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2010年11月22日
体内時計の不調で糖尿病 生活リズムがインスリン分泌にも影響
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朝目覚めて夜眠くなる睡眠と覚醒のサイクルや、食欲、血圧、体温調節、ホルモン分泌などの周期パターンは、体内時計によりコントロールされており、体内時計が狂うと睡眠障害や高血圧、季節性うつ病などの発症につながりやすい。
米ノースウェスタン医科センターの大学のJoseph Takahashi博士らは、体内時計が狂うと膵島の遺伝子の働きもおかしくなり、血糖値が高くなることを、動物実験で確かめた。この研究は科学誌「Nature」7月29日号に発表された。
睡眠が不規則であったり、睡眠時間が短すぎると、肥満症や2型糖尿病を発症する危険性が高まることは以前から指摘されている。「体内時計の状態を調べることで、不規則な食事や仕事など、生活リズムの乱れが糖尿病におよぼす影響をあきらかにできるかもしれない」と博士は指摘している。
これまでの研究で、特に夜間に体に脂肪をとりこむ働きをする重要な蛋白質「BMAL1」が、時計遺伝子を介してさまざまな遺伝子の転写を調節し、体内時計のコントロールに深く関わっていることがわかっている。
研究者らは、BMAL1が欠損しており、体内時計が正常に働くなったマウスを観察した。マウスに高脂肪食を与えると、肥満や脂肪肝、脂質異常症になり、血糖値を一定に保つことができなくなり糖代謝異常になった。
血糖値を低下させるインスリンは膵島のβ細胞から分泌される。体内時計が正常に働いているマウスでは、インスリンが24時間のリズムを保ち分泌されていた。しかし、体内時計が壊れたマウスではインスリンの分泌能力が低下し、ほぼ平坦なリズムで分泌されていることがわかった。
興味深いことに、膵臓のBMAL1のみが欠損している若いマウスでは、血糖値は異常に高くなったが、体重は正常に保たれ、行動は通常の概日リズムのパターンの通りだった。
「このことから、膵臓の時計遺伝子にだけに不調が起こっている場合でも、糖尿病の初期症状があらわれることが示された。膵臓のβ細胞と体内時計、血糖の調整の間に密接な関連があることがあきらかになった意義は大きい」と博士は述べている。
体内時計が乱れると、肥満や2型糖尿病などの生活習慣病につながりやすいというも報告もある。予防には、睡眠や食事などの基本的な生活リズムが重要だといわれており、体内時計をコントロールする治療法の開発も期待されている。
Disruption of circadian rhythm could lead to diabetes, UT Southwestern researcher finds(ノースウェスタン大学)
Disruption of the clock components CLOCK and BMAL1 leads to hypoinsulinaemia and diabetes
Nature 466, 627-631 (29 July 2010)
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