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2021年10月21日
1型糖尿病の子供の家族のストレスと不安を軽減 子供の8人に1人が特別な医療を必要とする「CSHCN」
一般的な子供が必要とする水準以上の保健・医療サービスを必要とする子供(CSHCN)の割合は日本では12.5%に上り、そうした子供をもつ親や養育者は不安・抑うつを抱えやすいことが、東京大学や国立成育医療研究センターなどの調査で明らかになった。
1型糖尿病の小児患者もCSHCNに含まれる。小児患者を支える親や保護者は多くのストレスにさらされているが、そうしたストレスをソーシャルサポートによって軽減できる可能性がある。
子供の8人に1人が特別な医療サービスを必要とし、親もストレスを抱えやすい
「特別な保健・医療サービスを必要とする子供(CSHCN:Children with special health care needs)」は、米国で提唱された考え方で、身体・発達・行動・感情に慢性的な問題を抱え、一般的な子供が必要とする以上の保健・医療サービスを必要としている子供のこと。
米国で実施されたCSHCNについての全国調査「NS-CSHCN」によると、CSHCNの状態には、ADHD、食物アレルギー、喘息、自閉症、心臓病、脳性麻痺、成長遅滞、糖尿病、ダウン症、筋ジストロフィー、てんかんなど、さまざまな疾患が含まれる。
CSHCNは、医療やメンタルヘルス、教育に関するサービスを、同年齢の他の子供よりも多く必要としている、もしくはそのリスクがあるとされている。CSHCNには、日本に2万人いるとされる医療的ケア児も含まれる。
日本でも、慢性疾患を抱える子供のための医療施策と、子供たちをケアする親の負担を軽減する支援をどう行うかが課題になっている。日本で医療は進歩しており、予防接種体制の改善もあり、以前では小児期に死亡していた患者が、長生きするのが当たり前といえる時代となった。
その一方で、そうした子供をもつ親や保護者は不安・抑うつなどを抱えやすいことも知られている。親や保護者へのサポートをいかに充実させるかも課題になっている。
1型糖尿病の小児患者の親や保護者も、療養生活で心配や困難、それへの対応のために、少なくないストレスを抱えている。親の心配や困難の内容は、"療養生活での行動や管理""就学のときなどに生じる心配や困難""インスリン注射などの療養行動を習得するための指導"などさまざまだ。
養育者や家族の不安・抑うつをソーシャルサポートで軽減
東京大学などの研究グループは、約4,000人の10歳児とその親を対象としたコホート調査から、CSHCNの割合は日本では12.5%に上り、そうした子供をもつ親は不安・抑うつを抱えやすく、ソーシャルサポートによって軽減される可能性があることを明らかにした。
偏りの少ない一般住民を対象としたコホート研究から明らかにし、親のメンタルヘルス問題との関連や、ソーシャルサポートの媒介の可能性も示したのは今回の研究がはじめて。
大規模調査である「東京ティーンコホート(TTC)」の第1期調査を用いた横断研究。同研究は、東京大学・総合研究大学院大学・東京都医学総合研究所が連携して行っている大規模な疫学研究。研究への協力を得られた3,171世帯を対象に、心理学的状態、認知機能、社会学的背景、身体に関する尺度など、さまざまな情報を取得している。
日本でも、医療的ケア児とその親の介護負担をどのようにサポートするかが注目されており、2021年に「医療的ケア児支援法」が成立した。CSHCNは医療的ケア児より幅広い概念だが、こうした子供たち自身や家族の介護負担に対する心理社会的な支援の拡充の必要性が望まれている。
研究は、東京大学大学院医学系研究科の笠井清登教授、安藤俊太郎准教授、東京大学相談支援研究開発センターの梶奈美子助教、東京都医学総合研究所 社会健康医学研究センターの西田淳志センター長、国立成育医療研究センターの五十嵐隆理事長らの研究グループによるもの。
縦割り型の支援策だけでは困難
日本では、難病あるいは小児慢性疾患への医療費支援は、主に児童福祉法による小児慢性特定疾患治療研究事業と自治体による子供医療費補助制度として行われており、子供の生命的予後の改善に大きく寄与してきた。
しかし、成人に移行するまでも、また移行してからも、長期間にさまざまな障害や合併症が起こることもある。治療や支援を必要としているものの、縦割り型の支援策では小児慢性疾患児を支援することに困難が生じてしまう。
また、経済的支援以外に、小児慢性疾患児の養育者、家族をサポートする行政的施策がないことも課題になっている。
1型糖尿病の子供の家族の75%が特別なヘルスケアを必要としている
1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が破壊されることで、内因性インスリンが不足し発症するタイプの糖尿病。1型糖尿病、通常は絶対的なインスリン欠乏におちいるので、治療の基本は注射やポンプによるインスリン補充療法となる。
