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2009年11月20日
インスリンとともに50年 第7回「リリーインスリン50年賞」表彰式

「インスリン50年賞」受賞者に
贈られる特別なメダル
「インスリン50年賞」が米国で設立されたのは1974年。これまでに米国を中心に1500名の患者が受賞し、日本でも2003年より表彰が開始され、昨年までに22名の患者が受賞し
第7回となる今年は6名が受賞し、表彰式では受賞者4名が50年以上にわたる糖尿病やインスリンとの付き合いや、糖尿病患者への励ましのメッセージを熱く語った。受賞者には、名前を刻印した純銀製のメダルと、世糖尿病デーのシンボルカラーに染められた「青いバラ」が贈られた。
日本でインスリン自己注射の保険適用が始められたのは1980年代になってからのこと。受賞者がインスリン療法を開始した1950年代には、糖尿病患者は現在では考えられないような多くの困難を乗り越えなければならなかった。自宅でのインスリン自己注射は認められておらず、注射は原則として病院など医療機関で行わなければならなかった。
現在治療に使われている使いやすいペン型注入器や、注入器とインスリン製剤が一体になったキット製剤は当時はなかったので、注射は小さいガラス瓶に入ったバイアル製剤をガラス製の注射器で吸って行っており、注射ごとに煮沸消毒も必要だった。
当時は牛などの膵臓から抽出したインスリンが使われていたが、アレルギーで皮膚が赤くなるなど副作用があった。遺伝子工学が進歩し、1980年代に入り糖尿病治療における画期的な薬とされているヒトインスリンが開発された。ヒトインスリンはヒト由来のインスリンと同じアミノ酸配列で、アレルギーなどが起きにくい。世界初のヒトインスリン「ヒューマリン」は、米イーライリリー社によって1982年に発売された(日本では1986年に発売)。
遺伝子組み換え技術は進歩を続け、1990年代には新たに超速効型インスリンが登場した。世界初の超速効型インスリンアナログ「ヒューマログ」は1996年に発売された(日本では2001年)。

インスリン製剤や注入器は50年間にめざましく進歩し、インスリン療法を開始・継続する患者の負担は軽くなっている。現在は、患者の病態や治療に合わせて、作用の現れる時間や持続する時間の異なるさまざまなタイプのインスリン製剤が治療に使われている。
インスリン注入器の操作性も向上し、よりスムーズに注入できるようになり、初めて使う患者でも扱いやすくなっている。デザイン面でも多様なものが出ており、患者の心理に配慮し一見して注射器に見えない上品なデザインの注入器や、扱いやすいコンパクトなサイズの注入器、より細かい単位設定ができる注入器などを使えるようになった。
技術の進歩はインスリン注射の針にもあらわれている。現在はより痛みの少ない注射針が開発され、ほとんどの場合は注射していることさえも感じないほどに改善されている。
現在からは想像もできないような多くの困難に直面しながらインスリン療法を続け、「インスリン50年賞」を受賞した患者たちは、他の糖尿病患者にとって偉大な目標となり、勇気と希望を与えてくれる。
受賞者は糖尿病患者への励ましのメッセージを力強く話し、「前向きに治療に取り組むことの大切さ」を強調した。「糖尿病は自分にとって人生の一部。これから50年という節目を目指す人も、より良く生きてほしい」「糖尿病という病気が重荷であっても、一歩を踏み出さなければならない」「支えてくれた家族や周囲の方々、医療者に心から感謝したい」という声が多く聞かれた。

(左から)大谷敏代さん、鶴岡順さん、勝田靖子さん
(受賞者のうち畑スエ子さんは事情により表彰式は欠席、2名の方は本人の希望により情報が公開されていない。)
Diabetes.co.jp(日本イーライリリー(株))
インスリンとインスリン療法、糖尿病医療の開発の歴史が詳しく解説されている。
関連ページ
私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み-(糖尿病NET) 後藤由夫 先生
いま、1型糖尿病は(糖尿病NET) 内潟安子 先生
過去の「リリー インスリン50年賞」受賞者について、社団法人日本糖尿病協会発行「月刊糖尿病ライフ さかえ」で紹介されている。
社団法人日本糖尿病協会
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