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2022年09月09日

超音波を利用した新しい糖尿病の治療法を開発 「超音波療法」は安全で糖尿病に効果があることを実証

 米国のゼネラル エレクトリック(GE)を中心とする研究グループは、超音波を利用した新しい糖尿病の治療法の開発に取り組んでおり、このほど治療機器のプロトタイプの開発に成功したと発表した。

 世界中で生体電子医療の開発が進められており、身体の神経系を調節する電子デバイスを使用し、糖尿病などの慢性疾患を治療する新しい方法が模索されている。

 この超音波療法を実用化できれば、食事療法・運動療法・薬物療法に並ぶ、新たな糖尿病の治療法となる可能性があるとしている。

超音波を利用した新しい糖尿病の治療法を開発

 わずらわしい血糖値の検査、インスリン注射、薬物による糖尿病の治療や管理が必要ではなくなる日はいつか来るのだろうか? 米国のゼネラル エレクトリック(GE)を中心とする研究グループは、この問いにひとつの回答をもたらす研究を進めている。

 研究グループは、超音波を利用した新しい糖尿病の治療法の開発に取り組んでおり、このほど超音波変調機器のプロトタイプの開発に成功したと発表した。

 この超音波療法は、食事療法・運動療法・薬物療法に並ぶ、新たな糖尿病の治療法となる可能性があるとしている。2型糖尿病などの代謝性疾患でのグルコース恒常性を回復する、薬物を使わない新しい治療法になると期待されている。

 2型糖尿病のマウスとラット、ブタを用いた前臨床実験で、超音波療法は安全であり、糖尿病の予防・改善に有用であることを実証した。研究グループは現在、糖尿病患者を対象とした実現可能性試験に取り組んでいる。

 この新しい糖尿病の治療法を開発する研究は、米国国防総省の機関である国防高等研究計画局(DARPA)の生物技術局(BTO)により、部分的に支援されて進められている。

GEリサーチの研究グループと開発した超音波変調機器のプロトタイプ

ビクトリア コテロ氏、ジェフリー アッシュ氏、クリストファー ピュレオ氏

出典:ゼネラル エレクトリック、2022年

超音波を利用して糖尿病を予防・改善できる

 研究は、GEの研究部門であるGEリサーチが主導し、ファインスタイン医学研究所、カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学部、イェール医科大学、アルバニー医科大学と共同で行っているもの。研究成果は、「Nature Biomedical Engineering」に発表された。

 研究グループはこの6年間、超音波を利用した生体電子医療の開発に取り組んできた。これは、超音波を利用して、疾患に関連する臓器内の特定の神経経路を刺激する、新しい非侵襲(体への負担やダメージのないこと)の治療法だ。

 「今回の前臨床研究で、超音波を利用して糖尿病を予防・改善できることを証明しました。研究結果は、身体の神経系を調節する電子デバイスを使用し、糖尿病などの慢性疾患を治療する新しい方法を模索する生体電子医療の分野での、重要なマイルストーンになります」と、GEリサーチのバイオメディカル部門のエンジニアであるクリストファー ピュレオ氏は述べている。

 「薬を使用しない電子デバイスベースの治療は、医師と患者さんにとって将来、新しい治療の選択肢となる可能性があります。超音波の利用したバイオエレクトロニク医療が今後、2型糖尿病などの治療に将来的に適用されれば、ゲームチェンジャーになるかもしれません」としている。

 「現在、2型糖尿病患者さんのグループを対象とした、ヒトでの実現可能性試験に取り組んでおり、臨床での実装に向けた仕事を開始しています」としている。

超音波により耐糖能とインスリン抵抗性の両方が改善

 新たに開発した超音波療法は、「末梢集束超音波刺激(pFUS)」により、特定の神経代謝経路を非侵襲的に刺激し、肝臓の門脈系を制御する神経を刺激し、2型糖尿病の遺伝モデルと食事誘発モデルの両方を改善することが示された。どちらの場合も、超音波により耐糖能とインスリン抵抗性の両方が改善した。

 超音波パルスは、血糖管理に関わる肝臓での代謝感覚神経の経路を調節する働きをする。さらに、肝臓の感覚神経は、摂食や断食などの異なる代謝事象に対して、脳へのシグナル伝達を増減させるようにして働いている。

 超音波パルスによる刺激は、脳内の代謝制御中枢への感覚神経シグナル伝達に影響を及ぼし、2型糖尿病モデルの高血糖を予防または逆転させることが確かめられた。

 「超音波により刺激と生体電子医療を活用したこの画期的な研究は、世界中の数億人の人々に影響をもたらしている糖尿病を改善し、さらには潜在的に糖尿病が消失した寛解の実現をも視野に入れた、新しいアプローチに向けた大きな前進となります」と、ファインスタイン医学研究所生物電子医学研究所のサンギータ チャバン教授は言う。同研究所は今回の研究で、超音波治療の効果を動物モデルを用いて試験をした。

超音波療法のメカニズム
出典:ゼネラル エレクトリック、2022年

即効性があり副作用は少なく、安全性も高い治療法を開発

 神経系(脳、脊髄、末梢神経など)に生じた機能異常に対し、超音波や磁気、微弱な電流による刺激をあて、神経活動を調整する新しい技術である「ニューロモジュレーション」が注目されている。「ニューロ」は神経、「モデュレーション」は調節という意味がある。

 ニューロモジュレーションは近年、世界的に急速に発達してきており、日本でも厚生労働省などが次世代医療機器事業として開発を促進している。医工学分野の進歩にともない、精度や安全性の高いデバイスが開発されており、即効性があり副作用は少なく、安全性も高い技術として期待されている。

 「糖尿病を治療するために、さまざまなタイプの血糖降下薬が利用されていますが、インスリン感受性を改善する新しい方法が常に求められています。残念ながら現在、そのニーズを改善に満たすことのできる薬はごくわずかです」と、イェール医科大学イェール糖尿病研究センターの内分泌学の専門家であるライムント ヘルツォーク氏は言う。

 「今回明らかになった前臨床研究の有望な結果をもとに現在、臨床試験を進めています。超音波療法は、インスリンと血糖値の両方を改善するのに効果的であることが期待されます」としている。

 「ニューロモジュレーションによる長期的な生理学的・代謝的な影響を明らかにすることが、この新しい治療法を最適化し、臨床上で実用化するうえでの重要な課題になっています」と、ファインスタイン医学研究所のスタヴロス ザノス氏は述べている。

GE Research-led Team Treats Diabetes using Ultrasound (ゼネラル エレクトリック 2022年3月31日)
Ultrasound Offers New Avenue to Treat Diabetes (カリフォルニア大学ロサンゼルス校サミュエリ工学部 2022年4月6日)
Stimulation of the hepatoportal nerve plexus with focused ultrasound restores glucose homoeostasis in diabetic mice, rats and swine (Nature Biomedical Engineering 2022年3月31日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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