1型糖尿病は、小児慢性特定疾患治療研究事業や特別児童扶養手当の対象となっている。前者の対象年齢は18歳未満の児童だが、引き続き治療が必要であると認められた場合は20歳未満まで延長が可能となっている。
1型糖尿病の子供の養育者や家族は、仕事や生活の面で大きな影響を受けているという調査結果がある。米国で2005~2006年に実施されたCSHCNについての全国調査「NS-CSHCN」では、1型糖尿病をもつ子供の家族の75%が特別なヘルスケアを必要としていることが示された。
1型糖尿病の子供の家族は、35%が仕事が制限されたことがあり、38%が経済的影響があり、24%が子供の世話などに週に11時間以上を費やしており、20%が子供が学校を欠席した日が年に11日以上あり、41%が年間1,000ドル以上の医療費を必要としていると回答した。
「1型糖尿病の子供の家族のほとんどは、大きな影響を経験しています。より良いヘルスケアのシステムを提供することは、家族の負担の一部を減らすのに役立つ可能性があります」と、米国の研究者は述べている。
日本でも子供の8人に1人がCSHCN 養育者にはストレスも
小児慢性疾患の疾病構造は変化してきているが、これまで日本では小児慢性疾患児の実態が包括的に把握されていなかった。
そこで東京大学などの研究グループは、地域でのCSHCNの頻度を把握し、CSHCNの有無と養育者のストレス状態(不安・抑うつ症状)との関連、さらにその関連を媒介する要因を調べることを目的に調査をはじめて行った。
調査では4,003世帯が回答し、子供の平均年齢は9.7歳(女児の割合が49.4%)、養育者のうち母親による回答は93%だった(母親の平均年齢は42.0歳)。
CSHCNについての質問に回答してもらったところ、502人(12.5%)の子供がCSCHNに該当した。また、CSHCNの有無およびCSHCNの質問該当個数が多いことは、養育者の不安・抑うつの重症度と統計学的に有意に関連していた。
さらに、CSHCNと養育者の不安・抑うつの症状の緩和に人的ソーシャルサポートが有効であることが統計学的に示された。
不安・抑うつなどのストレス状態をチェックするための質問票「K6」で測定し、5点以上を不安・抑うつ症状陽性と判断し、5点から12点を軽症、13点以上を重症と評価した。
K6は、6つの質問からなる短い質問紙で、国際的に指標として幅広く使われている。過去30日の主観的な精神的苦痛が分かる。
さらに、親や保護者を対象に、精神的な支えになっている人について尋ねる質問票である「SSQ6」を用いて評価した。この質問票には「助けを必要としている時に頼れる人」「気が動転した時に慰めてくれる人」といった項目が含まれる。
CSCHNと養育者のストレスを軽減するために
今回の研究では、日本でも一般の子供のなかにCSHCNが8人に1人という高い割合で存在し、CSHCNを養育することは、高いストレス状態と関連すること、さらにその関連が社会的支援により緩和できる可能性があることが示された。
「今回の研究は、今後の政策に向けて重要なエビデンスを提供したといえます。これから東京ティーンコホートは18歳時の調査にさしかかるところですが、CSCHNと養育者のストレスが軽減され、ウェルビーイングの実現にどのような教育・社会環境が重要なのか、縦断的な研究が求められます」と、研究グループでは述べている。
東京大学医学部附属病院精神神経科東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構
東京ティーンコホート
Children with special health care needs and mothers' anxiety/depression: findings from the Tokyo Teen Cohort study(Psychiatry and Clinical Neurosciences 2021年9月22日) 医療的ケア児等とその家族に対する支援施策(厚生労働省)
National Survey of Children with Special Health Care Needs(Data Resource Center for Child and Adolescent Health)
Impact of Type 1 Diabetes Mellitus on the Family is Reduced with the Medical Home, Care Coordination, and Family-Centered Care(Journal of Pediatrics 2011年12月2日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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