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2020年08月21日

糖尿病による眼の合併症を予防 失明を防止するキャンペーンを開始

 米国糖尿病学会(ADA)が、糖尿病による眼の合併症を早期発見して、失明を防止するためのキャンペーンを開始した。
 「眼の検査を毎年受けていれば、糖尿病が原因となる視力喪失の95%を妨げます」と呼びかけている。
高血糖を放置していると眼の合併症が
 米国糖尿病学会(ADA)が、糖尿病網膜症などによる失明を防止するためのキャンペーン「糖尿病にフォーカス:眼の健康について知ろう(Focus on Diabetes: Look Closer at Eye Health)」を開始した。

 糖尿病網膜症は、高血糖によって網膜の血管が傷つき、視力の低下や障害があらわれる病気。糖尿病の三大合併症の1つで、日本でも中途失明の原因の第2位になっている。

 網膜には動・静脈血管や光、色を感じる神経細胞が多くある。網膜の血管は細く、血液中のブドウ糖が過剰な状態(高血糖)が続くと損傷を受けやすい。高血糖を放置していると、徐々に血管がつまったり変形したり、出血を起こすようになる。

 米国立眼研究所(NEI)によると、糖尿病の人は糖尿病網膜症だけでなく、糖尿病黄斑浮腫、緑内障、白内障のリスクも高くなる。良好な血糖コントロールを維持し、これらの眼の病気を防ぐことが大切だ。
眼の検査を受けていれば95%を妨げる
 「適切な治療を行っていれば、眼の健康を維持するのは難しいことではありません。しかし実際には、糖尿病は18~64歳の人の視力喪失の主要な原因となっています」と、フロリダ眼クリニックの眼科専門医であるニサン プレスリー氏は言う。

 「やっかいなことに、糖尿病網膜症などの眼の病気は自覚症状が乏しいことが多く、治療を開始するのが遅れてしまうケースが多いのです」。

 「糖尿病網膜症は、病状が進行しないと自覚症状がない場合が多く、検査と治療を受けていないと、病状が突然悪化して失明などの深刻な結果をもたらすおそれがあります」。

 「しかし、良い知らせもあります。眼の検査を毎年受けていれば、糖尿病が原因となる視力喪失の95%を妨げることが明らかになっています」と、プレスリー氏は強調する。
検査を定期的に受けている人が少ない
 糖尿病の合併症を防ぐために、血糖コントロールの指標となるHbA1c(最近の1~2ヵ月の血糖値を反映している)を7.0%未満に維持し、同時に、高血圧や脂質異常症の治療に取り組むことが大切だ。

 ADAのキャンペーンでは、眼の合併症により視力障害や視力喪失になるのを防ぐために、下記のことをアドバイスしている。

ステップ1糖尿病を早期発見し治療を開始する

 2型糖尿病は病状が進行しないと、自覚症状があらわれないことが多い。そのため、血糖値が高くなっていても、自分が糖尿病や糖尿病予備群であることを知らない人が多い。

 糖尿病予備群の段階で、動脈硬化などは進行しやすくなっている。糖尿病合併症を防ぐために、健康診断をなるべく毎年受けて、糖尿病を早期発見し、早く治療を開始することが重要だ。

ステップ2眼の検査を毎年受ける

 糖尿病の人は、眼の合併症の予防と早期発見のために、眼の検査を毎年受けることが望ましい。糖尿病網膜症などは病状が進行しないと、自覚症状があらわれないことが多いので、眼の検査を受けることはとくに重要となる。

 下記の自覚症状がある場合には、相当悪化していると考えられる。主治医に相談し、すぐに眼科医の検査を受けることが必要になる。
・ 視界がかすんだり、ぼやけている
・ 視界に暗い部分や見えない部分がある
・ 小さな虫が飛んでいるように見える
・ 歪んで見える
・ 色が見えにくい
・ 光が点滅して見える

ステップ3眼に異常が起きていたら眼の治療を始める

 眼の検査を定期的に受けることで、糖尿病に合併する眼の病気を早期に発見し治療できるようになり、視力障害や視力喪失を防ぐことができる。

 しかし実際には、糖尿病とともに生きる人の多くは、定期的に眼の検査を受けておらず、治療を開始するのが遅れた結果、眼の障害が残ってしまうことが多い。糖尿病患者の3分の1が眼の合併症を抱えているという報告があり、定期検査はとても大切だ。
「眼底検査」で網膜の血管を調べる
 眼科では、眼の奥の網膜を観察する「眼底検査」を行って、網膜の血管の状態や出血などを調べる。異常が疑われる場合には、腕の静脈から蛍光造影剤を注射して眼底を詳しく調べる「蛍光眼底造影検査」が行われる。

 最近では、網膜の断面を映し出す光干渉断層計(OCT)による検査も行われている。糖尿病網膜症に合併する黄斑浮腫などを調べるのに有効な検査で、造影剤を使わないので、患者の体への負担はほとんどない。
年に1回は眼科医の診察を受けることが大切
 糖尿病網膜症であることが分かったら、血糖コントロールを改善するとともに、眼の治療が開始される。

 糖尿病網膜症が進行すると、網膜の血管が詰まり、その部分をバイパスするために血管(新生血管)ができる。放置していると、新生血管はもろいので、大きな出血を起こしてしまう。さらに新生血管の周りに増殖膜ができ、それが網膜を引っ張って網膜剥離を起こしてしまう。

 もっとも視力に関係する部分である中心窩に、どれだけ血管の異常が及んだかによって症状は決まる。そのため、中心窩に異常が及んでいなければ、無症状であることも多い。しかし、実際には病状がかなり進んでしまっている可能性がある。

 網膜症がかなり進行したときは、網膜にレーザーを当てて新生血管ができないようにする光凝固療法という手術や、増殖膜を取り除く手術などが行われる。

 しかし、新生血管によって硝子体出血や網膜剥離が続けて起こると、行えるのは視力が低下するのをできるだけ防ぐ治療となり、網膜を元に戻せるわけではない。

 「糖尿病の人は少なくとも年に1回は、眼科医の診察を予約して、眼のトラブルを早期発見して治療できるようにすることが大切です。もっとも大切なのは、専門家による早期発見により、あなたのビジョンを救うことができるということです」と、プレスリー氏は強調している。

米国糖尿病学会(ADA)

Diabetic Retinopathy(米国立眼研究所(NEI))

日本糖尿病眼学会
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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