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2020年04月01日

【新型コロナウイルス】タバコが感染症の重大なリスクに 糖尿病も悪化させる

 電子タバコを含む喫煙は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染と重症化における「深刻な脅威」になっている。
 日本禁煙学会は「喫煙者には、この機会に禁煙に踏み切ることをお勧めします」と強調している。喫煙スペース(喫煙所や喫煙室)も、クラスター(集団感染)の発生源になるという。
タバコを吸う人は感染症が重症化しやすい
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染と重症化において、喫煙が「深刻な脅威」になっていることが分かってきた。

 日本禁煙学会は、COVID-19が重症化しやすいのは、(1)高齢(60歳以上)、(2)喫煙(現在、喫煙している人、過去に喫煙していた人)、(3)喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)のある人、(4)糖尿病や肝疾患などの慢性疾患のある人だとしている。

 タバコが、肺がんをはじめとするさまざまながんや、脳卒中・心疾患などを引き起こすことは承知の通りだ。それだけでなく、喫煙は肺をはじめとする呼吸器や全身の免疫系にも悪影響を与える。

 タバコには、ニコチンだけでなく、がん、心血管疾患、呼吸器疾患の発病リスクを高める5,000種類以上の有害物質が含まれている。
タバコが肺や免疫力へダメージをもたらす
 喫煙や受動喫煙が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、肺や免疫力へのダメージになるだけでなく、COVID-19の感染や重症化のリスク要因にもなる。

 インフルエンザ、ノロウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)などの感染症についても、喫煙者は感染しやすく、感染すると重症しやすいことが知られるが、COVID-19についても同様であることが示された。

 「喫煙者には、この機会に禁煙に踏み切ることをお勧めします。禁煙することで、リスクは低減し、やがて非喫煙者と同等になります」と、日本禁煙学会はコメントしている。
喫煙者は感染による肺炎が14倍も悪化しやすい
 COVID-19が最初に発生したとされる中国の調査で、喫煙はCOVID-19の重病化リスクに関係していることが明らかになった。

 中国湖北省武漢市にある華中科技大学などの研究グループが発表した研究で、喫煙者はCOVID-19が重病化し、肺炎が起こるリスクが14倍も高いことが示された。

 中国本土の感染患者1,099人を対象とした調査でも、重症化した人の割合は、非喫煙者927人のうち134人(14%)だったのに対し、現在喫煙中と過去に喫煙していた人を合わせた喫煙者では158人中38人(24%)となり、喫煙により重症化リスクが1.7倍高くなった。

 喫煙は持病がない人にも呼吸器疾患を引き起こす。日本禁煙学会は「喫煙はさまざまな感染症を悪化させます。新型肺炎でも大きなリスク要因となることを知って欲しい。タバコを吸っている人は、今すぐ禁煙に取り組むべきです」と強調している。
喫煙により重病化しやすくなる理由
 喫煙とCOVID-19の重病化が関係している理由として、次のことが考えられる。

(1)タバコにより血流が悪くなる。血管障害で血流が滞り、体の隅々に栄養が行きわたらなくなると免疫が低下する。

(2)肺表面にある線毛は、肺内の粘液や汚れ、ウイルス、バクテリア、有毒粒子などを排出する働きをもっているが、喫煙は線毛を損傷させる。

(3)ニコチンは、肺の炎症を抑え傷ついた細胞を修復する作用のあるサイトカイン(生理活性物質)の産生も阻害する。

(4)タバコは吸い口付近を指先で挟んだり、煙を深く吸い込んだりするため、手指に付着したウイルスや細菌が体内に入り込むリスクがある。

(5)喫煙は、新型コロナウイルスがヒト細胞に感染する際の侵入口となるアンジオテンシン変換酵素(ACE)受容体を活性化させる可能性がある。

 とくに、ACE2受容体は、心臓、肺、腎臓、消化管にあり、ニコチンの影響を受けやすいと考えられている。これは、ニコチン受容体が心臓、肺、血管に多く分布しているからだ。喫煙に関連する疾患の多くは心血管と肺に起こる。
電子タバコも安心できない
 つまり喫煙者は、新型コロナウイルスに感染しやすくなり、喫煙によって痛めつけられた肺は感染によってさらにダメージを受け、治りにくくなるということだ。

 また、受動喫煙によりごくわずかな量を吸い込んだ場合であっても、急性呼吸不全症候群(ARDS)を併発し、呼吸不全に陥るリスクが上昇する。

 電子タバコであっても安心はできない。カリフォルニア大学のタバココントロール研究・教育センターのスタントン グランツ教授は、「電子タバコの使用者では、生来もっている免疫システムの能力が損なわれ肺炎リスクが高まりやすい」と述べている。
糖尿病の人にとっても喫煙は重大な障害に
 糖尿病とともにい生きる人にとっても、喫煙は重大な障害になる。タバコを吸う習慣のある人は、今すぐ禁煙に取り組むべきだ。

 タバコは血糖を下げるインスリンの効きを悪くする。喫煙者は、非喫煙者に比べて、糖尿病の発生が1.5~2倍多いことが分かっている。

 喫煙が全身の血管の動脈硬化も進展させる。動脈硬化による心臓病や脳卒中を予防するためには、まずタバコの煙を吸いこまないことが大切。喫煙者ではできるだけ早く禁煙して、動脈硬化が進むのを予防することが必要だ。

 糖尿病で喫煙している人が禁煙すると、心臓血管病や腎臓病のリスクが低下し、10年で非喫煙の糖尿病の人と変わらなくなるという研究もある。禁煙により血糖コントロールが改善するという研究も発表されている。

 「禁煙は糖尿病合併症の予防の観点でも重要です。糖尿病のある人は、禁煙のための努力をおしむべきではありません。たばこを吸う習慣のある人は、禁煙することで、血糖コントロールを改善するための最大のメリットを得られます」と、研究者は述べている。

一般社団法人 日本禁煙学会
  COVID-19(新型コロナ)に罹患しない・させないために
  全国の喫煙所・喫煙室の閉鎖状況
UCSF TCORS public comment on expansion of FDA HPHC list(カリフォルニア大学のタバココントロール研究・教育センター 2019年10月2日)
Smoking and Diabetes(米国疾病予防管理センター 2020年3月23日)
Epidemiological and clinical features of the 2019 novel coronavirus outbreak in China(medRxiv 2020年2月21日)
Epidemiological and clinical characteristics of 99 cases of 2019 novel coronavirus pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study(Lancet 2020年1月30日)
Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China(New England Journal of Medicine 2020年2月28日)
Analysis of factors associated with disease outcomes in hospitalized patients with 2019 novel coronavirus disease(Chinese Medical Journal 2020年2月28日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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