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2018年08月27日
インスリン産生細胞を「再起動」 2型糖尿病は「完治」できる?

肥満を伴う2型糖尿病患者では、糖尿病を発症してから6年以内であれば、食事療法と運動療法を徹底させれば、糖尿病を完治できる可能性があることが、英国の「DiRECT」研究で明らかになった。
体重コントロールに着目した新しいアプローチ
生活スタイルを改善し、食事療法と運動療法をしっかり行い、体重をコントロールすることで、2型糖尿病の人の半分近くは、事実上「糖尿病を完治した」状態を維持できることが、英国で実施されている「DiRECT」(糖尿病を寛解するための臨床試験)で明らかになった。
やり遂げると薬物療法を完全にやめられる、もしくは量を減らすこともできるという。詳細は医学誌「Cell Metabolism」に掲載された。
「DiRECT」研究は、英国のニューキャッスル大学のロイ テイラー教授とグラスゴー大学のマイク リーン教授に率いられ実施されている。2型糖尿病患者298人が参加し、体重コントロールに着目した新しいアプローチにより、2型糖尿病をどれだけ改善できるかを調べている。
介入プログラムに参加した患者は、徹底した低カロリー食を続け、ウォーキングなどの運動を毎日行い、専門のスタッフによるストレスへの対処や睡眠などについてのアドバイスを受けている。
2型糖尿病の多くで、膵臓は血糖値を調整するホルモンであるインスリンを十分に産生できなくなる。肥満のある人の多くが、体重を減らし肥満を解消することで、糖尿病を発症する前の状態に戻せることが判明した。
関連情報
β細胞を「再起動」 糖尿病から離脱
研究で得られた知見は、「糖尿病を一度発症すると、生涯にわたり"治った"と同じ状態を維持できても、完治することはない」という従来の定説を覆すものだ。
「2型糖尿病の早期治療では、薬物療法を開始するとともに、食事や運動などの生活習慣の改善が指導されていますが、現実には医療現場は多忙であり、生活習慣の指導は控えめに行われている傾向があります」と、テイラー教授は言う。
高カロリーの食事や運動不足が原因で、肝臓に脂肪が過剰に蓄積されると、インスリンへの体の反応が鈍くなり、膵臓でインスリンが過剰に生成されるようになる。
そうなると、全身に脂肪がたまりやすくなり、さらにインスリンが分泌されるという悪循環に陥る。やがて、インスリンを産生するβ細胞は疲弊し機能が低下され、結果として血糖値が高くなる。
「肥満のある人では、生活スタイルの改善をしっかりと行い、体重を適正にコントロールすることで、β細胞を"再起動"できます。インスリン分泌が残存している2型糖尿病患者は、適度な体重減少によりβ細胞を"再生"でき、血糖コントロールが改善した結果、糖尿病から離脱できることが示されました」と、テイラー教授は言う。
12ヵ月の強化療法でβ細胞が正常化

食後のインスリン分泌に差が

内臓に脂肪が蓄積された状態は危険
「体重が標準体重を超える肥満の人にとって、減量がいかに重要であるかが示されました。特に内臓に脂肪が蓄積された状態は危険です」と、テイラー教授は述べている。
「糖尿病のある人にとって、これはとても勇気づけられる良い知らせです。生活スタイルの改善は、誰もが手を延ばせる実行可能なツールなのです」。
「DiRECT」研究が開始されてから1年しか経っておらず、2年目以降の成果に期待しているという。研究グループは、2型糖尿病から離脱できなかった人では、何が障害になっているかを、遺伝子レベルで解明することを目指している。
研究グループは、糖尿病発症の根底にある膵臓のβ細胞の機能の変化を評価しアルゴリズムを適用し、効果的な治療を行えるようにすることを目指している。インスリンを分泌するβ細胞がどれだけ機能しているかを調べ階層化し、新たに開発した治療法を適用することを計画している。
'Rebooting' insulin-producing cells key to Type 2 diabetes remission(ニューカッスル大学 2018年8月2日)Why weight loss produces remission of type 2 diabetes in some patients(Cell Press 2018年8月2日)
Remission of Human Type 2 Diabetes Requires Decrease in Liver and Pancreas Fat Content but Is Dependent upon Capacity for β Cell Recovery(Cell Metabolism 2018年8月2日)
'Rebooting' insulin-producing cells found to be key to Type 2 diabetes remission(英国糖尿病学会 2018年8月2日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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