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2013年06月12日
膵島移植 副作用なく拒絶反応を抑える治療法を開発 福岡大など
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インスリンを作る膵島細胞を糖尿病患者の肝臓内に移植する「膵島細胞移植」は、インスリン注射を不要にし、糖尿病を完治する治療法として、全世界で約700例の実施例がある(2000年〜2012年)。しかし、膵島細胞の提供者(ドナー)の数が限られており、膵島細胞の不足が深刻な問題となっている。
また、膵島細胞を移植してから数時間で早期拒絶反応が起こり、移植した膵島細胞が破壊されるため、1人から採取した膵島細胞すべてを移植しても治療効果を得られず、2〜3回の移植(2〜3人分)を1人に移植しないと治療効果を得られないという課題がある。

HMGB1は通常は細胞の核内にあるが、細胞が破壊され細胞外に放出されると、樹状細胞やマクロファージが感知し、自然免疫の働きが起こる。
研究チームは今回、移植された膵島細胞からHMGB1が放出されるメカニズムを解明することで、早期拒絶反応を抑える技術開発に道筋をつけるのに成功した。
移植直後の膵島細胞は新たに血管ができるまで低酸素状態にさらされ、そのことが引き金となり、膵島細胞膜にある「ナトリウム・カルシウム交換輸送体(NCX)」を介してカルシウムが細胞内に流入し、HMGB1が放出されることを発見した。
移植前の培養中に阻害剤を添加し、この交換輸送体をブロックした後に移植したところ、カルシウムは膵島細胞に流入せず、移植膵島障害を抑えられた。結果として、HMGB1は放出されず、早期拒絶反応が起こらないことが確かめられた。
この方法は、従来の免疫抑制剤のように移植を受けるレシピエントを対象にした治療法ではなく、移植するドナー膵島を標的にし拒絶反応を制御する方法なので、副作用はなく、安全で体にやさしい治療法となるという。
なお、研究グループは、ヒト膵島を糖尿病マウスに移植した実験での有効性も確認しており、実際のレシピエントへの膵島移植での効果を期待できるとしている。
研究成果は、福岡医学部再生・移植医学の安波洋一教授と理化学研究所統合生命医科学研究センター免疫制御戦略研究グループの谷口克グループディレクターらによるもの。詳細は、米国移植学会誌「American Journal of Transplantation」(オンライン版)に掲載された。

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