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2016年06月13日

糖尿病と認知症の「危険な関係」 血糖値が高いと認知症リスクが上昇

第59回日本糖尿病学会年次学術集会
 全国で950万人の糖尿病患者、そして462万人の認知症患者、この2つの病気の間に「危険な関係」があることが分かってきた。糖尿病の人は認知症になりやすく、認知症になると糖尿病が悪化しやすくなる。早い時期から高血糖と低血糖を防ぎ、認知症を予防することが重要だ。

 九州大学が行っている「久山町研究」では、高齢糖尿病患者では認知症の合併が多いことが明らかになっている。糖尿病のある人ではそうでない人に比べ、アルツハイマー病や血管性認知症の発症リスクが2~4倍に上昇するという。

糖尿病の人がアルツハイマー病を発症しやすい理由
 アルツハイマー病は脳の神経細胞が死んでいく病気だが、脳細胞が死んでいく原因については、現在かなりのことが分かってきている。アルツハイマー病の患者の脳には「老人斑」というシミのようなものがたくさんある。老人斑には「アミロイドβ」という物質がたまっており、このアミロイドβが増えることで脳の神経細胞が障害を受け、最終的に死んでいくと考えられている。

 最近になって、アルツハイマー病にはインスリンが関わっていることが分かってきた。脳の神経細胞のエネルギー源のほとんどは糖で、脂肪などは使われない。そのため、脳神経細胞は常に糖を取り込まなければならないが、そのときに必要な働きをするのがインスリンだ。

 糖の取り込みは神経細胞を囲んでその機能を支えている「グリア細胞」が行っている。このグリア細胞が血液中の糖を取り込んで、その糖を神経細胞に渡している。神経細胞は受け取った糖をエネルギーに変換することで機能を果たしている。

 最近の研究では、アルツハイマー病のある人の脳では、グリア細胞へ働きかけるインスリンが不足してしまい、グリア細胞は血液中の糖を取り込めなくなってしまうことが分かってきた。インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」も、認知症の進行に影響していると考えられている。
血糖値が高いと脳の神経細胞が障害を受ける
 九州大学が生活習慣病の原因究明と予防を目的に福岡県久山町で行っている「久山町研究」では、研究に参加している人が死亡すると病理解剖を行って、死因についての解析を行っている。その中で、中高年の時に糖尿病だった人とそうでない人が、20年後、30年後に認知症になる割合にどれぐらいの違いがあるかも調べている。

 それによると、亡くなったときにアルツハイマー病であった人と、そうでなかった人では、脳の神経細胞の遺伝子の働きが大きく違っていた。アルツハイマー病のない人では、半分以上の遺伝子が良く働いていたのに対し、アルツハイマー病のある人の脳の神経細胞ではインスリンの働きに必要になる遺伝子が働くなり、その働きを邪魔する遺伝子が活発になっていた。

 糖尿病の人がアルツハイマー病を発症しやすいもうひとつの理由は、糖尿病は脳の動脈硬化を促進するからだ。動脈硬化が進めば脳梗塞の発症リスクが高くなり、血管性認知症にもなりやすくなる。

 さらに、食後の血糖値が高くなる「食後高血糖」が続くと、酸化ストレスや炎症、糖を燃やした時にできる有害物である「終末糖化産物」などが、脳の神経細胞にダメージを与えることも分かってきた。恐ろしいことに、糖尿病の前段階である「耐糖能異常」の場合も、認知症のリスクは高くなるという。

 米国のジョージタウン大学の研究チームが、脳における糖の取り込みを長年にわたり調べ、どのように変化するかを明らかにしている。それによると、アルツハイマー病のない人では、年齢が進んでも糖の取り込みはあまり変化していないが、アルツハイマー病のある人では、発症する10年ほど前から糖の取り込みが明らかに下がっていることが分かった。

 血糖値が高くなっていると、脳内でインスリンの働きが悪くなるとともに、アミロイドβが増えやすくなると考えられている。
高血糖を改善して認知症を予防 低血糖にも注意
 糖尿病の人が認知症になるのを防ぐために、まず必要なことは血糖コントロールを改善することだ。米国で行われたDCCT/EDIC試験や、2型糖尿病を対象としたACCORD-MIND試験とARIC試験では、HbA1c値の上昇とともに認知機能、なかでも前頭葉機能が低下することが示された。「HbA1c7.0%未満」を目標にコントロールすることが、認知機能を良好に保つために必要であることが判明した。

