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2012年09月21日
DPP-4阻害薬 1日1回で毎食後高血糖を改善する薬剤も登場
2型糖尿病の新しい治療薬として注目を集めるDPP-4阻害薬。9月10日に、国内5番目となるDPP-4阻害薬「テネリア」(一般名:テネリグリプチン)が発売された。都内で9月14日に田辺三菱製薬と第一三共が共催したメディアセミナーでは、講師を務めた門脇孝先生(東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授)は、DPP-4阻害薬について、これまでの糖尿病治療の課題であった効果と安全性の両立を実現し、患者のコンプライアンスの向上と相まって、大きな治療効果をもたらすと期待を示した。
テネリアは、インクレチン分解酵素であるDPP-4の選択的阻害薬。インスリン分泌を促す作用のあるインクレチンを活性化することで、血糖値をコントロールする。DPP-4阻害薬は、これまでにジャヌビア、グラクティブ(一般名:シタグリプチン)、エクア(同ビルダグリプチン)、ネシーナ(同アログリプチン)、トラゼンタ(同リナグリプチン)が発売されており、今回承認されたテネリアは日本で5番目のDPP-4阻害薬となる。 テネリグリプチンの主な特徴としては、(1)1日1回の経口投与で、朝食後から夕食後まで、24時間持続した血糖コントロールが可能である、(2)腎臓と肝臓の2つのルートで排泄されるので、腎機能や肝機能が低下した患者にも使いやすい──などが挙げられる。
2型糖尿病治療の課題を克服
2型糖尿病の薬物治療では、血糖値が十分に下がらないという不満と、その一方で血糖値の下げすぎによる低血糖を起こす心配という矛盾した課題や、血糖値が適切に下げられても体重が増えてしまうという課題があった。患者は、適切な血糖値のコントロールに加え、低血糖と体重増加という2つの悩みを抱えており、それがアドヒアランスを悪くし、結果的に血糖値が正常値まで下がらないという悪循環になっていた。
糖尿病の原因としては、膵β細胞の減少やインスリン分泌の低下のほかに、同じ膵臓にあるα細胞からグルカゴンというホルモンが過剰に分泌されていることが分かってきた。グルカゴンが過剰に分泌されると、肝臓で作られるブドウ糖が増え、血糖値が上昇する。
このグルカゴンの分泌を抑制し、インスリンの分泌を促進させるのが、インクレチン(GLP-1)という消化管から分泌されるホルモンだ。一方で、GLP-1はDPP-4という酵素によって効果が弱められてしまう(不活化)という問題があった。そこで、この酵素DPP-4を阻害することで、GLP-1が不活化されるのを抑えることが考えられた。これがDPP-4阻害薬の作用機序だ。
インクレチンには、血糖値が高いとき以外には、インスリンの分泌を促進しないことから、低血糖を起こしにくいという大きな特徴がある。また、食後に血糖値が上昇すると、血糖依存的にインスリン分泌を刺激し、食後血糖を下げる。DPP-4阻害薬は治療薬としての大きく期待されている。
最初のDPP-4阻害薬が2009年に発売されてから2年以上が経過し、現在は約200万人の患者がDPP-4阻害薬を服用しているという。多くの症例でDPP-4阻害薬がHbA1cを1%近く下げると報告されている。
DPP-4阻害薬の効果と安全性の両立
インクレチン関連薬はこれまでになかった新しい作用機序を有する薬剤であるため、思わぬことが起こる可能性もある。実際にDPP-4阻害薬が使われはじめた段階で、SU薬にDPP-4阻害薬を併用した場合に、治験の段階ではみられなかったような重症低血糖が、高齢者を中心に認められて問題となったことがある。
このような症状は、とくに高齢の患者や腎機能の低下している患者で、高用量のSU薬を服用している場合に多くみられた。こうした患者にDPP-4阻害薬を併用するときには、SU薬を減量するなどの慎重な対応が求められている。
日本糖尿病協会『インクレチンとSU薬の適正使用に関する委員会』が2010年に行ったインクレチンとSU薬の適正使用勧告後(関連記事)、問題となった重篤な低血糖をきたした患者報告数は急速に減少したという。
食事・運動療法が基本であることは変わらず
門脇教授は、DPP-4阻害薬は「特に日本で多いインスリン分泌が低下している“アジア人型糖尿病”に有効ではないか」としている。DPP-4阻害薬は単独療法としては多くの2型糖尿病患者にとってのファーストチョイスとして考えられると述べた。
そのうえで、「DPP-4阻害薬は新しい作用機序の薬なので、的確・適正に使用する、使った場合には効果があることを個々の症例について丁寧に確かめ、安全性にも十分配慮しながら、データベースの構築や臨床研究を積み上げることが大切だ」と強調した。
「DPP-4阻害薬が登場しても、糖尿病の治療の基本に変わりはない。まずは食事療法と運動療法をきちんとやることが大切となる。薬物療法で、インスリン抵抗性が強い場合にはインスリン抵抗性改善薬を、インスリン分泌が低下しており高血糖が顕著な場合にはSU薬やインスリンといったように、医師は個々の症状に合わせて治療薬を選択している」と門脇教授は説明した。
「DPP-4阻害薬を開始して3〜4ヵ月が経過すると、一部の患者で治療効果が失われていく症例がある。詳しくみてみると、体重が増加したり、食事・運動療法がうまくいっていない患者であることがわかってきた。DPP-4阻害薬はそうした患者でも有効性を発揮する薬剤ではあるが、患者が安心してしまい、食事と運動が十分でなくとも効くと誤解してしまうと、十分な効果を得られないおそれがある」と注意を促している。
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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