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2018年03月19日

実践!スローカロリー「上手な糖質活用のノウハウを教えます」

一般社団法人スローカロリー研究会 第4回年次講演会レポート

 一般社団法人スローカロリー研究会の第4回年次講演会が、去る3月7日に都内で開催され、スローカロリーの研究と最新事例が報告された。

総合討論

理事長挨拶「4年度目の事業計画」

一般社団法人スローカロリー研究会理事長 宮崎 滋 氏
(公益財団法人結核予防会理事/総合健診推進センター 所長)

一般社団法人スローカロリー研究会理事長 宮崎 滋 氏

 講演会の冒頭、研究会理事長の宮崎滋氏が、同会が4年目を迎えるにあたってこれまでの活動報告と今後の事業計画を発表。前年度かからスタートした新規事業として、産学交流を進める交流会の「すろかろ懇話会」を行ったことや「すろかろプロジェクト」を開始させたことを報告した。

 後者の「すろかろプロジェクト」は、スローカロリーの実践者の活動をネットワーク化し情報を共有するとともに、スローカロリーのさらなる普及を図る活動。その一環として、新たにスローカロリーを栄養指導に採用しようとする施設から「すろかろアンバサダー」を募集し、スタートに必要な指導用資材を提供するという取り組みも始めた。全国から約60件の応募があり、初年度は29施設でアンバサダー活動を展開。その成果は今後、講演会などのイベントやWebを通じて報告される予定という。

すろかろアンバサダー
2018年度の事業計画としては、この「すろかろアンバサダー」活動を軸とし、「すろかろ教育」を推進していく。詳細はこちら ▶

基調講演「日本人の元気に欠かせない糖質のことをもっと知ろう!」

政策研究大学院大学保健管理センター教授 鈴木 眞理 氏

政策研究大学院大学保健管理センター教授 鈴木 眞理 氏

 基調講演では鈴木眞理氏が、同氏が専門とされる摂食障害にフォーカスを当てた。今回の講演会全体のテーマは「実践!スローカロリー 上手な糖質活用のノウハウを教えます」だか、摂食障害では「糖」が命綱になることもあると述べ、まだ社会的な理解が十分でないこの疾患を概説した。

 摂食障害は精神的な理由で食事の摂り方が異常になる疾患で、神経性やせ症、神経性過食症、過食性障害の三病型に分類される。このうち神経性やせ症は入院治療を受けた患者の死亡率が6年で6〜11%に上るとされ、これはあらゆる精神疾患の中で最も高い。このような拒食症患者の死因の7割は餓死であり低血糖であり、その予防には補食と血糖測定が必要とされる。その際、補食には血糖を持続的に維持するのに適したパラチノースが勧められるという。

 一方、神経性過食症は過食と嘔吐を繰り返すため体重はほぼ正常であり、気が付かれにくいという特徴がある。以上の両者は若年女性に多いが、男性の場合は過食性障害が多く、糖尿病や肥満の治療を受けている患者の中にこうした患者が隠れている可能性があるという。またこれら摂食障害の背景として、ストレスを強く感じやすいということが挙げられる。

 脂肪は体重の2〜3割を占める最大の臓器と言え、食欲を抑制するレプチンを分泌するなどして適正な食欲の維持に関わるだけでなく、レプチンは脳に働き月経周期に関与することも近年わかってきた。鈴木氏はこのような最新情報を交えながら、摂食障害に対する精神的なアプローチの重要性と、医療者側においてもこの疾患の認知度がまだ不足していることを訴えた。同氏は現在、一般社団法人日本摂食障害協会の活動を通じて、啓発に力を入れている。

