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2013年02月22日
ブタの膵臓再生に成功 再生医療の実現に道
体のあらゆる組織や臓器になるとされるiPS細胞を、糖尿病の治療に役立てようという研究が進められている。移植可能な臓器を患者自身の細胞から作ることは再生医療の重要な目標のひとつとなっている。
中内啓光・東京大学教授らは、「ヒトの膵臓をブタの体内で作り出そう」というアイデアをもっている。そのアイデアとは、遺伝子操作で膵臓が作られないようにしたブタの受精卵にヒトのiPS細胞を注入して体内で育てるというものだ。
中内教授は、ブタの体内で作り出した「ヒトの膵臓」からインスリンを分泌する膵島を取り出し、糖尿病の人に移植するという治療をめざしている。患者自身の細胞からiPS細胞を作り、ブタの体内で臓器に成長させれば拒絶反応は起きない可能性が高い。
中内教授はこのほど、膵臓のないブタの体内で、別のブタの正常な膵臓を作る実験に成功した。ただし、日本では現在、動物の体内でヒトの臓器を作る研究は認められていないという課題が残っている。
iPS細胞などから臓器を作り出すことが、再生医療の目標となっているが、実際に臓器を作るためには、立体的で複雑な構造をもつ臓器を生体外で再現しなければならないという課題がある。
ブタはヒトと臓器の大きさが近く、飼育頭数が多くことから、臓器不足への切り札として注目されている。
今回の実験では、遺伝子を操作して膵臓のないブタの胎児を作製。ブタの体の細胞から核を取り出し、卵子に移植して受精卵に似た「クローン胚」を作った。この胚に健常なブタの胚の細胞を注入すると、両方のブタの細胞が混在したブタに成長した。
膵臓のないブタは、生後まもなく重度の高血糖になり死んでしまうので、繁殖させることはできない。しかし、生まれたブタは、注入した細胞から形成された膵臓をもっていた。血糖値は正常で、成体まで育ち生殖能力も正常だったという。
特定の細胞が欠損した胚に正常な胚を導入して置き換える方法は「胚盤胞補完法」と呼ばれる技術で、中内教授らのチームは3年前、膵臓が欠損したマウスの体内でラットの膵臓を再生することにも成功している。

今後、遺伝子操作で膵臓ができないようにしたブタの胎児に、ヒトのiPS細胞を変化させた細胞を入れ、膵臓を作り出す基礎的な研究を行いたいとしている。
しかし、今回の研究成果をもとに臓器を作るためには、ヒトのiPS細胞などを注入した動物の胚をブタなどの体内に戻す実験が避けられない。国のガイドラインは、こうした研究を「倫理的な問題がある」として禁止している。
今回の実験を含め、基礎的な研究が進んでいることから、現在、内閣府の懇談会で見直しが必要かどうか検討が行われている。
「今回の研究成果から、胚盤胞補完法によって、ヒト臓器作製にチャレンジするための技術基盤が構築されました。今後、生命倫理や法律についての議論が進むことが期待されます」と、中内教授は話している。
すい臓のないブタに健常ブタ由来のすい臓を再生することに成功(科学技術振興機構 2013年2月19日)
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