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2011年12月16日
アジア人の糖尿病発病に関わる遺伝子を発見 国際プロジェクト

コンソーシアムには東アジアの14のゲノム研究室が参加し、日本からは東京大学大学院医学系研究科の門脇孝教授と理研ゲノム医科学研究センター内分泌・代謝疾患研究チームの前田士郎チームリーダーらが主な研究者として参加した。
2型糖尿病患者の増加は世界的な問題となっており、2030年には全世界の患者数は約5億5000万人に増えると予測されている。糖尿病患者のおよそ9割は2型糖尿病が占める。世界でもっとも糖尿病が増えると予測されているのはアジア地域。東アジア系の人が2型糖尿病を発症する確率は、欧米人に比べ4倍近く高いという。この地域の糖尿病人口は現在は約1億3000万人だが、2030年までに約1億9000万人に増加すると予測されている。
2型糖尿病の原因として、不健康な食事、運動不足、肥満といった生活スタイルが指摘されることが多いが、実際には遺伝的な要因の影響が大きいとみられている。民族や人種によって糖尿病を引き起こす仕組みは異なり、日本人を含む東アジアの糖尿病患者では、欧米人に比べ肥満の程度は軽いことが知られる。
欧米人の糖尿病では、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが十分に働かない「インスリン抵抗性」がより顕著だが、東アジア人の糖尿病では、インスリンの分泌が悪くなる「インスリン分泌低下」が多い。
遺伝要因がアジア人の2型糖尿病の増加に大きな役割を果たしていることはあきらかだが、実際に遺伝子を解明するのに、大多数の患者の協力を得た国際的な大規模調査が必要となる。そこで、日本・中国・台湾・韓国・シンガポール・フィリピンの研究者が参加した国際研究チームが協力して調査を進めている。
ヒトの染色体にあるDNA情報(ヒトゲノム)を構成する塩基配列のわずかな違いが遺伝子多型で、うち1ヵ所だけが異なるのが一塩基多型(SNP)。研究グループは、ヒトゲノム全体に分布する約250万個のSNPについて、東アジア人1万8817人を対象とした大規模な解析を行った。得られたSNPについて、別の3つのグループ(1万417人)で2型糖尿病との関連について検証し、19領域に絞り込んだ。さらに別の5つのグループ(2万5456人)で検証した結果、2型糖尿病の発症に関わる8つの新たな遺伝子領域を同定した。
この8領域について欧米人4万7117人を対象に調べたところ、5つは明白な関連が認められなかったことから、これらが東アジア人に特有であることが示された。これらの遺伝子多型(GLIS3、PEPD、FITM2-R3HDML-HNF4A、KCNK16、MAEA、GCC1-PAX4、PSMD6、ZFAND3)は、膵β細胞の生成やインスリン遺伝子発現、空腹時血糖値の調整、膵臓での血糖に適応したインスリン分泌などに影響しているとみられる。
2型糖尿病の発症に関与する関連遺伝子は約50がみつかっているが、多くは欧米人を対象とした解析で発見されたもので、日本人をはじめとした東アジア人に特有の遺伝子は今回の研究ではじめて分かった。
今後は、発見した遺伝子がどのように2型糖尿病発症に関わっているかというメカニズムを解明することが課題となる。今回の発見は、診断マーカーや創薬ターゲットの開発に向けた、糖尿病の新たな治療・予防法の開発につながる重要な発見とみられている。
東アジア人の2型糖尿病発症に関わる遺伝子領域を8つ発見−糖尿病の正確な予測と積極的な予防対策へ貢献−(理化学研究所)
Meta-analysis of genome-wide association studies identifies eight new loci for type 2 diabetes in east Asians
Nature Genetics, 2011 doi:10.1038/ng.1019
Six new genetic variants linked to type 2 diabetes discovered in South Asians
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