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2022年02月24日

低血糖を防ぐ新しい薬を開発中 低血糖を恐れず糖尿病のコントロールを改善

 糖尿病の血糖コントロールを良好に維持するうえで、低血糖は大きな障害になっている。この低血糖を防ぐ新しい薬の開発が進められている。

 開発中の薬は、血糖値が危険な領域まで低下したときのみに作用し、血糖を上げるホルモンであるグルカゴンの放出を増加させる。

 「とくに夜間の低血糖を防ぐために、就寝前に飲むことのできる薬を想定しています。低血糖を防止し、高齢の糖尿病患者さんや小児の患者さんのいるご家族や介護者に安心を与えられるようにすることを願っています」と、研究者は述べている。

低血糖は良好な血糖コントロールを維持するうえで大きな障害に

 糖尿病は、血糖値を下げるインスリンの作用が十分でないため、ブドウ糖が有効に使われず、血糖値が正常よりも高くなっている状態。糖尿病の治療では、食事や運動、さらには必要に応じて薬を使い、患者自身が血糖値をコントロールする必要がある。

 しかし、血糖コントロールは簡単なことではなく、血糖値が危険なほどに高くなる「高血糖」、さらには低くなる「低血糖」が起こる可能性がある。

 このうち低血糖は、糖尿病の血糖コントロールを良好に維持するうえで大きな障害になっている。

 現在、英国のエクセター大学が主導している研究で、この低血糖を防ぐ新しい薬の開発が進められている。これは、ホルモン制御システムを強化することで、低血糖を防ごうというもので、米国の製薬企業であるリゲル ファーマシューティカルズ社と協力して開発が進めてられている。

 研究グループは当初、2型糖尿病の治療薬として広く利用されているメトホルミンのような作用をする薬の開発を目指していたが、その過程で、前臨床試験化合物「R481」が脳に作用して、「AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)」と呼ばれる燃料センサーのスイッチを入れる働きをすることを発見した。AMPKは細胞内のエネルギーが不足すると活性化し、代謝を制御する分子だ。

血糖値が危険な領域まで低下したときにグルカゴン分泌を促進

 さらにラットを使った実験で、この化合物が膵臓に作用し、「グルカゴン」というホルモンの放出を増加させることを突き止めた。グルカゴンは、肝臓からのブドウ糖の産生・放出を促進し、血糖を上昇させる働きをする。グルカゴンは低血糖時の救急処置にも利用されている。

 この化合物は脳と膵臓のネットワークに働きかけ、血糖を上げるグルカゴンの放出を増加させる作用は、血糖値が危険な領域まで低下したときに起こり、空腹時などには作用しないことも分かった。

 「この新しい薬を開発する研究で、多くの糖尿病患者が悩まされている低血糖を予防・治療するという目標に向けて、重要な一歩を踏み出しました。とくに夜間の低血糖を防ぐために、就寝前に飲む薬を想定しています」と、同大学の研究員であるクレイグ ビール氏は言う。

 「実用化への長い道のりの最初の一歩を踏み出した段階ですが、小児の患者さんや高齢の糖尿病患者さんのいるご家族や介護者に安心を与えられるようにすることを願っています」と、ビール氏は述べている

糖尿病とともに生きる人々の治療と生活を改善

 この研究を支援している英国糖尿病学会(Daibetes UK)の研究コミュニケーション部の責任者であるルーシー チェンバース氏は、次のように述べている。
 「低血糖を防ぐ薬を開発できれば、糖尿病とともに生きる人々の生活はいまよりさらに向上し、不安も軽減できると期待しています。低血糖が起こるリスクの高い人々を保護できるようになります」。

 また、1型糖尿病に関する研究を支援し慈善活動も展開しているJDRFの研究部門管理者で、自身が1型糖尿病患者であるコナー マッキーバー氏は、次のように述べている。
 「糖尿病患者さんの家族や保護者、介護者のなかには、愛する人が夜間に低血糖になることを恐れて、睡眠を十分にとれていない人が少なくありません。そうした人々の不安と心配を減らすのに役立つと期待してます。この研究を支援できることを誇りに思っています」。

 英国では、1型糖尿病患者は週に平均2回の低血糖、1年に1回の重症低血糖を経験しており、2型糖尿病患者は、1年に最大5回の低血糖を経験しているという。

 「とくに、米国と英国だけでも220万人以上と推定されている1型糖尿病とともに生きる人々の、治療と生活を大きく変えるのではないかと期待しています」。

低血糖を恐れず、より積極的に血糖コントロール

 低血糖は、ある種類の血糖値を下げる薬を使用すると、血糖値が低くなり過ぎる副作用。血糖値が一定の値まで低下すると、"汗をかく""脈が早くなる""手や指が震える"などの症状があらわれる。重症の場合は、脳などの中枢神経が糖不足の状態になり、意識障害、けいれんや昏睡などが起こり危険な状態になる。

 症状が起きた時にきちんと対処すれば回復するが、急に血糖値が低下して対処が間に合わない場合や、自覚症状なしに血糖値の低下が進行する場合などは、自己のみでは対処できない重症低血糖におちいることもある。一般的に、血糖値が70mg/dL未満に低下した場合は、低血糖への対処が必要になる。

 これまで、米国のDCCTや英国のUKPDSといった大規模研究により、1~2ヵ月の血糖値の平均を反映するHbA1cを低くコントロールすると、糖尿病の合併症を抑制できることが証明されている。その結果、HbA1cを目標値まで下げることが、糖尿病の治療の基本になった。

 しかし、2008年に発表された2つの大規模な臨床研究(ACCORDとADVANCE)では、厳格な血糖コントロールを求め過ぎると、危険な低血糖のリスクが増え、求めていた心血管疾患からの保護という利益を得られないことが分かってきた。

 また、糖尿病の高齢者では、重症低血糖は認知機能の低下や認知症の危険因子になるとみられている。

 その影響で、血糖値をより低くコントロールしようとすると、一部の糖尿病患者では、低血糖のリスクが高くなる恐れがあると考えられるようになった。

 低血糖を防ぐ治療法を開発できれば、低血糖を恐れることなく、より積極的に血糖値を低くコントロールできるようになり、深刻な糖尿病合併症のリスクをより減少できる可能性がある。

Research takes early step towards drug to treat common diabetes complication hypoglycemia (エクセター大学 2021年12月17日)
Brain Permeable AMP-Activated Protein Kinase Activator R481 Raises Glycaemia by Autonomic Nervous System Activation and Amplifies the Counterregulatory Response to Hypoglycaemia in Rats (Frontiers in Endocrinology 2021年12月17日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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