ニュース
2011年08月19日
アジア人に多い「肥満ではないのに糖尿病」 遺伝子で解明 熊本大
2型糖尿病についてアジア人が共通してもっている「肥満をともなわない」などの特徴を解明するメカニズムを、熊本大学大学院生命科学研究部の富沢一仁教授(分子生理学)らのグループが解明した。研究は米医学誌「Journal of Clinical Investigation」オンライ版に発表された。
日本人の糖尿病発症のメカニズムは欧米人と異なる
2型糖尿病は、インスリン分泌能の低下に、インスリン抵抗性(細胞でインスリンの効きが悪くなること)の増大が加わり、インスリン作用が不足した結果、高血糖になり発症する。
発症には、食べすぎや運動不足、肥満などの生活習慣の他に、遺伝的な要因も大きく関わっている。生活習慣が同じであっても、糖尿病を発症しやすい人とそうでない人に分かれる。
糖尿病のなりやすさは民族によっても異なる。日本人を含むアジア人では、それほどの肥満でなくとも2型糖尿病を発症する人が多い。ブドウ糖負荷試験を行うと、欧米人では糖負荷後にインスリン分泌量が急速に増えるのに対し、アジア人ではインスリンの分泌量が少ない、分泌が遅れるなど共通した特徴がみられる。
日本人の病態に合った治療法が必要
【医療の進歩】 関連トピック
アジア人が共通してもっている「インスリン分泌が悪い」、「肥満をともなわない」、「インスリン抵抗性が少ない」という特徴がもたらされるメカニズムを、熊本大学大学院生命科学研究部の富澤一仁教授(分子生理学)らの研究グループが解明した。研究は米医学誌「Journal of Clinical Investigation」オンライ版に発表された。
「CDKAL1」という遺伝子が正常であると、膵臓でアミノ酸が円滑で正確に組み合わされてインスリンが作られるが、CDKAL1をなくしたマウスに高脂肪食を与えると、肥満にならずに糖尿病を発症することを実験で突き止めた。
CDKAL1は日本人を含むアジア人の2型糖尿病ともっとも関連のある遺伝子のひとつで、この遺伝子に変異があるとインスリン分泌が悪く、糖尿病になりやすいことが分かっているという。
これまでの研究で、2型糖尿病に関連する遺伝子を解析する大規模な疫学調査が行われ、日本人での糖尿病発症リスクとCDKAL1の一塩基変異多型(SNPs)の関連性も確かめられた。
富澤教授は「2型糖尿病では欧米人も日本人も基本的には同じ治療薬が使われている。主流となっているのはインスリン分泌を促進する薬剤だが、今後は、日本人の病態により合致した、長期的に膵臓にダメージを与えない治療法の開発も必要となる」と指摘している。
Decoding infidelity linked to Type 2 diabetesDeficit of tRNALys modification by Cdkal1 causes the development of type 2 diabetes in mice
Journal of Clinical Investigation, August 8, 2011, doi:10.1172/JCI58056
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
医療の進歩の関連記事
- 糖尿病の治療を続けて生涯にわたり健康生活 40年後も合併症リスクが大幅減少 最長の糖尿病研究「UKPDS」で明らかに
- インスリンを飲み薬に 「経口インスリン」の開発が前進 糖尿病の人の負担を減らすために
- 楽しく歩きつづけるための「足のトリセツ検定」をスタート 糖尿病の人にとっても「足の健康」は大切
- 「糖尿病網膜症」は見逃しやすい 失明の原因に 手遅れになる前に発見し治療 国際糖尿病連合などが声明を発表
- 1型糖尿病の根治を目指す「バイオ⼈⼯膵島移植」 研究を支援し「サイエンスフォーラム」も開催 ⽇本IDDMネットワーク
- 最新版にアップデート!『血糖記録アプリ早見表2024-2025』を公開
- 糖尿病と高血圧のある腎不全の男性を透析から解放 世界初の「異種移植」が成功
- 糖尿病の人の足を守るために 気づかず進行する「足の動脈硬化(LEAD)」にご注意 日本初の研究を開始
- インスリンを産生するβ細胞を増やすのに成功 糖尿病を根本的に治す治療法の開発に弾み 東北大学
- 週に1回注射のインスリンが糖尿病治療を変える 注射回数を減らせば糖尿病の人の負担を減らせる