関連情報:一般社団法人日本摂食障害協会

糖質活用のノウハウ①「小児、思春期、やせ」

東京女子医科大学病院栄養管理部栄養士長 柴崎 千絵里 氏

東京女子医科大学病院栄養管理部栄養士長 柴崎 千絵里 氏

 続いてスローカロリーの実践的な話題が「糖質活用のノウハウ」として3題発表された。

 1題目は基調講演の演者である鈴木氏の患者に対し栄養指導を行っている柴崎千絵里氏の講演。柴崎氏は、小児期からの肥満と思春期のやせはしずれも深刻化しているとし、また摂食障害に対しては画一的な栄養指導ではなく、病期にあわせた指導が必要となると述べた。

 エネルギー源の主要な栄養素は炭水化物であるが、摂食障害の患者は炭水化物の中でも食物繊維に偏る傾向があり、しばしば「野菜は大好き」と言うが、それは「野菜は太らないから安心」と言っているのと同じであり、炭水化物の中の糖質をしっかりとるような助言が求められるという。ただし、栄養指導の立場として、「太りたくないという訴えもわからなくはない」とし、それであれば糖質の"質"に注目し工夫した食べ方を紹介。具体的には、よく知られているように野菜を先に食べてから主食を摂るだけでなく、油を上手に利用する、例えばパンに野菜と卵を乗せて食べるならマヨネーズをかけることで、食後の血糖値の上昇はより抑制されることを、データとともに示した。そして、わが国ではかつて「三角食べ」あるいは「回し食べ」といい、ごはんとおかず、小鉢を順番に食べる習慣があったが、それは正にスローカロリーであると述べた。

 また、小児の食生活を改善するために、栄養士は家族もサポートし、小児と家族が無理なく実践できような指導が求められているとした。

糖質活用のノウハウ②「メタボ、高齢者」

武庫川女子大学国際健康開発研究所教授 家森 幸男 氏

武庫川女子大学国際健康開発研究所教授 家森 幸男 氏

 家森氏は1983年からWHOの協力を得て世界各地で研究してきており、その成果を中心に講演した。現在、アフリカで肥満が増えているが、これは伝統的に夕食を多く摂る食生活が影響しており、摂取エネルギー量全体が少なかったころは特に不都合はなかったものの、今はそれが目に見えるかたちで問題になってきているという。

 またブラジルには多くの日系人が生活しているが、その多くが肥満している。その人たちにパラチノースを用いた食事の効果を二重盲検比較試験で検討したところ、26週間で内臓脂肪の減少と血圧低下が観察された。食後の糖負荷によりインスリン分泌が増え、それが脂肪細胞を肥大化させ、脂肪由来の善玉サイトカインであるアディポネクチンを減らし、悪玉サイトカインをと増やすというメカニズムは、血管内皮細胞に炎症を引き起こしてインスリンの感受性を下げるという経路でも糖尿病の発症を増やすという。それを防ぐ方法としては、食後のグルコーススパイク上昇を抑えること、つまりスローカロリーが有効だろとうと述べた。

 このほか、WHOとの共同調査でわかったこととして、日本人は大豆と魚の摂取量が多く、このことが血管保護的に作用していることを紹介。実際に兵庫県下での調査においても大豆と魚の摂取量が多い人はインスリン感受性が良く、善玉コレステロールであるHDL-Cが高いという結果が得られた。加えて、大豆の豊富な食事による介入試験を行ったところ、やはりインスリン感受性の向上と空腹時血糖の低下が観察された。男性はHDL-Cが低く動脈硬化が進行しやすいことが遺伝的に決定されていると言われるが、食生活次第でHDL-Cは女性と同等レベルになる可能性もあるという。ただし、大豆と魚の摂取量が多い人は塩分摂取量が多い傾向があることもわかり、この点に注意を呼び掛けた。

 また、主食であるコメに関しても、高アミロース米(低糖質米)の有効性などを紹介し、「スローカロリーが広がれば、糖尿病や肥満が急増する世界を救えるのではないか」とまとめた。

