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2018年01月18日
糖尿病の人はなぜ糖質を欲しがる? 炭水化物を選ぶ脳神経を発見
食物を選ぶ理由は、味、匂い、見た目だけではない――炭水化物を食べたくなるのは脳内にある神経細胞の働きによるものだ。
脂肪と炭水化物のどちらを選んで食べるかを決める脳神経細胞が、本能をつかさどる視床下部にあることを、自然科学研究機構生理学研究所と琉球大学の研究グループが、マウスを使った研究でつきとめた。
脂肪と炭水化物のどちらを選んで食べるかを決める脳神経細胞が、本能をつかさどる視床下部にあることを、自然科学研究機構生理学研究所と琉球大学の研究グループが、マウスを使った研究でつきとめた。
炭水化物を好む原因は神経細胞にあった
食物に含まれる炭水化物、脂肪、蛋白質は、3大栄養素と呼ばれる。これらの栄養素は体内での役割が異なるため、人の場合は必要に応じて食物から摂取している。しかし、2型糖尿病や肥満の人では、これらの栄養素のバランスを調節するメカニズムに異常が起きていると考えられる。
研究グループは、脳の視床下部で食行動をコントロールしている、「CRH」(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を産生する神経細胞に着目した。
マウスは通常、高脂肪食を好んで食べるが、1日絶食させた後に高脂肪食と高炭水化物食を自由に与えると、高炭水化物食を多く食べ、脂肪の摂取量は減る。
これは、肝臓に蓄えられたグリコーゲンが絶食により枯渇するからだ。食物を得られなくなると、速やかに脂肪細胞に蓄えた脂肪が栄養源として利用されるようになり、結果として血中のケトン体の濃度が上昇する。
ケトン体が上昇するということは、体内でグルコース(糖)がうまく利用できない状況にあることを意味する。いつ脂肪が枯渇してしまうか分からない危険な状況であり、再び食物を得られるようになると、マウスはできるだけ炭水化物食を選んで摂食し、代謝をもとにもどそうとする。
食物の嗜好性を決定する脳内メカニズム
研究グループがマウスの脳内を観察したところ、CRHを産生するニューロンで「AMPキナーゼ」という酵素が、絶食によって活性化し、摂食させるともとに戻ることが分かった。AMPキナーゼは、細胞内において糖代謝や脂肪代謝を強くコントロールする酵素だ。
さらにAMPキナーゼを人工的に活性化させた場合、CRHニューロンがAMPキナーゼによって活性化し、マウスは高炭水化物食を通常の約9倍食べる一方、高脂肪食の摂食は3分の1ほどに減ったという。逆に抑制すると、高脂肪食を多く摂食するという結果が得られた。
炭水化物に含まれる糖質は、脂肪に比べて素早くエネルギー源になる特長がある。「視床下部のCRHニューロンは、AMPキナーゼによって活性化する特別なものであり、活性化すると炭水化物の嗜好性を変え、脂肪と炭水化物のどちらを選ぶかを決定している」と考えられるという。
「ストレスで過食」の原因解明も
2型糖尿病や肥満のある人は、甘い高脂肪食を好んで食べることが知られている。これまでは、おいしい食物を好むからだと考えられてきたが、今回の研究で、炭水化物と脂肪の食べ分けを決定する神経細胞が発見され、食物の嗜好性を決定する神経回路が明らかになった。
研究グループは「CRHニューロンが、副腎皮質ホルモンの分泌や摂食抑制作用だけでなく、炭水化物と脂肪の食べ分けにも関与することが明らかとなった」と説明している。
栄養バランスの偏りや過食などの異常が神経細胞によるものだと解明できれば、2型糖尿病や肥満に対する新たな治療法がみつかる可能性があるので、今回の発見は画期的だ。
CRHニューロンはストレスを感じると活性化することでも知られており、今回の研究は、ストレスによって甘い物を食べる原因の解明にもつながる。研究グループは「おいしさだけでなく無意識に選んで摂食する仕組みや、ストレスにより甘い物を食べる原因の解明を目指す」と意気込んでいる。
研究は、自然科学研究機構生理学研究所の箕越靖彦教授と琉球大学院医学研究科の益崎裕章教授らによるもので、米医学雑誌「Cell Reports」に発表された。
自然科学研究機構 生理学研究所 生殖・内分泌系発達機構研究部門琉球大学医学部 内分泌代謝・血液・膠原病内科学
Activation of AMPK-Regulated CRH Neurons in the PVH is Sufficient and Necessary to Induce Dietary Preference for Carbohydrate over Fat(Cell Reports 2018年1月17日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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