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2015年06月24日
糖尿病医療はこの50年で大きく進歩 第75回米国糖尿病学会(3)
50年間の糖尿病医療の進歩を振り返るシンポジウムが、第75回米国糖尿病学会(ADA)で開催された。糖尿病の医療は進歩しており、「糖尿病の完治」の実現が待たれている。
50年間のインスリン療法の進歩
HbA1c7.0%未満を維持すれば糖尿病合併症を防げる
HbA1cとは、赤血球中のタンパクであるヘモグロビン(Hb)に糖分がどのくらい結合しているかを示す指標で、過去1〜2ヵ月の平均的な血糖値を反映している。HbA1cの測定原理約50年前に発見され、精度の高いHbA1c測定法が確立されてから30年がたつ。
「DCCT」という大規模臨床研究で、HbA1c7.0%未満を維持していれば、糖尿病合併症を防げることが明らかになった。その後も多くの大規模臨床試験で、HbA1cが血糖コントロールの指標として有用であることが確かめられている。
HbA1cは検査前数日間の食事や運動などの生活習慣の影響はほとんど受けず、糖尿病を早期に発見できる可能性が高い指標であり、糖尿病の診断基準のひとつになっている。
「この10年間で、より簡便な検査でHbA1c値が分かるようになり、より多数の人が検査を受けるようになりました。糖尿病は初期には自覚症状に乏しいため、検査を受けなければ発見できず、重症化してから発見される患者さんは少なくありません。HbA1c検査をさらに普及させる必要があります」と、ホワイトハウス氏は述べている。
糖尿病の治療を続けて50年 合併症は予防できる
アルベルト アインシュタイン医学校のマイケル ブラウンリー氏は、医師であると同時に、8歳の時に1型糖尿病と診断された患者でもある。「大学の医学部に入学した当時は、糖尿病の人の寿命は40〜50歳ぐらいだと考えられており、医療に従事するのは難しいと言われたこともあるという。
「私はそうした統計値を過去の遺物にし、糖尿病患者が健康で長生きできるようにするために、臨床と研究の道に進みました」と、ブラウンリー氏は言う。
いまでは糖尿病の治療は進歩しており、糖尿病患者が天寿を全うすることは珍しいことでなくなった。適切な治療を行えば、健康に長生きできることが証明されている。
「糖尿病は年間に数十億ドルもの研究費が使われている公的な課題です。私は糖尿病を発症してから50年がたち、いまでも低血糖やケトアシドーシスに悩まされることはありますが、腎臓病や網膜症、心臓病などの合併症は起きていません」。
血糖コントロールのレガシー効果
良好な血糖コントロールが、網膜症、腎症、神経障害といった細小血管合併症を抑えるために必要であることが分かったのは、1,400人以上の1型糖尿病患者が参加し1993年に終了した「DCCT」という大規模臨床研究の成果による。
「DCCTによって糖尿病治療にパラダイムの転換が起こりました。血糖コントロールを続けていれば、健康な人と同じように寿命を確保できることが分かったからです。DCCTの終了後に行われたEDICでは、さらに重要なこともわかりました」と、ブラウンリー氏は指摘している。
「DCCT」の終了後に約11年間観察した「EDIC」という臨床研究が行われた。強化インスリン療法をしないで10年間治療しその後強化インスリン療法に切り替えた集団と、最初から強化インスリン療法を行った集団を比較した。
その結果、DCCT終了後に緩めの血糖コントロール群と同じ程度の血糖コントロールになったとしても、10年後の細小血管合併症の発症率は、最初から強化療法を行った集団の方が4割低下することが判明した。
良い血糖コントロールの効果は糖尿病合併症に対して、長期的にみて次第に効果があらわれてくる。早い時期からの良好な血糖コントロールは、長期的な合併症の抑制効果があることから、この長期的な影響は「レガシー(遺産)効果」や「メタボリックメモリー」と呼ばれている。
認知症やアルツハイマー病を予防
「現在、糖尿病の治療に使われている薬の種類は増えています。30〜40年前に開発されたものも使われていますが、糖尿病の治療効果を高める薬は1970年代に比べるとはるかに多くなっています。今後の10年で糖尿病の治療はさらに進歩すると予測されています」と、ポルト氏は言う。
「同時に新たな課題も見えてきました。この10年で糖尿病がアルツハイマー病などの脳の神経変性疾患にも関連していることが分かってきたのです。インスリン抵抗性が原因で脳内のエネルギー代謝が悪化した結果、神経細胞が減少して脳の神経変性疾患が進行すると考えられています。このことが分かるまでに40年もの年月が必要でした」と、カリフォルニア大学のダニエル ポルト氏は言う。
血糖を調節するホルモンにはインスリン、グルカゴン、アドレナリンなどがあるが、血糖の低下に関与するホルモンは膵臓で作られるインスリンだけだ。以前は、インスリンは中枢神経系には無関係だと考えられていたが、1980年代に脳にもインスリンの受容体があることが確かめられた。
ジョンズ ホプキンス大学が1万3,000人以上の平均年齢60歳の住民を対象に20年間の追跡調査では、血糖コントロールの不良な2型糖尿病患者や予備群は、脳の老化スピードが速いことが明らかになった。血糖値に問題がない人と比べ、少なくとも5年分の差が生じるという。
今後の研究の積み重ねにより、糖尿病と認知症やアルツハイマー病の関連性について解明がさらに進み、発症を遅らせたり止めたりする新たな治療法の開発につながる可能性がある。
糖尿病の治療を続けて80年 自分に合った治療を求めて
次の50年の目標は「糖尿病の完治」
「糖尿病と合併症についての膨大な量の知見が蓄積されているにも関わらず、我々にできるのは、どうすれば糖尿病を上手に管理できるかを知ることだけだ。求められているのは、糖尿病を完治するための治療です」と、米国糖尿病学会(ADA)のチーフ研究者のロバート ラトナー氏は言う。
「次の50年で重要なステップとなるのは、1型糖尿病と2型糖尿病の両方の発症メカニズムを完全に解明し、予防法を開発することです。血糖コントロールを最適化し、低血糖のリスクを最小に抑え、糖尿病合併症を発症する可能性があること自体を歴史の遺物に変えられるよう、治療・開発のための研究を今後も続けます」と強調している。
50 Years of Diabetes Research and Treatment(米国糖尿病学会 2015年6月6日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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