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2013年07月31日
2型糖尿病患者の重症低血糖発作が心血管病のリスク上昇と関連
国立国際医療研究センター糖尿病研究部
網膜症、腎症、神経障害(細小血管症)や、心筋梗塞、脳卒中(大血管症)などの「合併症」は、生命予後や生活の質(QOL)を脅かす要因となる。血糖をしっかり下げれば、こうした合併症を予防できる。しかし、血糖値をただ下げれば良いというわけではなく、低血糖を避けながら、無理なく血糖を低下させる計画的な血糖コントロールが重要と考えられている。
2型糖尿病における心血管合併症の抑制を目指した大規模介入試験である「ACCORD試験」が米国やカナダで行われた。標準治療群(HbA1c平均値 7.5%)に比べ、強化治療群(HbA1c平均値 6.4%)で総死亡が約22%増加するという結果が2008年に発表され、世界的に注目された。それまで、血糖値を低くコントロールすれば糖尿病合併症を抑えられると考えられていたので、逆に死亡が増えてしまったのは想定外だった。
ACCORD試験の強化治療群に参加した糖尿病患者では、HbA1c目標値が6.0%未満と低く設定されており、その後の研究で、厳格な血糖管理により「重症低血糖」が高い頻度で起こっていたことが分かった。低血糖は糖尿病治療でしばしばみられる合併症であり、良好な血糖コントロールを実現する上で大きな障害になる。ACCORD試験では、重症低血糖が心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントを誘因したために総死亡が増加した可能性があった。
重症低血糖の心血管病リスクに及ぼす影響をランダム化比較試験で検証することは不可能なので、研究チームは、観察研究におけるバイアスの程度を定量的に評価するバイアス分析を行うことで、重症低血糖が心血管病の危険因子となるかどうかを調べた。
その結果、重症低血糖と心血管病リスクの上昇とは関連しており、低血糖を起こすことなく、厳格なコントロールを達成することが、死亡率を減らし、心血管イベントを抑制する上で重要であることが示唆された。
主な結果は次の通り――
- 重症低血糖は0.6〜5.8%の頻度で発生していた。
- メタアナリシスの結果、重症低血糖の心血管病リスクは2.05倍(95% 信頼区間 1.74-2.42)であることが明らかになった。全6件の研究において、重症低血糖は心血管病リスク上昇と関連していた。
- バイアス分析では、併存する重篤疾患が重症低血糖と心血管病リスクの双方にきわめて強く関連していない限り、重症低血糖は心血管病リスク上昇と関連することが示された。

【発表雑誌】
雑誌名:BMJ
論文名:Severe Hypoglycaemia and Cardiovascular Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis with Bias Analysis
掲載日:7月30日(英国標準時間)に掲載
著者:後藤 温、Onyebuchi A. Arah、後藤 麻貴、寺内 康夫、野田 光彦
責任著者:野田 光彦
http://dx.doi.org/10.1136/bmj.f4533
関連情報
重症低血糖時の危機的状態を解明 国立国際医療研究センター
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