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2012年01月23日

糖尿病の足病変 早期発見・治療で足切断は防げる

 日本フットケア学会、日本下肢救済・足病学会、日本メドトロニックは1月18日、プレスセミナー「増加する足切断の危機―5年後の死亡率58%〜足を切らない選択を〜」を開催した。
予防的フットケアが大切 足の症状をときどきチェック
 糖尿病患者の足病変(潰瘍・壊疽)は、血糖コントロール不良にともなう神経障害、血流障害、感染症などが複雑に関連しあい起こる。糖尿病患者の足病変はみつかりにくい。多くの糖尿病患者には神経障害による知覚異常があり、自覚症状が出にくいからだ。患者が糖尿病足病変の怖さを認識していないため、危機感を感じておらず、ふだん自分の足を見ることすらない場合が多い。特に要注意なのが足潰瘍だという。

 足の潰瘍や壊疽が重症化し、足の一部を切断しなければならなくなるケースは少なくない。渥美義仁・東京都済生会中央病院糖尿病臨床研究センター長は「潰瘍・壊疽のリスクの高い患者は、罹病期間が長い、足潰瘍などの既往がある、治療を受けていない、通院を中断している、視力障害がある、一人暮らしをしているなどの条件があります」と話す。

 「足を切断した患者さんは、治療をしても回復しにくかったり、再発したりといった悪循環にも陥りやすい。肝要なのは、早期発見です。我々が常々、予防的フットケアの大切さを訴えているのはそのためです。足潰瘍発症のリスクが高い患者は、一度は足を観察して、神経障害、血流障害、足の変形を確認することが大切です」と渥美氏は話す。

 糖尿病の合併症を早期に発見する上で、足をよく観察し、足の形態や足の症状をときどきチェックすることが重要となる。足のチェックでは、こむら返り・足裏の違和感(じゃりを踏んだ感じ)・足指先のしびれなどがポイントとなる。その他、爪の変形、変色、胼胝(たこ)、発赤、乾燥、壊疽なども重要。

 自発痛がない場合でも、神経障害で感覚鈍麻におちいっている可能性があるので油断はできない。異常があれば、ただちに医師の診療を受ける必要がある。靴・保護具の選び方、爪の切り方にも注意が必要で、あんかや湯たんぽの使用にも注意が必要だという。

 日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会などがつくる「日本糖尿病対策推進会議」は「足チェックシート」を作成し、「医療機関でくつ下を脱いで足をよく診てもらいましょう」と注意を呼びかけている。

足は第2の心臓 前兆を見逃さずに治療
 足に潰瘍、変形、皮膚疾患を認める糖尿病患者は増加している。糖尿病合併症管理料が算定可能となったことも手伝って、フットケア外来の新設も増えつつある。

 「下肢・足部はいろいろな原因で血液の流れが悪くなり、皮膚や足指が壊疽に陥ることがあります。一番多い原因は、末梢性動脈閉塞症(PAD)と閉塞性動脈硬化症(ASO)いう病気です。下肢(特にひざより下)の主要な動脈の壁が変性して、硬く狭くなることで動脈血の流れが悪くなり、これが重症化し重症下肢虚血(CLI)に進展すると皮膚や足指、ひどい場合には下腿全体が壊死してしまいます」と大浦紀彦・杏林大学医学部形成外科准教授は話す。

 PADは適切な治療を行わないでいて悪化すると切断になる可能性もある恐ろしい病気だが、認知は進んでいない。日本フットケア学会、日本下肢救済・足病学会、日本メドトロニックがPADのリスクが高い糖尿病患者など400人を対象に行ったアンケート調査によると、PADという病気を知っている割合は糖尿病患者の4人に1人にすぎなかった。

 「従来の治療では、壊死した部分よりかなり中枢部分で切断することが多かったのですが、最近では、できるだけ下肢の長さを残すように治療して、歩行が可能な状態を保つ下肢救済・フットケアの考え方が広がっています。このためには、細くなった動脈の拡張をする循環器科、動脈のバイパスを作る血管外科、壊死や壊疽を起こした下肢の全体的なケアと断端部の閉鎖を行う形成外科、さらに創傷を扱う専門看護師などが連携し、医療チームを作り総合的に治療を行うことが進められています」と大浦氏は話す。

 足に壊疽が起きてしまうと、これまでは切断手術による対処療法しかなかった。しかし最近は、壊疽の原因となっている詰まった足の血管(重症虚血性肢疾患)をインターベンション治療によって拡張する新しい治療法が出てきた。

 従来、治療対象となっていなかった膝下の重症虚血性肢疾患に対し、2004年頃から積極的な治療を行う施設が国内に登場してきました。膝下の重症虚血性肢疾患で積極的なインターベンション治療を行うことで、血流が回復、血行が改善して潰瘍や壊疽が改善したという海外の研究論文が発表されたことがきっかけです」と横井宏佳・小倉記念病院循環器科部長は話す。

 インターベンション治療とは、血管に通したカテーテル(管)を使って、狭くなりつまりかけた血管の状態を改善し血液の流れを良くする治療法のこと。足のつけ根などから細い管(カテーテル)を入れ、カテーテルの先端に取り付けた風船をふくらませたり、ステントと呼ばれる金属製の小さな筒を血管内に埋め込んだりする方法で、つまっている血管を拡げる内科的な治療法だ。

 インターベンション治療はメスや全身麻酔を使わず人体にやさしい治療法として注目されている。また、「足の切断しかない」と診断された患者さんでも、状態によっては血管内治療の対象となり、切断をまぬがれることもある。

 「大切なのは足の血管病は前兆を見逃さず治療すること。足の血管病で現れる症状は、足が冷たい、足がしびれる、足が痛いなど。進行すると足の傷が治りにくくなります。足に異常を感じたら、医師に相談して足の血圧検査であるABI検査を受け、下肢虚血の客観的診断を受けて欲しい」と横井氏は話す。

日本フットケア学会
日本下肢救済・足病学会
日本メドトロニック
糖尿病対策推進会議(日本医師会)
  「糖尿病患者さん 足チェックシート」

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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