 血糖コントロールを改善するための治療は、食事と運動が基本だが、必要に応じて糖尿病治療薬を使って、血糖値が正常域内になるようにコントロールする。食後に高血糖状態になることや、血糖値が一日の中で大きく上下することは認知症のリスクになる。

 一方で、薬物治療を行うと、血糖値が下がりすぎる「低血糖」が起こるリスクもある。重症の低血糖は脳の神経細胞にダメージを与え、重症低血糖の経験のある人はない人に比べて、認知症の発症リスクが約2倍になるという報告がある。高血糖とともに低血糖も防がなければならない。

 最近の経口薬には、食後高血糖や血糖の日内変動を抑え、かつ低血糖のリスクがない薬が出ており、インスリンにも低血糖を起こしにくいタイプの薬剤が出ている。そうした薬を上手に使い、血糖コントロールを改善すると効果的だ。
インスリンを鼻から投与する治療法を開発中
 アルツハイマー病に対する治療法の研究は、世界中で盛んに行われている。現在使われているのは、アルツハイマー病の進行を遅らせる薬がだか、根本的な治療法の開発を目指し、さまざまな研究が行われている。

 ターゲットとなるのは、神経細胞を障害するアミロイドβだ。たまってしまったアミロイドβを取り除く方法や、アミロイドβをためないようにする方法の研究が世界中で進められている。さらに、アルツハイマー病には、インスリンを作れなくなったことによる糖の取り込み不足も関係していることが分かり、インスリンを対象とした新たな取り組みが始まっている。

 米国では、インスリンを鼻から投与する治療法の研究が進められている。鼻の粘膜からインスリンを吸収させ、脳の神経細胞にインスリンを直接送り込み、神経細胞の働きを改善しようという治療法だ。

 これらの研究で良い結果を得られれば、実用化が期待される。その場合、使用される薬剤は、すでに糖尿病の治療で使われている薬なので、副作用などのを含む特徴が明らかになっている。そのため、開発期間が短くて済むと期待されている。
糖尿病の人は血管性認知症のリスクも高い
 認知症にはいくつかのタイプがあり、よく知られているアルツハイマー病以外に、脳の血流障害によって起こる「血管性認知症」がある。

 糖尿病の人が血糖コントロールの不良の状態が続くと、血管性認知症の発症リスクも上昇する。血管性認知症とは、脳の血流障害により起こる認知症だ。脳の血管が詰まる脳梗塞や、脳の血管が破れる脳出血などで、脳の一部の神経細胞が死滅するために起こる。

 脳小血管病は、脳の細い血管に起こるが、多くは症状がでない「無症候性ラクナ梗塞」や「無症候性微小脳出血」などだ。障害の起きている範囲が小さいため、症状が現れにくく、本人が気付かないうちに病変の数が増えてしまうことがある。

 ラクナ梗塞や微小脳出血は、40歳以上の健康な人でも1~2ヵ所はみられる。数が少なければ影響は小さいが、多くなると認知症の症状が現れてくる。糖尿病の人は加齢に伴い数が増えやすく、脳小血管病による認知症になりやすくなる。
血管性認知症の主な症状 当てはまる場合はすぐに相談を
 血管性認知症の症状では、次のような症状が現れてくる。脳血管障害を早期に治療してリハビリを行えば、症状の進行を抑えることが可能だ。

(1)スムーズにできていたことが段取り良くできなくなる
 神経細胞の壊死が脳の白質という部分で起こると、白質を情報を伝える経路にあたるので、情報を最短ルートで伝えられなくなる。

(2)物忘れが増える
 初期の段階では、ヒントを言ってもらえば思い出す。自分が思い出せずにいることも自覚している。

(3)動作がゆっくりになる
 情報経路が遮断されることで、脳からの指令が体にうまく伝わらなくなり、動作がゆっくりになる。

(4)活気がなくなる、言葉数が少なくなる
 脳の情報の遮断が広範囲に広がると自発性の低下が起こる。

(5)急に怒ったり泣いたり笑い出したりする
 感情失禁といって感情をコントロールできない不安定な状態になる。泣いている顔で笑うといったことも起こる。

 以上のチェックに当てはまる場合、すぐに主治医に相談し、神経内科や脳神経外科などを紹介してもらおう。

第59回日本糖尿病学会年次学術集会

[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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