糖質活用のノウハウ③「スポーツ、健康づくり」

神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授 鈴木 志保子 氏

神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授 鈴木 志保子 氏

 アスリートの栄養指導の第一人者、鈴木志保子氏は「選手のためにスポーツ栄養は何ができるのかを改めて考えてみたい」と述べ、最近の自身の体験を織り交ぜて講演した。

 アスリートにとって、トレーニングであれば筋力をつけることがパフォーマンスを高めることにつながり、メンタル強化であればストレスがかかる状況でも力を発揮する強さを獲得することに結び付く。「では栄養は?」という疑問に対し最近は、「栄養によって細胞で勝つことに貢献している」と明確に言えるようになったという。その具体的な例として、誰もが間違いなく入賞する実力のある選手が良くない結果に終わった後、選手に理由を尋ねると、事情によってベストの食事ができていなかったことが理由になることもあるといい、「試合の3か月前からは食事により細胞をしっかりさせておかなければならない」と以前から自分で言っていたことが逆のかたちで証明されてショックを受けたという。ただし反対に、パラチノースを利用しマラソンでグランドチャンピオンシップをとることができた選手もいたことを、嬉しいニュースでとして報告した。

 「体重を増やさないために」とエネルギー不足になっているアスリートは少なくない。その状態に身体が適応してしまっていると最善のパフォーマンスを期待できないだけでなく、貧血や骨粗鬆症などが危惧されてくるという。それに対して鈴木氏は、適宜、調理に油を使ってGIを下げるなどしてスローカロリーを進めていくことが必要とした。

 このほか、肥満者に対して主食の摂取量を減らすことを「糖質制限」と呼ぶなど間違った言葉の使い方が広がっている現状に対し、「我々専門職者がきちんと言葉を選んで使うようにしなければならない」と述べた。

スローカロリーを推進する産業界から①

三井製糖株式会社事業創造本部事業開発部 奥野 雅浩 氏

三井製糖株式会社事業創造本部事業開発部 奥野 雅浩 氏

 奥野氏はまず、パラチノースの特徴を概説。天然の蜂蜜に含まれている成分であること、日本では添加物ではなく食品に分類されていること、消化吸収のスピードが砂糖の5分の1であり、血糖値の急な上昇を抑えながら、長時間適度な血糖状態を維持するのに向いていることなどを紹介した。また、消化吸収を抑えるという機能性は、他の糖と組み合わせても維持され、例えば砂糖とくみあわせた場合、ほぼ砂糖と同じように調理につかうことができる。

 これまでに数多くの食品に採用されているが、今年度は百貨店とコラボレーションしてパラチノースを使い高級スイーツの販売を開始したという。また近年ではマスコミに取り上げられることも増え、「次世代の砂糖」として注目度も向上していると述べた。

「スローカロリーを推進する産業界から②

株式会社ブルボン第二製品開発部 室橋 尚子 氏

株式会社ブルボン第二製品開発部 室橋 尚子 氏

 ブルボンの室橋氏は同社でパラチノースを採用した経緯を紹介。当初は「虫歯にならない」ということにメリットを感じたという。しかしその後、消化吸収を緩やかに抑えるということに注目し、間食のカロリーを気にする女子高生に対し二重盲検で比較したところ腹持ちに優位さがあり、間食を減らせる期待があるので商品化したという。

 一方、男性からは「バランス栄養食ではすぐにおなかがすいてしまい、結果的に食べ過ぎしまう」という声があることを知り、これに対応。するとゴルフをされる方やアスリートから、「これを食べると楽にラウンドを回れる、試合が楽だ」との意見が聞かれ、アスリート向けの商品が作れないかと研究を進め開発した。

 すると今度は介護関係の方から、「高齢者の栄養管理に使えないか」と想定していなかった需要があることに気づかされ、現場の声から使い方を教えていただいているのが実感だと述べた。そして、「多くの人にスローカロリーを知っていただけばさらに使い方が広がるのではないか」とまとめた。

総合討論
講演会の最後には、演者全員で総合討論が行われた

関連情報

[ DM-NET ]
日本医療・健康情報研究所

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