイトに保存している人もいる。得られた測定値を必ず主治医に見せ、適切なアドバイスをもらうことが大切だ。
「血糖自己測定に限らず、糖尿病は検査値を記録し、生活スタイルに反映させることが大切な病気です。以前、“血糖自己測定の記録なしに主治医に会いに行くことは、ペットを連れずに獣医に会いに行くようなものだ”と言った療養指導士がいます」(ロス氏)。
食後高血糖か起きているかどうかを知るためのさらに確実な方法は、医療機関でブドウ糖負荷試験を受けることだ。ブドウ糖(75g)を飲んでから2時間後の血糖値を調べるもので、糖尿病を診断する材料にもなっている。
検査で血糖値スパイクを知るために、持続グルコース測定(CGM)が有効
メドトロニックiPro2
血糖日内変動(血糖値の1日の中での上がり下がり)は複雑であることが、最近の研究で分かってきた。近年、持続グルコース測定(CGM)が治療で使われるようになり、血糖の日内変動の全体像が分かるようになったことが大きく貢献している。
持続グルコース測定(CGM)は、皮下に一時的にセンサーを入れて、組織間質液(皮下組織を取り巻く液体)中のブドウ糖(グルコース)濃度を連続測定する最新の医療だ。
代表的なCGMである「メドトロニックiPro2」は、5分ごとにグルコース濃度を記録し、昼夜を問わず1日を通しての高血糖、低血糖などの変動パターンを可視化し、より正確な血糖日内変動を得られるようになる。
血糖コントロールの指標であるHbA1cが良好で、ほぼ満足できる血糖コントロールと思われていた患者が、実は血糖値が食後に急激に上昇し、ピーク値が200mg/dLを超え、血糖値スパイクが起きていることがある。
HbA1cは血糖値の1~2ヵ月の平均値を示しているが、その値だけをみていると、隠れている血糖値スパイクを見逃してしまうおそれがある。
食後高血糖が合併症、特に心血管疾患の危険因子であることが多くの研究で確かめられている。「メドトロニックiPro2」であれば、24時間の血糖変動をモニターでき、血糖変動の全体像が分かるので、より良好な血糖コントロールが可能になる。
カーボカウントで食後高血糖に対策
食後高血糖を改善するためにいくつかの方法がある。ロス氏は次のことをアドバイスしている。
(1)カーボカウント
カーボカウントとは、食品に含まれるカーボ(炭水化物)を計算し、糖尿病の食事管理に利用しようという考え方だ。炭水化物は消化・吸収が早く、他の栄養素と比較して食後にもっとも早く、大きく血糖値を上昇させる。食後の血糖値上昇の90%は炭水化物によるとされている。
カーボカウントの基礎は、炭水化物の多い食品をきちんと認識するところからはじまる。次に栄養成分表示や食品成分表などを利用して、炭水化物の量を見積もる。この過程を通じて、食後血糖値と摂取する炭水化物の量の関係が分かりやすくなる。たとえば、白飯や麺類は意外と食後高血糖をもたらしやすいことなどが理解できるようになる。
「チーズケーキを食べるときに、1片を食べると血糖値が高くなるという人は、そのチーズケーキに含まれる炭水化物量を計算すれば、血糖値の上昇を予測できます。チーズケーキを食べる量を半分にすれば、血糖値の上昇を抑えられるといったように、経験から炭水化物の影響を知り食習慣を見直すきっかけになります」(ロス氏)。
このようにカーボカウントは、必要な栄養素の摂取量の目安を見直すきっかけになる。ただし、炭水化物が多いと血糖値が高くなるという理由から、炭水化物を制限することで血糖値が下がるのではと考える人もいるが、カーボカウントは必要な炭水化物を血糖値を乱すことなく上手に摂取するための方法で、炭水化物を制限するという意味ではないという。
(2)グリセミックインデックスとカーボカウント
食後高血糖の改善に役立つのが、「グリセミックインデックス」と「カーボカウント」だ。グリセミックインデックス(GI)は、食品に含まれる糖質の吸収の度合いを示す指数のこと。糖質を摂取すると、消化管でブドウ糖に分解され血液に入る。血中のブドウ糖の濃度、つまり血糖値が上昇するが、その食品の消化(分解)から吸収までの速度は食品によって異なる。
GI値が低いほど糖質の吸収がおだやかになり、血糖値の上昇もゆるやかになる。逆に高GIの食品を食べると、一気に血糖値を上昇させるため、血中のブドウ糖を処理するために多量のインスリンが分泌されたり、分泌が追いつかなくなくなる。
例えば、全量全粒粉を使ったパンは、精製された小麦粉を使った白パンよりGI値は低い。また、精白米や小麦粉などの糖質よりも、野菜や果物、牛乳の糖質の方がGI値は低くなる。
GI値が低い食品と高い食品では、血糖値の上昇曲線は異なるが、エネルギー摂取量そのものは代わらないことに注意する必要がある。GIが低い食品を選んだとしても、食べ過ぎてしまうと、カロリーの過剰摂取につながる。
「エネルギー摂取量をコントロールすることが、糖尿病の食事療法の基本です。低GIであればたくさん食べても大丈夫だと、誤解している人が多くいますが、食べた分はしっかり体に吸収されるので注意が必要です」(ロス氏)。
一方、GIに1食当たりの炭水化物の量をかけたのが、グリセミックロード(GL)という指標だ。GLは、糖質の質と量を考慮に入れるので、その食品はブドウ糖何gに相当する影響を血糖値に与えるかを知ることができる。実際の食事指導ではGLの方が役に立つという。
(3)ゆっくり食べる
血糖値を改善するために、食べすぎない(カロリーをとりすぎない)ことが大切だが、食後高血糖の予防で特に注意したいのは、ゆっくり食べること。早食いをするとインスリンの働きが追いつかず、食後の血糖値が急上昇しやすくなる。
また、食事の内容も大切だ。血糖値を上げやすいのは炭水化物(ご飯やパンなど)で、反対に血糖値が上がりにくいのは野菜、海藻、キノコ類など食物繊維が豊富に含まれる食品だ。メニューに野菜などを多くとり入れ、さらに、そうした食べ物からゆっくり食べはじめることで、血糖値の急激な上昇を抑えることができる。
(4)食後に運動をする
運動にはインスリンに近い働きがある。運動により、血糖(グルコース)と脂肪酸の利用が促され、血糖値が下がる。
インスリンに応答して血糖値を保つために重要な役割を果たしているのが、グルコースを体内に運ぶ働きをする蛋白(グルコース輸送体)である「GLUT4」だ。運動には、GLUT4の発現を促し、筋肉で血糖が使われるのを促す効果がある。さらに、運動を続けることで、インスリン抵抗性の改善などの慢性効果も期待できる。
運動は食後1時間ごろから行うと、いっそう効果的だ。飲み薬やインスリンで治療をしている人は、低血糖をさけるためにも、運動は空腹時よりも食後に行うことが望ましい。
TamiRossRD.com
米国糖尿病教育者協会
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所