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2019年01月08日

β細胞を増殖させる治療薬を開発 糖尿病の新たな治療法に期待

 インスリンを分泌するβ細胞を増殖させる治療薬を開発するのに、米国のマウントサイナイ医科大学の研究チームが成功した。詳細は医学誌「Cell Metabolism」に発表された。
 体に自然に備わっているβ細胞を増やすという、糖尿病の新たな治療法の実現に向けて大きく前進した。
β細胞を増やす新たな治療法
 1型糖尿病は自己免疫疾患などが原因で、β細胞(インスリンを産生する膵臓の細胞)が破壊され発症する。多くの場合で診断された時点でインスリンが分泌されていないため、インスリン療法が不可欠だ。

国際若年性糖尿病財団(JDRF)
 2型糖尿病でも、加齢にともないβ細胞が減少することが多く、インスリン分泌が徐々に低下する。そのため糖尿病が進行するとインスリン療法が必要になる。

 β細胞を増やし、インスリン分泌を増やすことができれば、糖尿病の根本的な治療法になるが、現在の医療ではβ細胞を直接的に増やす治療法は見つかっていない。

 米国のマウントサイナイ医科大学の研究チームが、β細胞を増殖する新たな治療薬を開発するのに成功した。その増殖速度は、過去の研究で観察されたものを大きく上回る最高のものだという。

 β細胞がインスリンを産生する能力を回復させるという、糖尿病の新しい治療法の実現に向けた、重要なステップとなる研究だ。
β細胞を急速に増殖させる薬剤を開発
 研究チームは2015年に、南米のアマゾン川流域に生えているアヤワスカブドウに含まれる「ハルミン」と呼ばれるアルカロイドの一種に着目。「ハルミン」がヒトのβ細胞を低率で生産するのに役立ち、血糖コントロールを改善するという研究を発表した。

 2017年に発表した研究では、「インスリノーマ」と呼ばれる、膵臓のβ細胞にできる腫瘍の遺伝的異常について調べた。この病気があると、血糖値に関わらずインスリンが分泌され、低血糖が引き起こされる。

 「インスリノーマ」がβ細胞を増殖させるメカニズムを調べているうちに、特定の「遺伝子レシピ」が関わっていることを発見した。こうした研究をもとに、「ハルミン」と他の薬剤を組み合わせて、β細胞を急速に増殖させる薬剤を開発するのに成功した。

 開発された薬剤には、二重特異性チロシン調節キナーゼ1A(DYRK1A)を阻害する薬剤と、ベータ型変異増殖因子スーパーファミリー(TGFβSF)を阻害する薬剤を含んでいる。これらのタンパク質は、細胞の増殖・分化をコントロールしており、細胞を生み出すの働きを抑える働きをする。

 DYRK1A阻害剤とTGFβSF阻害剤の相乗効果により、β細胞を増殖することができるという。
β細胞を増やす薬を開発するのに成功
マウントサイナイ医科大学が公開しているビデオ

β細胞の産生が40倍に増加
 マウスを使った実験では、この薬剤を使うとβ細胞が1日に5〜8%増えることが分かった。多い場合には1日に15〜18%増えた。「ハルミン」のみを投与すると、増殖の平均率は1日に2%程度にとどまるので、大幅に改善したことになる。健康な人では、β細胞は1日に平均0.2%増殖している。

 1型糖尿病を根治するために膵臓やβ細胞を移植する治療が行われているが、こうした臓器移植ではドナーが不足している。ES細胞やiPS細胞を使った再生医療の研究も進められているが、実現するために多くの時間が必要となる。

 今回開発された治療法は、そうした既存の治療法の欠点を補う画期的なものだという。実験ではβ細胞の産生を最大で40倍まで高めることができた。

 「今回の研究で、β細胞を再生する治療を実現する薬剤の組合せを発見しました。これだけ高い割合でβ細胞を再生できれば、人を対象とした場合でも、インスリン分泌を十分に回復することができます。我々は今回の成果について、とても興奮しています」と、マウントサイナイ医科大学糖尿病・肥満・代謝研究所のアンドリュー・スチュワート教授は言う。
1型糖尿病と2型糖尿病を根治できる可能性
 ただし、この薬剤を投与すると膵臓以外の臓器にも影響をもたらすので、すぐに治療に使えるわけではない。「この薬剤を人のβ細胞に直接的に送達する方法を開発する必要がある」という。

 「たとえてみると、納品する荷物は出来ましたが、正確な住所であるβ細胞に配達する方法はまだみつかっていない状態です。今後の研究の課題です」と、スチュワート教授は言う。

 この研究は、国際若年性糖尿病財団(JDRF)が資金を支援して行われている。JDRFのβ細胞再生プログラムのリーダーであるフランシス マーティン博士は「膵臓のβ細胞を増やす実際的な治療法を開発できれば、インスリン依存の状態から離脱し、1型糖尿病を根治できるようになります」と述べている。

 「短期間の研究で、β細胞の再生速度を以前は不可能と思われていたレベルまで高めることができました。1型糖尿病と2型糖尿病の患者のインスリン産生を回復させる新たな治療法を開発できる可能性があります。まだ課題は残っていますが、今後の進展を期待しています」。

Mount Sinai Researchers Discover New Drug Cocktail That Increases Human Beta Cell Proliferation at Rapid Rates(マウントサイナイ医科大学 2018年12月20日)
New Drug Combination Achieves Highest Rate of Human Beta Cell Proliferation(JDRF 2018年12月20日)
Combined Inhibition of DYRK1A, SMAD, and Trithorax Pathways Synergizes to Induce Robust Replication in Adult Human Beta Cells(Cell Metabolism 2018年12月20日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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