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2011年05月19日
良好な血糖コントロールが高齢患者の合併症を予防 HbA1c低値ではリスク上昇
- キーワード
- 糖尿病合併症
高齢者の糖尿病に関する新しい研究で、良好な血糖コントロールを維持することで心疾患、下肢切断、腎症といった糖尿病合併症を予防できることがあらためて確かめられた。しかし同時に、糖尿病治療にともなう極端な低血糖は、逆に死亡の危険性を高めるおそれがあることも示唆された。
HbA1c値が上昇すると非致死的合併症のリスクが増大
この研究は、米国の主なる医療保険であるカイザーパーマネントに加入している60歳以上の2型糖尿病患者7万人以上を対象に、2004〜2008年に行われたもので、米国糖尿病学会(ADA)が発行する医学誌「Diabetes Care」2011年6月号に発表された。
米シカゴ大学のElbert Huang氏らは、ベースラインでのHbA1c値と、その後の急性代謝疾患、細小血管性疾患、心血管性イベントなどの合併症、および死亡を含むアウトカムとの関連を評価した。60歳以上(平均年齢71.0±7.4歳)の参加者のデータをもとにした。
糖尿病治療の目標は、血糖の良好なコントロール状態を維持し、健康な人と変わらない生活の質(QOL)と寿命を得ることにある。「血糖コントロールが不良で高血糖になっている患者では、死亡と糖尿病合併症が高い割合で起こることがあらためて確かめられた。同時に、極端な低血糖が起きている患者でも、死亡リスクがゆるやかに上昇することが示された」とHuang氏は話す。
米国の最新の治療ガイドラインでは、糖尿病患者の血糖値をなるべく低くコントロールすることを推奨している。血糖コントロールの指標となるのは、過去1、2ヵ月の平均血糖値を示すHbA1c値。糖尿病のない人ではHbA1c値は4〜6%におさまるが、糖尿病の人では6%以上の高値になる。
「1998年の英国の研究ではHbA1c値が7%*未満になると良好な結果になることが示唆されたが、この研究では高齢の患者は含まれていない。高齢者の血糖コントロールをどのように改善すれば良いのかを確かめるために、多くのエビデンスが必要となる」とカイザーパーマネント研究所のAndrew J. Karterは話す。
*このHbA1c値は国際標準値で示されたもので、日本で使われているJDS値に0.4%加えた数値に相当する。すなわち、研究で示された「HbA1c7%」は、日本では「6.6%(JDS値)」になる。
2008年に発表されたACCORD研究は、厳格な血糖コントロールを集中的に行った高齢患者で、予想に反して死亡率が上昇することが示され研究は中止され、糖尿病医療に課題が投げかけられた。
今回の研究に参加した患者の平均HbA1c値は7.0±1.2%だった。非致死性のそれほど深刻でない合併症のリスクは、HbA1c値が6%を超えるにつれ増加傾向を示した。
血糖値と死亡率の間には、U字型の関連性がみられた。HbA1c値が6〜8%の間で死亡率は低かったが、血糖コントロールが不良で10%以上になっている患者ではもっとも上昇していた。6%未満の患者でも死亡リスクが上昇する傾向がみられた。
「今回の研究で、HbA1c値を6〜8%未満にコントロールすると中間的に良好であることが示された。60歳代、70歳代、80歳以上の患者で同様のパターンがみられた」とHuang氏は言う。
研究者らは「今回の研究は観察研究であり、無作為化比較対照試験ではないので、今後より多くの研究を行い確かめる必要がある」としている。「原因が低血糖自体にあるかはまだ明白ではない。原因が血糖コントロールにあるのか、それ以外の糖尿病治療に関連する要因があるのかを解明しなければならない。死亡リスクの高かった群で初めに低血糖が示されたことは、それが直接的に関与しているとの判定はできないまでも、注意が必要となるだろう」とKarter氏は説明する。
「高齢者の合併症と死亡リスクは、HbA1c値が8%を超えた後に対照群に比べ有意に増大した。合併症を予防し死亡率を最小限にとどめるために必要な血糖閾値が示唆された。今後の研究で、極端にHbA1c値が低い群でなぜ死亡リスクが上昇する傾向があるのか、メカニズムを解明する必要がある」とKarter氏は付け加えている。
Elderly diabetes patients with very low glucose levels have slightly increased risk of death(シカゴ大学医療センター 2011年4月18日)Glycemic Control, Complications, and Death in Older Diabetic Patients
Diabetes Care, Published online before print April 19, 2011
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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