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2020年08月26日

ポジティブな感情が心筋梗塞や脳卒中の予防につながる? 「人生の意味や目的」が健康の秘訣

 順天堂大学の研究グループは、ポジティブな感情の重要な要素である「人生における意味や目的」と、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患の発症リスクとの関連を調べた結果、ポジティブな心理状態により動脈硬化が抑制され、その効果が5年後も持続することを突き止めた。
 人生の充足感や充実感といった「心理的ウェルビーイング」を高めることが、循環器疾患や寝たきりを予防するために役立つ可能性がある。
気持ちをポジティブにすると循環器疾患を予防できる?
 心筋梗塞などの心血管疾患や、脳卒中などの脳血管疾患を含む循環器疾患は、日本人の主要な死因であるだけでなく、寝たきりにつながる要因になっている。

 循環器疾患の医療費に占める割合は第1位であり、高齢化が進み、医療費がさらに増大している日本では、循環器疾患の発症リスクを低下させ、寝たきりを減少させることは重要な課題となっている。

 こうした背景のもと、ストレスが多い現代社会で、うつなどのネガティブな感情が循環器疾患へ与える影響について多くの研究が進められている。

 しかし、ポジティブな感情との関連については、ほとんど研究されていない。

関連情報
充足感や充実感が健康にもたらす影響を調査
 人生における充足感や充実感といったポジティブな心理状態は、学術的に「心理的ウェルビーイング」と呼ばれている。

 ポジティブな感情のもととなる、自分の人生を生きるに値するものとするための「意味」(meaning)や「目的」(purpose)といった要素と、循環器疾患のリスクとの関連はよく分かっていない。

 そこで、研究グループは、ポジティブな感情である心理的ウェルビーングと循環器疾患の発症リスクとの関連を明らかにするために、研究を行った。

 研究は、順天堂大学医学部公衆衛生学講座の野田愛特任准教授、谷川武教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米医学誌「Hypertension」に掲載された。
どちらが重要? 「快楽主義」と「人生の意味や目的」
 研究グループは、心理的ウェルビーイングと循環器疾患の発症リスクとの因果関係を調べるために、英国の長期的で大規模な縦断研究「ホワイトホールII研究」のデータを解析した。

 この研究では、ロンドンの中心部で働く公務員を対象に1985年に開始され、4~5年ごとのアンケート調査とさまざまな臨床検査による追跡調査が進められた。

 今回は、2007~2009年の間を基準時として設定し、心理的ウェルビーイングを評価するための自記式質問紙「CASP-19」を用いて分析した。

 CASP-19は、心理的ウェルビーイングを「人生の喜びや楽しみ」「コントロール」「自律性」「自己実現」の4つの領域に定義しているが、今回は「人生の喜びや楽しみ」の項目は、「へドニア・ウェルビーイング」(快楽を感じる状態)の指標として用い、他の3つの領域の項目は「ユーダイモニア・ウェルビーイング」(人生における意味・目的を感じる状態)の指標として用いた。

 へドニア・ウェルビーイングは、「快楽主義」とも表現され、五感を通した心地良さや喜びを感じ、苦痛や不快感がない状態をあらわす。たとえば、美味しい料理を食べている時に感じるような一時の感覚的な幸せなどだ。

 それに対して、ユーダイモニア・ウェルビーイングは、「人生における意味や目的を感じること、または良好な精神的機能」と表現され、人間の滞在能力が十分に機能している状態をあらわす。たとえば、意義ある目標に向かって、楽しいばかりではなく、困難にも立ち向かいながら、人生を生きていることで感じる幸せなど。
気持ちをポジティブにすると動脈硬化を抑制できる
 研究グループは参加者を対象に、基準時と5年後に、動脈硬化の指標となる大動脈脈波伝播速度(PWV)を測定した。

 基準時に脳血管疾患または心血管疾患を発症しておらず、CASP-19に回答し、基準時か5年後のどちらかでPWVの測定を行った4754人(平均年齢65.3歳、男性:3466人、女性:1288人)を対象に、心理的ウェルビーイングと5年間のPWVの変化との関連を調べた。

 その結果、ユーダイモニア・ウェルビーイング(人生における意味や目的の感覚)が高いレベルの男性は、これが低いレベルの男性に比べてPWVの平均値が低く、動脈硬化が抑制されていることが分かった。また、その傾向は5年経過しても持続することが明らかになった。女性では、こうした傾向はみられなかった。

 また、へドニア・ウェルビーイング(快楽感覚)については、こうした関連は、男女ともにみられなかった。

ユーダイモニア・ウェルビーイングによる動脈硬化の抑制効果は5年経過しても持続する
出典:順天堂大学医学部公衆衛生学講座、2020年
気持ちのあり方が循環器疾患や寝たきりに影響
 これらから男性では、「人生における意味や目的」を感じる状態が、「快楽」を感じる状態よりも、動脈硬化の進展を予防している可能性が示された。

 現在の日本の高齢者の多くは、「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という価値観が広く浸透している時代を過ごしてきた。

 熱心に仕事に打ち込んできて退職を迎えた高齢男性にとって、退職後の人生に意味・目的を見出し、第二の人生目標を設定することは重要となる。

 「人生での充足感や充実感といった心理的ウェルビーイングのレベルを高めることが、人口の高齢化が進む現代社会で、循環器疾患や寝たきりを予防するために役立つ可能性があります」と、研究グループは述べている。

 「今後は日本の高齢者を対象に、心理的ウェルビーイングの循環器疾患への影響について検討する予定です」としている。

順天堂大学医学部公衆衛生学講座
Psychological Wellbeing and Aortic Stiffness: Longitudinal Study(Hypertension 2020年7月13日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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