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2015年06月24日
糖尿病医療はこの50年で大きく進歩 第75回米国糖尿病学会(3)


インスリンは51個のアミノ酸からなるホルモンだ。1型糖尿病の治療を開始された当初は、ウシやブタの膵臓から採取した動物インスリンしかなかった。初期のインスリンは精製が不十分で、注射には、ガラスの注射器および針を煮沸消毒して繰り返し使用され、太い針と製剤の不純物混入のためかなりの痛みを伴っていた。
1980年代に遺伝子組み換え技術が進み、健康な人から分泌されるインスリンと同じアミノ酸の並び方でつくられたヒトインスリン製剤が開発された。ヒトインスリン製剤の登場により、アレルギー反応などの副作用は激減した。
同時に、頻回注射による強化インスリン療法が主流となり、簡便なインスリン注入デバイスも開発された。また、カートリッジ交換の必要がないプレフィルドタイプの注入器が開発された。使い捨ての注射針だけを取り替えて空になれば注入器ごと廃棄するという簡便性から、現在はインスリン治療の主流となっている。
2000年代に入り新しいタイプのインスリン製剤、インスリンアナログ製剤が登場した。ヒトインスリンのアミノ酸配列に人工的な変更を加えた製剤で、インスリンと同じ生理作用を持ちながら薬物動態が改善されている。この製剤の登場により、インスリン療法をより快適に行えるようになった。
現在使用されているインスリン製剤は、作用発現時間や作用持続時間により、主に(1)速効型、(2)超速効型、(3)中間型、(4)混合型、(5)持効型溶解の5種類がある。患者にもっとも適した製剤を適切に注射することで、高い治療効果を発揮できるようになっている。
「DCCT」という大規模臨床研究で、HbA1c7.0%未満を維持していれば、糖尿病合併症を防げることが明らかになった。その後も多くの大規模臨床試験で、HbA1cが血糖コントロールの指標として有用であることが確かめられている。
HbA1cは検査前数日間の食事や運動などの生活習慣の影響はほとんど受けず、糖尿病を早期に発見できる可能性が高い指標であり、糖尿病の診断基準のひとつになっている。
「この10年間で、より簡便な検査でHbA1c値が分かるようになり、より多数の人が検査を受けるようになりました。糖尿病は初期には自覚症状に乏しいため、検査を受けなければ発見できず、重症化してから発見される患者さんは少なくありません。HbA1c検査をさらに普及させる必要があります」と、ホワイトハウス氏は述べている。
「私はそうした統計値を過去の遺物にし、糖尿病患者が健康で長生きできるようにするために、臨床と研究の道に進みました」と、ブラウンリー氏は言う。
いまでは糖尿病の治療は進歩しており、糖尿病患者が天寿を全うすることは珍しいことでなくなった。適切な治療を行えば、健康に長生きできることが証明されている。
「糖尿病は年間に数十億ドルもの研究費が使われている公的な課題です。私は糖尿病を発症してから50年がたち、いまでも低血糖やケトアシドーシスに悩まされることはありますが、腎臓病や網膜症、心臓病などの合併症は起きていません」。
「DCCTによって糖尿病治療にパラダイムの転換が起こりました。血糖コントロールを続けていれば、健康な人と同じように寿命を確保できることが分かったからです。DCCTの終了後に行われたEDICでは、さらに重要なこともわかりました」と、ブラウンリー氏は指摘している。
「DCCT」の終了後に約11年間観察した「EDIC」という臨床研究が行われた。強化インスリン療法をしないで10年間治療しその後強化インスリン療法に切り替えた集団と、最初から強化インスリン療法を行った集団を比較した。
その結果、DCCT終了後に緩めの血糖コントロール群と同じ程度の血糖コントロールになったとしても、10年後の細小血管合併症の発症率は、最初から強化療法を行った集団の方が4割低下することが判明した。
良い血糖コントロールの効果は糖尿病合併症に対して、長期的にみて次第に効果があらわれてくる。早い時期からの良好な血糖コントロールは、長期的な合併症の抑制効果があることから、この長期的な影響は「レガシー(遺産)効果」や「メタボリックメモリー」と呼ばれている。
「同時に新たな課題も見えてきました。この10年で糖尿病がアルツハイマー病などの脳の神経変性疾患にも関連していることが分かってきたのです。インスリン抵抗性が原因で脳内のエネルギー代謝が悪化した結果、神経細胞が減少して脳の神経変性疾患が進行すると考えられています。このことが分かるまでに40年もの年月が必要でした」と、カリフォルニア大学のダニエル ポルト氏は言う。
血糖を調節するホルモンにはインスリン、グルカゴン、アドレナリンなどがあるが、血糖の低下に関与するホルモンは膵臓で作られるインスリンだけだ。以前は、インスリンは中枢神経系には無関係だと考えられていたが、1980年代に脳にもインスリンの受容体があることが確かめられた。
ジョンズ ホプキンス大学が1万3,000人以上の平均年齢60歳の住民を対象に20年間の追跡調査では、血糖コントロールの不良な2型糖尿病患者や予備群は、脳の老化スピードが速いことが明らかになった。血糖値に問題がない人と比べ、少なくとも5年分の差が生じるという。
今後の研究の積み重ねにより、糖尿病と認知症やアルツハイマー病の関連性について解明がさらに進み、発症を遅らせたり止めたりする新たな治療法の開発につながる可能性がある。

注射針が細く短くなり痛みをほとんど感じなくなったことや、HbA1cの目標値ができたこと、血糖測定器が小型になり検査に必要な血液量がより微量になったこと、新しいインスリン製剤が登場し、より快適に治療を行えるようになったことなど、80年近い療養生活ではさまざまな変化があった。ハムさんは糖尿病網膜症の治療を受けたことがあるが、それ以外には合併症を発症していない。
「インスリン注射と血糖自己測定を毎日行っていると、ときどき治療を忘れそうになることがあります。それを防ぐために、シンプルな工夫をしています」と、ハムさんは言う。インスリン注射に使用した使用済みの針と血糖測定のチップを紙コップに入れて、自分がその日に注射と測定を何回行ったか分かるようにしているのだという。
「歳をとって忘れやすくなってきて、例えば注射をしようと思っていて、電話がかかってきて遮られて、そのままになることがあります。そんなときは紙コップを見て、何回目の注射であったかを確認します。単純な工夫とお思いでしょうが、私には役に立っています」。
「糖尿病の治療は長く続きます。若い糖尿病患者さんは、注射が不要になるインスリンポンプ療法の普及など、今後も医療の進歩の恩恵を受ける機会がたくさんあると思います。でも、自分に合った治療のやり方を身に付けることがもっとも役に立ちます」と、ハムさんは指摘する。
「次の50年で重要なステップとなるのは、1型糖尿病と2型糖尿病の両方の発症メカニズムを完全に解明し、予防法を開発することです。血糖コントロールを最適化し、低血糖のリスクを最小に抑え、糖尿病合併症を発症する可能性があること自体を歴史の遺物に変えられるよう、治療・開発のための研究を今後も続けます」と強調している。
50 Years of Diabetes Research and Treatment(米国糖尿病学会 2015年6月6日)
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