ニュース
2012年03月23日
メトホルミン服用の患者 癌死・発癌とも減少 国立国際医療研究センター
糖尿病の人は糖尿病でない人と比べて癌になったり癌で死亡したりする可能性が高いことが以前から報告されてきている。しかし研究方法の違いや分析対象者の偏りのために確実な研究はなかった。国立国際医療研究センターの研究チームは、論文として発表された研究結果を再分析することで精度の高い統合結果を出す研究を行い、糖尿病では癌が増加するという解析結果をこれまでに報告しているが、今回は、糖尿病治療薬であるメトホルミンと癌との関係について解析した。論文は英文医学誌「PLoS ONE」に3月20日付けで発表された。
メトホルミンは、ビグアナイド薬(BG薬)に分類される2型糖尿病治療薬。肝臓の糖を作る働きを抑えると同時に、筋肉などでの糖の利用を促して、総合的に血糖値を低下させる。
研究チームは、2011年10月12日時点で英文誌に発表されていたメトホルミンと癌の関連性に関する論文をデータベースから検索し、その中から妥当性の高い研究を精選しメタアナリシスという統計手法で統合解析した。メタアナリシスとは複数の研究結果をコンピュータを使用して一つの研究としてまとめ上げる分析手段。
メトホルミン服用と癌死の関連性を報告した論文6件の対象者は総数2万1,195人で、うち4.5%の人が癌で死亡した。糖尿病と発癌の関連性を報告した論文10件の対象者は総数21万892人で、そのなかの5.3%の人が癌を発症した。
統合解析の結果、メトホルミンを服用していた糖尿病患者では、服用していなかった患者と比較して癌死・発癌とも確率が確実に減少していた(癌死倍率0.66倍、発癌倍率0.67倍)。さらに臓器ごとの発癌率を解析したところ、メトホルミン服用者では大腸直腸癌(倍率0.68倍)、肝臓癌(倍率0.20、肺癌(倍率0.67倍)が確実に低下していた。
世界的に、糖尿病患者では癌が増加することが判明している。今回の研究チームの研究で、メトホルミンによりその癌の危険性が減少する可能性が示された。「しかしメトホルミンで癌の危険性が減る仕組みは不明であり、今までの研究報告内容には偏りや限界が少なくないので、最終結論はまだ出せない。より妥当性の高い長期研究による確証が切望される」としている。
国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター 糖尿病・代謝症候群診療部
Cancer Risk in Diabetic Patients Treated with Metformin: A Systematic Review and Meta-analysis.
PLoS ONE 7(3): e33411. doi:10.1371/journal.pone.0033411
医療の進歩の関連記事
- 腎不全の患者さんを透析から解放 「異種移植」の扉を開く画期的な手術が米国で成功
- 【歯周病ケアにより血糖管理が改善】糖尿病のある人が歯周病を治療すると人工透析のリスクが最大で44%減少
- 世界初の週1回投与の持効型溶解インスリン製剤 注射回数を減らし糖尿病患者の負担を軽減
- 腎不全の患者さんを透析から解放 腎臓の新しい移植医療が成功 「異種移植」とは?
- 【1型糖尿病の最新情報】幹細胞由来の膵島細胞を移植する治療法の開発 危険な低血糖を防ぐ新しい方法も
- 糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬が腎臓病のリスクを大幅に低下 認知症も減少
- JADEC(日本糖尿病協会)の活動 「さかえ」がWebページで閲覧できるなど「最新のお知らせ」からご紹介
- 【1型糖尿病の最新情報】iPS細胞から作った膵島細胞を移植 日本でも治験を開始 海外には成功例も
- 「スマートインスリン」の開発が前進 血糖値が高いときだけ作用する新タイプのインスリン製剤 1型糖尿病の負担を軽減
- 糖尿病の医療はここまで進歩している 合併症を予防するための戦略が必要 糖尿病の最新情報