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2022年11月14日

糖尿病の人に「低炭水化物ダイエット」は良い? 悪い? どうすれば食事療法はうまくいく?

 炭水化物を減らし、血糖値が上がり過ぎるのを抑える「低炭水化物ダイエット」は、肥満のある人の体重減少や、糖尿病の人の血糖コントロールに効果的と人気が高い。

 しかし低炭水化物ダイエットはほんとうに安全で効果があるのかと、考え込んでいる人は少なくない。低炭水化物ダイエットの効果を探ったさまざまな研究が発表されている。

食事も個別化する必要が

 糖尿病の食事療法で勧められているのは、総カロリー摂取量を適正化したうえで、栄養バランスを良好にすることだ。

 日本でも、糖尿病の人のための食事療法として一般的に、エネルギー比で、炭水化物は50~60%、タンパク質は20%以下を目安にして、残りを脂質から摂るのが良いとされているが、脂質は25%を超えて摂り過ぎないことが勧められている。

 しかし最近は、人によって必要な栄養バランスやカロリー摂取量などは異なる可能性もあるので、食事サポートも1人ひとりに合わせて個別化する必要があるという考え方が増えている。

 同じ人でも、年齢によって適切な栄養バランスは変化していく可能性も指摘されている。たとえば、高齢になったら、フレイルやサルコペニアなどを予防するために、良質なタンパク質を十分に摂取することが望ましいとされている。

低炭水化物ダイエットは人気が高い

 食事に対する好みや価値観、習慣などは多様化しており、食事支援でも、患者の病態や嗜好性などに合わせて、より柔軟に対応することが求められている。

 そうしたなかで、炭水化物を減らし脂肪やタンパク質を増やす「低炭水化物ダイエット」が、肥満のある人の体重減少や、糖尿病の人の血糖コントロールに効果的と人気が高い。

 もっとも血糖値を上げやすいのは糖質なので、糖質を制限することで、血糖値が上がり過ぎるのを抑制しようというのが、低炭水化物ダイエットの考え方だ。

低炭水化物ダイエットは肥満のある糖尿病予備群では有用?

 低炭水化物ダイエットは、血糖値が高めで肥満のある糖尿病予備群では食事療法として有用である可能性があるという研究を、米チューレーン大学が発表した。研究成果は、6月に開催された米国糖尿病学会の第82回学術集会で発表された。

 「糖質を制限する低炭水化物ダイエットが、2型糖尿病の人の食事療法の1つのアプローチになりえるという報告はこれまでもありましたが、どのような人に有用なのかはよく分かっていません」と、同大学公衆衛生学のキルステン ドランス氏は言う。

 研究グループは、糖尿病の治療を受けておらず、HbA1cが6.0%~6.9%と高めの、40歳~70歳の男女150人を対象に、6ヵ月間のランダム化比較試験を実施した。参加者の体格指数(BMI)の平均は35.9で多くは肥満だった。

 低炭水化物ダイエットに取り組む群と、従来の食事を続ける群に振り分け、1~2ヵ月の血糖値の平均をあらわすHbA1cがどう変化するかを比較した。

 その結果、低炭水化物ダイエットを行った群では、HbA1cは0.23%、空腹時血糖値は10.3mg/dL、体重は5.9kg、それぞれより減少した。

どのような人が低炭水化物ダイエットを行うと効果的?

 「控えめな数字ではありますが、血糖値が高めと指摘された、肥満のある糖尿病予備群で、薬物療法を受けていない人では、極端な制限は勧められないにしても、低炭水化物ダイエットはある程度、有用であることが示されました」と、ドランス氏は言う。

 この実験では、低炭水化物ダイエットを行った群では、摂取したカロリーの約半分を脂肪が占めていたが、主にオリーブオイルやナッツなどの、一価不飽和脂肪や多価不飽和脂肪が多く含まれる、健康的な植物性食品から摂っていた。

 「ただし、この食事スタイルが2型糖尿病の食事療法で代替的なアプローチになりうるかについては、さらに研究をする必要があります。どのように低炭水化物ダイエットを行えば、もっとも効果的なのかもよく分かっていません」と、ドランス氏は指摘する。

 「米国では9,600万人が、糖尿病と診断されるほどではなくとも、血糖値が高めな前糖尿病とみられています。しかもその80%は、自分の血糖値が高いことに気付いていません。この段階であっても、すでに動脈硬化は進行しており、心臓病や脳卒中のリスクは高くなっています。早期の介入が必要です」としている。

糖質の摂り過ぎはやはり不健康 運動不足が加わると最悪の結果に

 低炭水化物ダイエットが糖尿病の食事療法として有用であるかを判断するため、まだ多くの研究が必要となりそうだが、血糖値を上げやすい単純糖質を過剰に摂取する食事が不健康であるのはおそらく確実という、別の研究が報告されている。

 糖質を過剰に摂取する食事スタイルに、座りがちの時間の長い運動不足の生活スタイルが重なると、インスリンに対する体の反応は大幅に悪くなるという研究を、米ミズーリ大学医学部が発表した。

 2型糖尿病の多くは、遺伝的要因などによるインスリン分泌能の低下に、食べ過ぎや運動不⾜などの⽣活スタイルの変化という環境的要因が合わさり、血糖を下げるインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性が加わり発症すると考えられている。

 研究グループは、36人の健康な男女を対象に10日間わたり、1日の歩数を1万歩から5,000歩に減らし、運動不足にして、さらに糖質が多く含まれる高カロリーの清涼飲料を1日6缶飲む生活をしてもらった。

 その結果、座ったままの生活と糖質の過剰摂取により、とくに男性で、インスリンに対する体の感受性は悪くなり、脚の血流が減少し、心血管疾患の重要なバイオマーカーであるアドロピンと呼ばれるタンパク質の値が低下した。

 「糖質を多く摂る食事に運動不足が加わるのは、とくに男性にとって、大変に不健康な生活スタイルとなる可能性があります。短期間であっても、このような不健康な生活により、体のインスリンに対する反応は悪くなることが示されました」と、ミズーリ大学心血管研究センターのカミラ マンリケ-アセベド氏は述べている。

管理栄養士に相談を

 糖尿病の食事療法は、一生涯にわたり継続することが大切になる。そのためには、個々の人の生活スタイル、食事の好みに応じながら、病態の違い、年齢などを考慮しながら、柔軟に進める必要がある。

 食事や栄養の専門家である管理栄養士が食事教育に参加すると、糖尿病の人の血糖管理をより改善しやすくなり、体重減少、HbA1cの改善、悪玉コレステロールの低下など、好ましい変化を得られるという研究も発表されている。

 糖尿病の食事療法を実践するときは、食事の支援やアドバイスのスキルのある管理栄養士に早くから参加しもらい、個別のアドバイスをもらうことも推奨されている。食事で困ったり悩んでいるときは、1人で悩んでいないで、管理栄養士に相談するのはひとつの方法となる。

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[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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